第110話
部屋の奥に進むと青色と桃色の暖簾が視界に入る。
なんで普通の部屋の奥に暖簾があるのか疑問に思っていると女王が言う。
『お主はそっちだ。我らはこちらだ』
「あの、温泉は別々……ですよね?」
『何を言っておるのだお主? 温泉は混浴だろうが』
女王は満面の笑みで言いきった。
「はい……」
僕は諦めて青色の暖簾をくぐり脱衣所に入って装備を外して、アンダーパンツの状態になる。
一応腰にタオルを巻いて、温泉に続く扉を横にスライドさせると満開の桜に囲まれている露天風呂が視界に広がる。
『良い景色だろ?』
「はい、綺麗、で……っ!」
後ろから女王に声を掛けられ振り向くと出会った時の姿で僕は顔を前に向き直す。
「興奮しているのかい? ウィル」
ちらっとアテムアさんをみて直ぐに視線を戻す。
なんで、アテムアさんもアンダーパンツとシャツだけなんだよ! てか、スタイル良すぎ!
「さ、温泉に入りましょう」
アテムアさんの言葉をさらっと流して洗い場に向かおうとすると小さな手が僕の手を掴む。
「ウィルまって! かみあらって!」
「わかった……けど、その格好はどうしたの?」
ルキのアンダーは黄色の水玉模様の柄になっていた。
「にあう?」
「うん、可愛いよ」
「えへへ……!」
ルキは後ろにいる二人にピースを送る。やっぱりあの二人か。
小さい木製の椅子にルキを座らせて髪を洗う。意外とルキの髪質が柔らかくて驚いた。
「流すよ~」
「うん!」
ゆっくりとお湯を頭に掛け洗い流す。
ルキは手で顔を拭いて目をパチパチと瞬きさせる。
「あとは体を洗うだけだからね」
「うん! あ、ルキもウィルのかみ、あらう!」
立ち上がったルキはニコニコしながら言う。
「え、じゃあ……どうぞ」
ルキがやりやすいように僕は頭を下げる。
桶にお湯を溜め頭に掛け優しく洗うルキに小さい頃に夏樹にしてもらった事を思い出す。
懐かしいな。今度夏樹と銭湯でも行こうかな~
そんなことを思っていると脇腹を突っつかれビクッとなる。
「ルキ、脇腹弱いんだから突っつかないで」
「ルキじゃないよ?」
「え?」
ルキの両手は僕の髪を洗っている。てことは。
「アテムアさん? それか女王?」
そう言った途端、左右から何度も突っつかれ、止めようと目を閉じた状態で手を伸ばすと柔らかいのを掴む。恐る恐る目を開けると女王の豊満な胸を掴んでいた。
「ご、ごめんなさい!」
僕は急いで離して土下座をする。
『人の子は胸を好むと聞いておる。気にしておらぬぞ?』
「それも、なんだか……違うって言うか……」
女王は立ち上がり湯舟に浸かった。先に入っていたアテムアさんとお酒を交わしている。
僕は手を閉じたり開いたりしているとお湯を頭から掛けられた。
「掛けるなら一言いってよルキ。まぁありがとな」
「ん?」
「なんでもない。早く体を洗おっか」
「うん!」
ぱぱっと体を洗って僕達も湯舟に浸かる。久しぶりの温泉に顔が緩む。一緒に使っているルキも顔が緩んでいる。
「気持ち?」
「うん。そっちいってもいい?」
「いいよ。おいで」
ルキを膝の上に乗せ一緒に露天風呂を楽しんだ。
アテムアさんと女王は足だけ湯舟に浸けてお酒を飲みながら話をしていた。
『お主の目的は分かった。だが、妖石を渡す訳には行かぬのだ』
「訳を聞いても?」
『言うより見せた方が早い。付いてまいれ』
女王が立ち上がり脱衣所に向かう。その後ろをアテムアさんがついて行く。
僕達も上がろうとすると女王が言う。
『お主らはまだ浸かっておれ。ペペ!』
『はい、ここに』
『我はこ奴とあの場所に向かう。そ奴らの事を世話してやれ』
『畏まりました。いってらっしゃいませ女王様』
女王とアテムアさんは脱衣所に入り扉が閉まる。
僕は女王が言っていた「あの場所」が気になりぺぺに尋ねる。
「ぺぺ、あの二人が何処へ行ったのか教えて欲しんだけど……」
『ごめんウィル。私からは言えないの』
「そっか。なら大丈夫だよ。ぺぺも一緒に温泉入ろうよ」
『うーん、羽濡れると飛べなくなっちゃうからやめとく』
「いっしょにはいる?」
ルキも同じことを聞く。ぺぺはルキの顔の近くに飛ぶ。
『ごめんね。入れない代わりに一緒にお話ししよ? えっと……ルキちゃん?』
「わかった!」
ぺぺはルキの濡れてない肩に止まる。最初にルキが質問してペペが答える。次にペペが質問してルキが答える。それを繰り返して二人は楽しそうにおしゃべりをする。
僕は二人の会話を聞きながらまったりと露天風呂を満喫した。




