8、vs世紀末な盗賊団
今回、前回までより少し長いです。
どのくらいの文量がちょうどいいのかよく分からない・・・
俺の渾身の決め台詞の直後、ハンター・盗賊両軍が俺に注目し、沈黙が訪れた。
・・・自分でも恥ずかしくなってきた。
まあ、元ネタも知らないんだし、いきなりこんな事言われても何のことか分からんよな・・・
「・・・はッ、ハハハッ!
何だこの嬢ちゃん!俺がもう死んでるってよ!」
俺が指をさした盗賊の発言を皮切りに、盗賊団から爆笑が巻き起こった。
見るからに華奢な少女の爆弾発言。多分反応としては模範解答だろう。
護衛のハンター達は焦った様子で口々に「何故出てきたんだ」「早く戻れ」と叫んでいた。
「よっしゃ!あのガキを捕まえろ!ありゃ相当な上玉だ!
俺等でたっぷり楽しんだ後闇奴隷商に売りつけんぞォ!」
ウオオォォォォォ!!と、盗賊の士気を高めてしまった。
「あちゃー・・・失敗したか?これ・・・」
そうぼやきながらも、俺は冷静さを保っていた。
というか、今の俺が我を失ってブチ切れたら比喩とかではなく皆殺しにしてしまいそうだ。
・・・この数日、俺は勢い余って人を殺すようなことがないように力の加減を練習したのである。
前世の人を殴って蹴ってしてきた経験が皮肉にも力加減のマスターを早めたのだ。
魔法も然り。こちらは恐らくだがシャルロット自身の魔力操作の才能があったのではないか。
・・・まあ、事の真相は今はいい。
とにかく俺は平穏のため、人を殺めない程度の手加減を数日でマスターしたのだった。
「ハハッ!悪いな嬢ちゃん!大人しく捕まってくれや!」
俺が最初に挑発した奴が俺に襲い掛かってきた。
両腕を封じに来たか。
そりゃそうだ。どう見ても非力な女体だ。抑え込めればどうとでもなると思うだろうさ。
俺は冷静に腹パンを遂行した。
盗賊は白目をむいて泡吹いて倒れてしまった。
ふむ。胃の内容物が逆流しない程度には手加減できたか。
次に、四方から盗賊たちが突っ込んできた。
さっきの男を見て学んだか、各々武器を構えていた。
うん。仲間の失敗からすぐさま学ぶのは良いことだ。相手が俺でなければ。
俺は三メートルほど跳躍し、盗賊たちを見下ろす。
盗賊たちだけでなくハンター達も驚愕していたが、それで終わりではない。
「『鎌鼬!!」
俺が唱えると、見えざる風の刃が盗賊達を切り刻んでいく。
因みにオリジナルで魔法名は適当。俺は想像した現象をある程度は問題なく起こせるのだ。
この世界でいう「上級魔法」程度ならかなり簡単に。
『鎌鼬』は、威力で言えば中級だがこの魔法を他人が使用しようとするなら相当な修練が必要である。そもそも中級以上の魔法を扱える人間が限られるのだ。
「「「「ギャアアアァァァァ!!!!」」」」
刃が盗賊たちのアキレス腱を的確に裂いていく。
エグいって?知らん知らん。命を取らないだけ感謝したまえよ。
俺は地上に降り立ち、元の人数の半数を切った盗賊達に歩み寄った。
流石に俺の異常性を察したのか、盗賊達は一歩、また一歩と俺が近づく度に退いていった。
そんな中、ひと際ガタイの良い人物がこちらに近づいてきた。
「・・・おいガキ。随分派手にやってくれたじゃねぇか」
この盗賊団の頭だろう。そんな感じがする。
前世の感覚は未だに生きているようだ。
「このまま降参するんなら命は取らない。そしてこちらもできるだけ殺したくない」
「はッ、人も殺したことない甘ちゃんじゃねぇか。その手には乗らねぇぞ」
・・・バレたか。
元より俺は殺す気はない。ただの脅しだ。
「・・・お前の実力は分かった。
だが、手ぶらで帰っても『あの方』から殺されるんでな。ちょいと卑怯に行くとするぜ」
そう言って頭の男が手を挙げると、女性ハンター二人を拘束した比較的ガタイの良い盗賊が出てきた。
「人質か・・・卑怯な」
「だから言ったじゃねぇか。こいつ等解放してほしけりゃ服脱いで俺達に大人しく捕まっとけ。
たっぷり調教してから売りさばいてやるよ」
・・・最善の作戦だろう。
俺は仲間や友人、困っている人間は見捨てない。前世でも気の弱そうな中坊からたかっていた輩をシメたとか、そういう経験はたんまりある。
俺の頭は沸騰寸前だった。人質をとるようなタマの小さい人間は大嫌いだった。
だが俺はかろうじて理性を保ち、怒りに震えながら自分の服に手をかけた。
すると拘束されている女性ハンターが
「し、従っちゃダメ!貴女は何とか逃げなさい!」
・・・あぁ。
怒りで震えていたのだが、そうか。
他人から見たら恥辱と恐怖で震えているように見えるよな。
俺は構わず服を脱ぎ、下着姿になった。
「・・・これでいいだろ。さっさとその人達の解放を・・・」
「おいおい、服は全部脱げって。何仕込んでるかわかったもんじゃねぇからなぁ」
「・・・・・・」
盗賊の頭も先程の狡猾なクズの顔ではなく女を見る卑しい男の顔だった。
女性ハンター二人が何か言っている。俺を止めようとしているのだろうか。
頭の中が煮えたぎった俺には届かない。
俺は下着まで脱いだ。もちろん上下。
一糸纏わぬ華奢な身体と程よく実った果実。
本来親しい仲でも中々見せない生まれたままの姿がそこにあった。
残った盗賊どもから卑しい歓声が上がる。
「解放を・・・」
「まぁ待て。おい、やれ」
命令された盗賊の一人が縄で俺の腕を後ろ手に縛った。
・・・魔力が抑えられる感覚。この縄、そういう魔道具か?
それを見て勝利を確信したか、盗賊の頭は二人を解放した。
「いいザマじゃねぇか、ガキ」
「・・・」
頭の男が俺の身体を舐めるように見つめてくる。気持ちが悪い・・・
「「「うおおぉぉぉ!!!」」」
流石にもう傍観はできなかったのか、動けるハンター達が頭の男に突っ込もうとしていた。
「やめてください」
「「「!?」」」
俺はそのハンター達を制止した。
俺ならともかくこのハンター達では最悪殺される。
それくらいにはこの男は強い。これは事実である。
「潔いじゃねぇか。嫌いじゃねぇよ」
「・・・無駄な犠牲を減らしただけだ」
「随分と余裕じゃねぇか。何時まで続くだろうな?」
「あ・・・ッ!!」
数人の盗賊が俺を囲み、全身を撫で繰り回してきた。
俺の身体を形容しがたい感触が襲った。
・・・その瞬間、拒否反応からか今まで辛うじて残っていた脳内の導火線が焼き切れた。
ブチッ・・・という音がした。
それは別に比喩でも何でもない、現実の音。
俺を拘束していた魔道具らしき縄が千切れたのだ。
それを見た盗賊の頭は驚愕した。
(あれは『あの方』の魔道具・・・
あの状態で魔法は行使できねぇ・・・
ってことは、あの怪力は魔法による身体強化ではなく純粋なあのガキの力・・・!?)
「・・・『太陽核』」
俺が呟いた瞬間、俺を中心に炎のドームが形成され、俺を弄んでいた盗賊達は悲鳴を上げる間もなく灰となった。
「なっ・・・」
「・・・悪ィな。テメェらやっぱ皆殺しだわ」
「「「「ヒッ・・・!?」」」
俺の顔は酷い物だっただろう。
目は据わり、口角が不気味に上がる。
前世の俺が『切れ』た時の表情はこの美少女フェイスでも相手の恐怖を煽るようだ。
俺が天を突くように腕を上げると、周囲の天候が大きく変わり始めた。
「・・・終わりだ。『神雷鎚』!」
直後、天が光ったかと思うと数百の雷撃が地面に降り注ぎ、盗賊団を一人残さずこの世から追放した。
上級魔法すら凌駕する威力のこの魔法は後に『神域魔法』と呼称されるのだが・・・
それは遠い未来のお話である。
―――――あるハンターは語る。可憐な女神のその威容を。
―――――あるハンターは語る。少女の姿を借りた破壊神の所業を。
これが後に多く語られるシャルロットの打ち立てた伝説その1であった。
この出来事を境に、ハンターギルドに目を付けられるなど、まだ知る由もなかった。