5、力の覚醒
ピリピリとした朝食を終え、俺は屋敷の中庭に向かった。
呼ばれたのは俺一人だったはずだが、兄四人もついてきた。
中庭に着いたらそこには・・・
「お初にお目にかかります、シャルロット嬢。
私、元王国騎士で現在は騎士の養成を生業としている、セルバンテスと申します。それと・・・」
「・・・魔法学校の教師をやってる、マギアです」
二人の人物が出迎えてくれた。
一人は初老のガタイの良い男、もう一人は如何にも研究者然としたローブを纏った女性。
二人ともシャルロットの記憶にはない人物だ。
その隣に、父レイマンが立っていた。
「・・・父上、この方々は?」
「ふむ・・・お前も学院では座学だけでなく剣と魔法も試験があることは知っているだろう?」
「はい・・・あ、もしかして」
「あぁ、お前は座学だけでも十分合格だろう。
だが、その他も基礎くらいはできるに越したことはないだろう?
だから少しの間だが剣と魔法の訓練をしてもらおうとな」
「「「「シャルに武器は似合わないだr」」」」
「お前たちは黙っていなさい」
レイマンが一言で4バカを制すると、使用人が動きやすい服と鎧、木剣を持ってきた。
どうやら着替えろということらしい。
さて、着替えるとするか・・・
その場で服を脱ごうとした瞬間、
「「「「「ちょいちょいちょいちょい!!!」」」」」
今度は父上にも突っ込まれた。
「な、何故ここで着替えようとする!?」
「え、何故って・・・あっ」
そういえば今は女だった・・・
前世ではそういうのに抵抗の無い系男子だったし。
・・・因みに、本当に自分の身体を見ても何も思わない。
いや、俺めっちゃ可愛いじゃんとかは思う。
だが自分の裸を見ても興奮なんてしなかった。他人のは分からんが。
・・・どう言い訳をしようか。
「さ、先程、クリスト兄様に・・・その、下着姿を見られたのでもういいかなって」
自分でも思う。何の理由にもなっていない。だが狙いはそこではない。
「「「何ィィィィィ!?」」」
バカ兄共の煽りである。
「貴様クリストォ!本当なのか!?」
「ち、違う兄上!誤解だ!」
「嘘だ!シャルは嘘をつく子じゃないだろう!」
「この・・・羨ま・・・けしからんわァ!!」
・・・大成功である。すまないクリスト。
ギャーギャー騒ぐ兄達には退散していただき、近くの更衣室で着替えて出てきた。
「・・・シャル、今のは・・・」
「・・・兄様達を追い出すための作戦です」
モヤモヤした空気の中、訓練は開始された。
まずは剣・・・セルバンテスとの訓練だ。
「・・・準備はよろしいですかな?」
「はい、お願いします!」
俺とセルバンテスは向かい合い、互いに木剣を構える。
もちろん、俺のは見様見真似である。
「私の剣を可能な限り避けるか受けるかしてください。では!」
セルバンテスがこちらに突っ込んでくる。
(・・・避けきれない)
直感的にそう思い、自分の木剣を相手の剣の軌道を読んで受ける構えをとった。
(・・・あ、この体で受けきれるのか・・・?)
前世の俺だったら、相手も手加減はしているだろうし受けきれるだろうが・・・
ぎぃん!!
二振りの木剣がぶつかり合う。
・・・思っていたより遥かに軽かった。
というか、腕に衝撃さえ来なかった。
「・・・あの、そこまで手加減されなくても・・・」
そう言った直後、セルバンテスが驚愕の表情をした。
何かおかしなことでも言っただろうか?
「・・・本気で行きますよ」
そう言うとセルバンテスは先程とは段違いのスピードで下段から上段へと斬り上げてきた。
俺は何とか木剣を構え受けようとした。しかし・・・
バキッ、という音を立て俺の木剣が折れた。
「なっ・・・」
俺は驚いて一歩下がろうとした。
・・・同時にセルバンテスも驚愕した。
(・・・折れた?馬鹿な・・・!?
弾くのではなく、折る!?
どれだけの腕力・・・今の本気の一撃を少女が仰け反りもせず受けたというのか!?)
セルバンテスは文字通り本気だった。
その斬り上げは生半可な威力ではない。
武器折りの技だったが、普通の少女に放ったならば腕が耐え切れず剣を手放すはずである。
それをなっていない型の構えで受け、仰け反りもせずに剣が折れた。
つまりは、目の前の少女の膂力が自分より圧倒的に上だという証明である。
自分が上回るのは技のみ。
その事実がセルバンテスに騎士のプライドを思い出させた。
「・・・おおっ!!」
セルバンテスは容赦なく本気で斬りつけた。
「く・・・っ!」
俺は咄嗟に右腕を防御のために出し、直後にしまったと思った。
(マズい・・・!これは腕折れる!)
ゴッ・・・と鈍い音を立て、セルバンテスの木剣が華奢なシャルロットの腕を折・・・る事はなかった。
代わりに、セルバンテスの木剣が折れた。
「「「・・・」」」
俺、セルバンテス、見ていたレイマンが沈黙した。
(・・・あれ?もしかして俺、前世よりクソ強い・・・?)
俺はこの時ようやく自分の異常性を自覚したのだった。