40、仲間召喚
さて、これからどうしようか。
こいつらを差し出して向こうの行動を待つという選択肢もあるが、悪人とはいえこいつらを囮のように扱うのは気が引ける。
そしてもし相手が大規模な組織なのであれば、圧倒的に人手が足りない。
現状協力してくれそうなのはエルフたちだが、彼らを危険に晒したくはない。
問題は山積みだ。さて、何から手を付けようか……
「……シャルロット、これからどうするの?」
ルルが心配そうにこちらを見てくる。
まあ、種族全体の命運が子供一人の手にかかっているのだから、心配にもなるか。
「とにかく、ギルドマスターを探らないとな。
……と言いたいところだが、現実的じゃない。俺一人じゃあ限界がある」
「エルフにも、シャルロットさんに協力する人はいると思いますが……」
「それはつまり、エルフを人間たちの世界に引っ張り出すということだ。
亜人差別が色濃い今の状況じゃ、何が起こるかわからん。お前たちにも他のエルフにも、危険を冒してほしくない。
かといって人間が俺に協力するかといえば否だ。同じ理由でな」
……しばらく考え込んだ後、俺は賭けに出ることにした。
「は、本当にやるの? 魔物の召喚なんて……」
「ああ。もしきちんとした意思を持つ魔物が召喚できたなら、きっと役に立ってくれる」
俺は腕先に魔力を貯め、その腕を地面につける。
するとそこを中心に淡く発光する巨大な魔法陣が地面に展開。下準備は完了だ。
「……シャルロット殿、意志持つ魔物とは、すなわち強力な魔物。
そして召喚術というのは決してその魔物を自らに従属させられる魔法ではない。
酷く望み薄な賭けだぞ」
エルザが俺に忠告をしてくる。
「それはそうですが、その時はその時です。ぶちのめしてやりますよ」
「……ハハ、頼もしいな。もう何も言わないよ」
魔法陣の中心近くに、今俺は立っている。
召喚術の邪魔になるため近くに俺以外の人物はいないが、魔法陣のすぐそばで少し遠くからこちらを見守ってくれているエルザ、ルル、シンシア、ライムの四人や、少し遠くからこちらを伺う野次馬のようなエルフ達が周りにはいた。
召喚術の何たるかなど俺は知らない。
だが、やれることはやる。今までの経験から、魔法はイメージである程度どうにかなる。
「……我が呼び声に応えその姿を顕せ。『召喚』」
俺が唱えるとすぐに魔法陣の放つ光が強くなり、目を開けていられないほどになった。
俺の召喚に応じて、目の前に姿を顕したのは___
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一言で言うと、退屈だった。
この世に存在し始めてもはや数千年。
昔は、気まぐれに人間を殺した。昔、私は血に飢えていたから。
人間狩りに飽きると、次は同族を殺していった。純粋な殺し合いに興を求めて。
そんなことを続けて千年程経った頃、私に敵対する者などいなくなった。
何千、何万と殺し、魂を喰ってきた私には、無限とも思える魔力が備わっている。
私に匹敵する存在など、もはや人間にも、同族にもいまい。そう、思っていた。
いつも通り、無為に日々を次元の狭間で過ごしていると、全身に悪寒が走った。
だが、決して気分の悪いものではない。むしろ私は高ぶった。
誰かが、私を喚んだ。自分自身と同等、いやそれ以上の質と量を感じたのだ。
数百年ぶりに、私は感情を表に出した。
『楽しみだ』と___
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___俺の目の前に現れたのは、最初は不定形の黒い塊だった。
しかしその塊は徐々に姿を変え、俺に跪く執事服に白髪の若い男性の形をとった。
「召喚に応じ参じました、デュークと申します。
……クク、末永くよろしくお願いしますね? 我が主よ」
「ええーと……では、デューク。我が従魔として、励めよ」
「はっ、了解いたしました」
……思ったんと違う。もっと揉めたりするかと思ってた。
というか、コイツの種族って何? この男性の姿が実際の姿ではないのは明らかだし、かといってその辺にポンポンといて良いような存在じゃない。ヤバい雰囲気をビンビン感じる。
魔法陣を消滅させ、改めて周囲を見ると、野次馬のエルフ達だけでなく、常に冷静そうなエルザさえも目を見開き口をパクパクさせていた。
「あ……悪魔召喚……!? 今の術式でそんな、バカな……!!」
悪魔!? そ、そうか、悪魔か。
言われてみればそんな雰囲気する。
「……確認だけど、デュークは悪魔?」
「まあ、広義での種族としては相違ないかと。一つ訂正するとすれば、私が『悪魔公』だという点ですね」
「で、悪魔公か……」
嫌な予感がしてエルフの反応を見ようと周囲を見渡すと、もはや全員顔から生気が抜け落ちていた。
「で、悪魔公……? 伝説上の存在が何で?」
「悪魔公・デュークって……神話にも登場してる悪魔の名前じゃなかった?」
「は、はは……まさか。もしこれが夢じゃなかったら俺はもうこの世にいない」
「クク、私が神話に? 私が昔、自分の身の程も知らずに女神モルガナに挑んだ件でしょうかねぇ?
いやぁ、あの時ばかりは本当に消えてなくなるかと」
……あ、あのエルフ失神した。
想像の100倍ヤバいヤツ召喚しちゃった。
神話クラスの化け物とか信じたくないんだけど。そんで何でその化け物が俺に忠誠を誓ってんの?
「で……悪魔公・デュークというのは、神話上の……いや、神話にも登場した、最強の悪魔を指す名だ」
若干冷静さを取り戻したエルザが、俺に解説してくれている。
万の人を殺し、万の同族さえも滅した、数多の国を潰した怪物。
その純粋な力は竜さえ凌ぎ、その力をもって女神に挑んだが女神の持つ数多の権能の前に敗北し、その時に完全に消滅したと伝えられていた。
「人の事を勝手に殺さないでほしいですね」
若干機嫌を悪くしたのか、デュークは説明を終えたエルザを睨みつけた。
エルザは、蛇ににらまれた蛙のように、怯えてガッチガチに固まっていた。
二人の反応から見て、この話は全て事実らしい。信じがたいことに。
「……呆れた。まさかデュークを召喚しちゃうなんてね」
いつの間にか近くに来ていたティアが、デュークを見て言う。
「貴女は……ああ、お久しぶりですね。クク、竜まで従えていらっしゃるとは。流石は我が主です」
「え、何。お前たち知り合いなの?」
「ええまあ、昔」
「お前らの言う昔って絶対俺らと単位違うよね?」
「いえいえ、たったの千年弱ですよ」
「それ、人間の寿命の10倍以上あるって知ってる?」
「まあ、何はともあれ、私はシャルロット様に従うため参上したのです! ご命令を!」
いやにノリノリでデュークが仰々しく言う。
まあ、確かに目的があって呼び出した訳だし、とりあえず目的を話すか……
「えっと……亜人族を差別するよう仕向けている何者かがどこかにいる筈なんだ。
それを探し出すのに協力してほしい」
一瞬、デュークはキョトンとしたような顔をしながら、
「それは、アムゼンを殺せということでしょうか?」
「……アムゼン?」
「ああ、失礼いたしました。アムゼンとは悪魔の名ですよ。
ちょっとばかり精神系魔法に精通しておりましてね。国一つの人間すべての思考誘導程度なら可能ですよ。十中八九、シャルロット様の仰っているのは、奴の能力でしょう」
「そ、そんなこともわかるのか?」
「いえ、ただ単に普通の人間には不可能な芸当なので。大方、人間に召喚されたアムゼンがやっているのでしょう。奴は見返りさえあれば人間にも従いますよ」
「……そういうデュークも人間に従ってるんだけど」
「いえいえ、シャルロット様は特別ですよ。何せ力がある。我々は力に酔う種族なのですよ」
まさかの、犯人特定。コイツ有能すぎん?
ともかく、やることは決まったな。そのアムゼンとやらを見つけ出し、シメればいいわけだ。
いや、そのアムゼンを召喚した人間にも用はあるか。
……気づけば、もう辺りは暗い。行動は明日からだな。善は急げだ。




