第118話
デスワームの襲撃に備えて警戒をするも音沙汰はなく幌馬車は順調に進んでいた。
日も傾け始め暑かった気温が少しだけ下がった気がする。
「あと数時間でナハルヴァラに着くぞ。気を抜くなよー」
グラディウスさんの声が響く。
僕が耳を傾け聞いていると夏樹が肩を指でつんつんとしてくる。
「兄貴、大きな石のアーチがみえ……あ、あれあれ」
夏樹から双眼鏡を渡され、指差す方を見ると確かに大きな石で出来たアーチがそびえ立っていた。
ちらほらとプレイヤー達も見える。
「あれがどうかした?」
「あれさえ潜れば敵モンスターは追って来れないんだよ」
「そうなんだ」
「ルキもみる!」
ルキに双眼鏡を渡すと僕の真似をして双眼鏡を覗いた。
「見える?」
「うん! おおきないしとにょろにょろがみえる!」
「「にょろにょろ?」」
僕と夏樹は頭の上にはてなマークを浮かべる。
ルキから双眼鏡を返してもらいお互いに見るけどにょろにょろらしきものは見つからなかった。
「なんかの見間違い?」
「うーん、どうだろう……」
「ルキみたもん! セイリュウみたいなにょろにょろしたのみたの!」
「ギャア?」
ルキに呼ばれたと思ってセイリュウは返事をした。
セイリュウみたいににょろにょろ? それって……
「どうしたのフロスト?」
「グルル!」
アカネさんの召喚獣のフロストが突然威嚇し始める。
僕の頭に乗っていたゲンブと左腕に巻き付いていたセイリュウは僕から離れ元の大きさに戻っていく。
「全員戦闘態勢――うおっ! なんだ!?」
突然、立てないぐらいの激しい地面の揺れが起き、あっちこっちで砂が盛り上がってデスワームの小さいのが大量に出てくる。僕は急いで鑑定した。
デスワームの眷属……デスワームの恐怖により支配された個体。どれもレベル50。まともに相手したらこっちが不利だ。それに、どこにもデスワームの姿が見えない。
そう思っているとゲンブとセイリュウが光りだす。
「ガーメ!」
「グラァ!」
ゲンブとセイリュウはそれぞれの範囲魔法を唱え眷属を吹き飛ばし道を開けていく。
「今のうちだ! 馬を走らせろ!」
「は、はい!」
直ぐに立ち直ったグラディウスさんの指示で幌馬車は動きだんだんとスピードが上げていく。
近寄ってくる眷属を遠距離攻撃で対応つつ、その間をかいくぐってさらに接近してきた眷属は《剛腕の戦士》達が対処する。
「もう少しでアーチだ!」
《剛腕の戦士》のメンバーの一人がそう叫び前を向くとアーチが見えてくる。その向こう側から沢山の武装したプレイヤー達が走ってくる。
「面白いことしているぞ! 俺達も混ぜてくれ!」
「早い者勝ち!」
「一匹でも多く倒して熟練値を上げるぜ!」
援軍……というよりも色んな目的で来てくれたようだ。戦力が増えて僕は胸を撫で下ろす。
「ウ、ウィル……うまとめて……!」
僕の手を強く握りしめてルキが言う。
「はやくとめて! おねがい!」
今にも泣き出しそうになるルキを夏樹に預けて御者の所に行く。
「御者さん、馬車を止めてください」
「は!? 何を言っているんですか! そんなこと出来ませんよ!」
「おい、あんちゃんふざけたことを言ってんじゃねぞ!」
筋肉隆々のメンバー二人に取り押さえられた。
「一刻も早くアーチを潜らないといけないの何を言っているんだ! ばかなのか!?」
グラディウスさんから罵倒が飛んでくる。その時、更に一段と地面が揺れるとアーチの前方の砂が大きく盛り上がると鋭い歯が見えた瞬間、その上にいたプレイヤー達を巻き込んで巨体の何かが突如現れ、プレイヤー達を丸吞みにして行く光景が目に入った。咄嗟に御者が止め幌馬車は動きを止める。
いち早く気を戻した僕は緩くなった拘束を振り解き、御者の元へ。
「早く動かしてください!」
「で、でも……」
すっかり尻込んでしまった御者。
「僕達が絶対守ります!」
僕は真っ直ぐな目で御者を見つめると瞼を一回閉じてから僕を強い眼差しを向ける。
「わかりました」
御者は手綱を持つと馬を走らせ、目の前の巨体から遠ざけた。
その間に鑑定すると、こいつの正体はデスワームだった。
最初に会った時よりもさらに巨体になっていたのだ。
「あんなの無理だ……」
「倒すなんて不可能だ……」
今の光景を見て《剛腕の戦士》のメンバーは意気消沈してしまったようだ。
グラディウスさんに視線を向けると逸らされてしまった。
まぁあの光景を見たら誰でもなってしまうよ。プレイヤーはHPが無くなっても復活できるけども、NPC達は違う。ここは何としてでも守り切らないと。
「夏樹、僕達で何とかしよう」
「えぇ……正直に言うと今すぐに逃げたいけど、兄貴がやるって決めたんなら付き合うよ。ゴッドクラスが二体もいるんだし何とかなるっしょ」
「あら、やっぱりゴッドクラスだったのね」
ひょこんと夏樹の後ろから顔を出すアカネさん。
「気付いていたんですね」
「ほとんど感だったけどね。あなた達が戦うなら私もやるわよ?」
「ありがとうございますアカネさん。とても心強いです」
「ふっふっふ、任せなさい!」
アカネさんは胸を叩いて言い切った。




