第117話
HPが無くなって横たわってピクリとも動かないデスワーム。普通なら消えてドロップアイテムを落とすけど、デスワームは消えていない。頭を傾げているとグラディウスさんは舌打ちする。
「ちっ、分裂スキルも持っていたか。クソ……逃げられた」
「どういうことですか?」
グラディウスさんは教えてくれた。
分裂スキルはデスワームの中でも稀にしかないスキルで体を半分に分けるスキルだ。そのスキルを使って砂から出ている胴体を囮にしている間に、もう半分が逃げたようだ。
それだと討伐扱いにならず、ドロップアイテムも出ないそうだ。
「もう一度狙われるってことですか?」
「可能性はある。……幌馬車は今のところ無事だ。急いで戻るぞ」
かなり先を行っている幌馬車に残していたメンバーに確認をするグラディウスさん。
「戻るって言っても、私は早く走れて、ウィリアム達は召喚獣に乗って早く移動できるけど、あなたはどうするの? まさか走って行くの?」
手を腰に添えてアカネさんが尋ねるとグラディウスさんがゆっくり顔を向けてくる。
「ごめんなさい、流石にグラディウスさんを乗せれないかと思います。けど、敏捷力が上がる魔法使えるんで速く動けるようにはなります」
「本当か!? 頼む、掛けてくれ!」
僕はグラディウスさんに敏捷力が上がる魔法を唱える。
「おお! 力がみなぎってくるようだ!」
グラディウスさんは歯を剝き出して一歩踏み出すと砂煙を立てながら走っていった。セイリュウがいる時に使うと段違いだな。
「なにあれ!? 私にも掛けてよ!!」
アカネさんにもせがまれてパーティーに入れた後唱えると楽しそうにグラディウスさんの後を追っていった。
「あの人、早いな~。負けてられねぇ……兄貴、俺にも!」
「はいはい」
先を猛スピードで走っている二人を追い駆ける夏樹。
「みんな、いっちゃったね」
「そうだね。セイリュウ乗せてくれる?」
見上げて滞空しているセイリュウに尋ねると頷き地上に降りてくれて乗せてもらい僕達も移動した。
三人よりも少し遅れて幌馬車へ辿り着きセイリュウから降りるとグラディウスさんが近付いてくる。
「あんた! いや、ウィリアム! 俺達のクランに入らないか?」
グラディウスさんは僕の肩を掴み勧誘してくる。
「ごめんなさいグラディウスさん。お断りします」
頭を下げ僕は勧誘を断る。
「おい、あんた! リーダーの誘いを――」
「よせ。まぁいい。気が変わったらいつでも言ってくれ」
そう言ってグラディウスさんは仲間を引き連れて御者の方に歩いて行く。
「私、どこにも所属していないから入ってもいいかしら? あなた達のクランに」
「はっ?!」
黙って聞いていたアカネさんが突然僕達のクランに入れて言ってくる。
「ダメに決まってんだろうが!」
「あら、なんでリーダーでもないあなたが決めるのかしら? 私はウィリアムに聞いているのよ?」
「うっ……」
アカネさんに言いくるめられ夏樹は黙ってしまう。
「どうかしら?」
「このクランには誰も入れる気はないんです。ごめんなさい」
「あら、残念。仕方ない諦めるわ」
でも、とアカネさんは続ける。
「あなたとはまた遊びたいからフレンド申請してもいいかしら? それぐらいは良いでしょ?」
「それは構わないですけど」
アカネさんから申請を承諾してアカネさんとフレンドになった。
その時、グラディウスさんが戻ってくる。
「予定通りこのままナハルヴァラに向かう。デスワームからの襲撃が予想されるから常に動けるようにしとけよ」
グラディウスさんの話を聞いた全員が頷く。
セイリュウを小さくさせてから幌馬車に乗り、前と同じ配置に就くとナハルヴァラに向けて動き出した。
砂漠を見ていると夏樹が話しかけてくる。
「兄貴、あのさ」
「ん?」
「……やっぱ、なんでもない」
「なんだよ……?」
「何でもない。少し寝るから警戒任せてもいい?」
「了解」
夏樹は腕を組み瞼を閉じる。
そんな夏樹にルキがちょっかいを出そうと腕を伸ばす。
「ルキ、寝かせてあげて」
「ん? うん!」
ルキは腕を戻すと頭を僕の方に傾け鼻歌をする。
デスワームのおかげでナハルヴァラまでの距離は大分短縮したけどまだまだ先は長い。早く着けばいいなと内心思うのだった。




