第116話
「グラディウスさん、あいつと戦うんですか?」
かなりのスピードを出している幌馬車内で夏樹が尋ねた。
「このままナハルヴァラまで逃げ切れないしな。ただ、このまま戦っても勝ち目がない。俺達が戦っても問題ない広さと安定している足場があればいいんだが……」
前方を見ても砂しかないのにそんな場所あるのかと考え込んでいるとアカネさんが口を開く。
「なければ作ればいいのでは?」
「何を簡単に……」
アカネさんは突然僕の肩に腕を回してくる。
「ウィリアムの召喚獣で砂を水で濡らして、その上から私の召喚獣で更に固めれば問題わよ。どうかしら?」
グラディウスさんはデスワームを見た後僕を見てくるので頷く。
「よし、それで行こう」
「じゃあ、俺が囮役やるんでそのうちに準備しておいて下さい」
夏樹は抱っこしているルキを僕に渡し囮役を買って出る。
「兄貴、セイリュウをお願い」
「……無茶すんなよ?」
「わかってるよ!」
夏樹は駆け出して外に飛び出す。タイミングを合わせてセイリュウを召喚して夏樹は背に飛び乗りデスワームの方に飛んでいく。
「お、おい……今のはいったい……」
グラディウスさんは腰を抜かして驚いていた。他の人たちも同じ反応だ。
「僕の召喚獣です」
その時ルキが目を覚まし瞼を擦る。
「あれ……? ナツは?」
「夏樹なら今戦っているよ」
夏樹に視線を向けるとセイリュウと連携してヒット&アウェイを繰り返してデスワームの気を引いて動きが止まっていた。
「ルキもいく!」
言うと思っていたので僕は苦笑してしまう。
「じゃあ約束守ってね?」
「うん!」
ルキをしっかり抱え僕も外へ飛び下りる。衝撃を和らげるために魔法を使おうと思っていたらゲンブが代わりに使って水球に覆われ難なく着地をする。
「ちょっと! 抜け駆けはずるいわよ!」
アカネさんもフロストとも華麗に着地をする。
「お前ら、こっちは任せたぞ!」
「「「リーダー! ずりぃーーー!」」」
幌馬車をパーティーメンバーに任せて立ち直ったグラディウスさんも飛び下りた。
ゲンブはルキの頭から浮き上がり、元の大きさになりながら地面に降りる。
「色々聞きたいことはあるけど今はあいつね。頼んだわよ!」
「聞かれても答えませんよ。【四神の領域・海嘯】」
僕の足元から大量の水が沸き上がり波を起こし広がって行く。
巨体のデスワームを巻き込む程の範囲を使った為、こちらに気づくがすぐに夏樹とセイリュウが攻撃して気を逸らす。
「後は頼みましたよアカネさん!」
「任せなさい!」
アカネさんは獣の姿勢を取るとフロストは光の粒子になりアカネさんに吸収されていく、すると、アカネさんの白い光を発しながら足元が凍っていた。
「凍りなさい!」
アカネさんから更に強い光が発せられると濡れた部分は一瞬にして凍り付いた。
これがアカネさんの実力凄いな。
「これでいいでしょ?」
地面を踏みしめて沈む事も、凍っているから滑ると思っていたけどそんなことはなかった。
「問題ねぇ!」
そう言ってグラディウスさんは巨大な斧を構えながら駆け出した。
デスワームは急に地面が凍り付いたことに戸惑い潜ろうとするも硬すぎて潜れず、体をくねらせるも動けないでいる。
そんなデスワームにグラディウスさんは一撃を入れ緑色の体液が飛び散るもデスワームのHPはほんの少ししか減っていなく、直ぐに再生してHPが戻る。
「っち!」
デスワームは体を大きく動かし叩きつけるも、ギリギリでグラディウスさんは後退して躱す。
「あの再生スキルは厄介ね。なんかいい手は無いの?」
「そう言われても……試しに傷口を凍らせてみる、とか?」
「やってみるわ」
一瞬でデスワームに近付いて氷の爪でダメージを与える。ダメージ量的に少ないがデスワームのHPは再生されなかった。
「アカネさん! 再生止まりました!」
「分かったわ!」
調子を上げたアカネさんは次々と攻撃を加えていく。
「兄貴ー! 火の付与魔法をー!」
セイリュウに乗って上空で様子見をしている夏樹が要求してくる。
僕は付与魔法を唱えると、夏樹の刀身が黒い炎が纏われ、セイリュウから飛び降り、体を回転させて縦に斬っていく。焼かれた箇所は再生されることはなかった。どちらも有効のようだ。
デスワームは悲鳴を上げながら体を大きく揺らして攻撃していた三人は後退する。
「おい、アンタ。俺にも付与魔法をくれ」
「パーティーメンバーにしか付与出来ないのでパーティーを一旦解散してください」
「……解散した。早く入れてくれ」
デスワームを見据えてグラディウスさんをパーティーに入れ、直ぐに付与魔法を使うと斧が黒い炎が纏う。ニヤッと笑いグラディウスさんは駆け出す。
僕は三人のサポートしつつ、隙を見つけて攻撃を加える。
そして、かなりの時間をかけてデスワームのHPを削り切った。




