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37.一矢報いる能はず

エルフの隠れ里。

この世界のどこかにある、エルフ族が隠れ住む土地。

世界のあらゆる場所から魔法門ゲートが繋がっており、そこから出入りして人間から隠れながら狩猟などをするらしい。人間によるエルフの目撃は、この時鉢合わせる場合がほとんどだ。


「……」

俺は、そんなエルフの隠れ里の一角にある、蔦のような植物でできた檻に身ぐるみを剥がされて入れられていた。しかも野次馬にすっごい見られる。

「……いや、警戒するのはいいけどさ、仮にも女子を素っ裸にするのはどうかと……」

「黙れ!! お前たちが同胞にしてきたことに比べればこのような物は辱めにもならん!!」

一体何をしたんだ人間……


俺がエルフの隠れ里に意図せず侵入してしまった後、里のエルフたちは騒ぎに騒ぎ、どうしたもんかと頭を抱えていたところ、数人の狩人らしきエルフに取り押さえられ、この現状である。

勿論、抵抗はできた。

だがここで変に暴れたらまた事態が悪化の一途をたどる気がしたので、大人しく捕まったのだ。

まさか完全に裸になるまで身ぐるみを剥がされるとは思っていなかったが……

まあ、荷物は収納魔法にしまってるから身ぐるみを剥がされてるとはいえないのかもしれない。


「……おい、この人間どうするんだ?」

「里に入られたんだ……殺すか監禁だろう」

ああ、どんどん物騒な話になってきた……まったく、どうしたものか……

俺を壁と床に固定している、植物のつるに魔法をかけているらしい手枷と足枷は鉄以上に頑丈なようだが、今すぐにでも抜け出せる。この際騒ぎになってでも逃げだすか……?


そうやって考えていると、野次馬の後方で何やら騒ぎが起きているようだった。

「ちょっと、どいて!! 通して!!」

「すみません、道を開けてください……!!」

「あーもう、何でこんなことに……!!」

この声は……あの三人か!

流石にハルカはいないか。ハルカも人間だし。


しばらくすると、人込みをかき分けてルル、シンシア、ライムが目の前まで来た。

「シャルロット大丈……うわ、裸……」

「そうなんだよ。なんとかしてくれ」

「羞恥心ゼロなの!?」

「いや、恥ずかしい。だからせめて服くれ。意外と寒いんだ」

「寒いから、が本当の理由なのでしょうね……何とも図太い」


「……というか、取られた服、あれ結構大事なんだよね。

オヤジが入学祝にオーダーメイドで作らせためっちゃ高いやつなんだよ。返してくんね?」

そう、あれは外出用のかなーりお洒落な純白のワンピースだった。女性服に慣れた今となってはとても着心地が良かったのだ。

え? 森に狩りに行くハンターの格好じゃない?

安心しろ、どれだけ汚れようが傷つこうが一瞬で直せる。

……そういう問題じゃない? そうですか。


「服を返せ? 図々しい。知っているんだ、人間に捕まったエルフの娘が慰み物になってることくらい!」

「ウチの娘も……もう3年帰ってこないのよ! 今までの犠牲がアンタ一人で清算できるなんて思ってるんじゃないでしょうね!!」

うわー……生々しい。こりゃ敵対するわ。


「皆違うの、話を聞いて! この人は人間に捕まった私たちを助けてくれたの!」

「そうです! ごく一部かもしれませんが彼女のような人間も……」

「目を覚ましなさい! 君たちは騙されてる!」

……このままだと、ルルやシンシアの隠れ里での立場が危うくなるかもしれない。

弁護してくれるのはありがたいが、それはこの里では異端。地球でも、少数派が排斥されるなんてよくあることだった。現代でさえ。

エルフ同士で対立しては、それはもうおしまいだ。

仕方ない……ヘイトを少しこっちに向けよう。


「おやおや、か弱い少女一人を監禁するのに、身ぐるみはがした上でその武装ですか?

エルフっていうのは随分臆病らしいですね!」

「何だと……!!」

檻の番をしていた狩人らしきエルフが俺の挑発に乗った。

ルル達三人は俺の『か弱い少女』発言に「はぁ?」という顔をしているが、今は無視だ。

「ほら、その弓と矢で私を殺すなり、私で獣欲を満たすなりやってみなさい! やれるものならなぁ!」

「クソ……! バカにしやがって!!」

俺の挑発に乗り、先程のエルフに加え、数人のエルフが俺に向けて弓を構え、矢をつがえた。


「ちょ、ちょっと待ってよ! 何でシャルロットも挑発するの!」

「……ルル、退きましょう。彼女は私たちを気遣って……」

「わかってるわよ! だからって見捨てられるわけ……!!」

エルフたちが弦を引き絞り、放とうとしたその瞬間、

「待て! その者に手出ししてはならぬ!!」

よく通る凛とした女性の声が俺たちの耳に届いた。


「……族長!!」

「エルザ様……!?」

人の波が割れ、そこを悠々と歩いてくる美しい女性エルフ。

「……アンタが族長? 意外だな。もっとこう、ちんまい爺さんがやってると思ってた」

「フ、つい20年前まではそうだったよ」

先程俺を攻撃しようとしたエルフも、その手を降ろし族長を見ていた。


「さて、私はエルザ。ご存じの通り、我々エルフの長だ。

まずは謝罪を。里の者が粗相をしたようだ。申し訳ない」

そう言ってエルザは俺に頭を下げた。

これには俺もビックリ。エルフはもっとビックリ。

「族長!! なぜ頭を下げるのです!! コイツは……」

「人間だな。それがどうした、謝罪をしてはいけないと?」

「で……ですが、人間は……!!」

「そのような態度が良くないと常々言っているではないか。

せめて礼節を持てと。でなければ我々も人間と同類になるぞとあれほど」


……別に人間と友好的に、という感じではないな。だが話は通じそうだ。

「……エルザ殿。貴女のその姿勢に敬意を表しましょう。私の話を聞いていただいても?」

「ああ、構わぬ。……まあ、大方の話は既に耳に挟んでいるのだが」


「……で、解放はしていただけると?」

「ああ。まあ、場所を変えてもう少し事情を聴いた後で、ということになるがよろしいか?」

「ええ、構いません。ありがとうございま……」

俺の言葉の途中に、先程俺の挑発に乗った狩人エルフが再び俺に向けて弓矢を構えていた。


「何のつもりだ、リデル。私の話を聞いていたのか」

「エルザ様……! 俺は限界なんですよ!!

姉さんは攫われ行方不明、妹も人間に見つかって、無事助け出されたが……人間の男に犯されてた!

そんな人間が貴女と対等に話しているのを見るのは我慢ならない!」

「……」


流石にかける言葉が見つからない。酷すぎる。どこの世界にもクズっているんだな。

「……その矢一本。その一矢のみ彼女に放つことを許可する。

無駄だとは思うが……それでいいか、シャルロット殿」

「ちょっ、エルザ様」

「良いでしょう。貴女の意図を分からせてやりましょう」

「シャルロット!?」

ルルの言葉をさえぎって俺は言った。

エルザは恐らく、俺の力に勘づいている。それ故の警戒。それ故の態度。

俺の機嫌一つでエルフが全滅しかねないとでも思っているのだろう。俺にそんな気はないが。

だから、これもデモンストレーションのつもりで許可したのだ。俺もその意思を汲むとする。


「ちょっとリデル、シャルロットは貴族の娘なのよ!

もし殺さなくても、傷つけたりしたら人間との関係がさらに……」

「貴族? 上等だ、いつもやられてることをやり返せるいい機会だ」

リデルは怒りに震えながらも、正確に俺の頭に狙いを定めている。

そしてその矢は放たれ、植物の格子を抜け、俺の顔面に……


ガキン、という音を立て、矢は俺を貫く前に止まった。

俺はやじりを咥えた口を見せつけ、リデルに向かってニッと笑って見せた。

「なっ……バカな、エルフの剛弓で放たれた矢を口で止めるなど……!!」

俺は器用に咥えた矢を首のスナップを使って上に放り、再び口で矢のはずの部分を咥え、それを果物の種を飛ばす要領で飛ばす。

矢は植物の格子を切り裂き、リデルの頬を掠めて飛んでいく。エルフの剛弓とやらよりもずっと速く。

リデルは腰が抜けたのか、膝をついて動かなくなった。他のエルフも同様だ。


「……言ったであろう、無駄だと。

彼女自身、トラブルになるのを避けるためわざと捕まったのだ。我々など赤子の手を捻るように殺される」

「嫌ですね、殺しませんよ。そちらが危害を加えない限り。

まあ、貴方方に危害を加えられるほど私はやわではないので安心してください」

そう言って、笑いながら手枷足枷を引きちぎる。

俺はできるだけ優しい笑みを作ったつもりだったが、逆に恐怖を煽ったらしい。皆顔面蒼白だ。


……さて、服を返してもらうとしよう。


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