36.魔法銃と狼とエルフと
銃声に反応したのか近寄ってきた魔物達は、狼の姿をしていた。群れなのか、20匹程だ。
灰色と白の毛並みが美しく、素人目にもこれは素材として良い物だと感じた。
……というか、森に普通に狼とかいるんだな。いや、魔物だけども。
「森狼……の群れのようね。
一匹一匹はそこまで強くないけど、群れで獲物に襲い掛かるから初心者にとっては荷が重い魔物ね。
毛皮はよく人間たちの間で取引されるみたい。あんまり傷つけるのは得策じゃないかも」
ルルがそう教えてくれた。意外と物知りなんだな。
「良く知ってるな……魔物に詳しいのか?」
「ま、まあね。コイツらは森の魔物だし、元々森に住んでる私たちは詳しいのよ」
「ルルはそれ抜きでもよく勉強してるもんねー。努力家だもん」
「へえ……意外だな」
「どういう意味!?」
魔物に囲まれているにも関わらず呑気な会話をする俺達。
俺を含め、目の前の狼には引けを取らないという自信からだろう。
そうこうしているうちに、しびれを切らしたのか狼の一匹がこちらに飛びかかってきた。
そしてそれを合図にするかのように、他の狼も一斉に襲い掛かってくる。
「来た! 多分大丈夫だろうが、一応油断はするなよ!
ハルカは危険だからこっちに……」
言いかけてハルカの方を向くと、ハルカも戦闘態勢をとっているではないか。
「大丈夫。私も戦えるから」
断言されてしまった。確かにかなりの高位魔法である瞬間移動を使えるんだし、攻撃魔法なんかも使えるんだろうけど……まあいいか。
「分かった。危なくなったら下がれよ!」
俺はそう指示すると、襲い掛かってきた狼の眉間に照準を合わせ___
決着はすぐに着いた。無論、俺達の勝利である。
俺は改造魔法銃、ルルとハルカは魔法、シンシアは弓でルルは肉弾戦。
これがMMORPGなんかだったら叩かれそうな程遠距離担当に偏っているように見えるが、俺は異常な反射神経と運動能力で敵に接近されてもどうとでも対処できるし、魔法も使いようによっては近距離戦もそつなくできる。シンシアに関しては完全に遠距離支援型だが、機動力がそこそこ高く器用で、後方に跳んで下がりながら魔力でできた矢を射ったりりしていた。
因みに魔法銃だが、結果的にかなり有効だった。魔法を銃弾にすることによって魔力が一点に集まり、余計なダメージを与えずにあまり傷つけずに魔物を狩ることができたのだ。威力も申し分ない。
「しかし驚いたな……ハルカってこんなに強かったんだな」
「うん。初めて魔法使ったと思うんだけど、何というか、身体が覚えてたみたいな感じがした」
「あ、あれで初めて!? 私より威力高かったんだけど!?」
ルルがショックを受けた様子だ。まあそれも仕方ないか。
見た感じそもそもの魔力量がハルカの方が多いし、何故か魔力の使い方も習熟しているようだった。
ますますハルカの正体が気になるが……今はいいか。
「で、お前は何してんだよ」
俺は戦闘を静観していたティアに話しかけた。
「何って……別に私が戦わなくても危なげなかったしいいでしょ」
「いや別にいいんだが……お前が人の姿で戦ってるところ見たことないからな」
「そりゃ、元が元だし戦えるけど。戦い慣れない身体で動いたら周りの地形変わるけど、いいの?」
「……ダメだな。だが結局慣らさないとイザという時危険かもしれんぞ。
まあ……俺の剣が最初はあんま通らなかったくらいだし、防御は出来るか。
……てかお前、俺のところに来た時戦闘とか手を貸すとか言ってたろ」
「……分かったわよ。慣れる」
「……元が元とか、人の姿とか、何者なのかな、ティアさんって……」
「多分、人間じゃないよね……」
「……どうしましょう? 聞いてみましょうか?」
「「いや、いい……何か怖い」」
俺達がそれぞれのやり取りをしていると、突然空気を震わすかのような咆哮が森中に響いた。
その後、こちらに向かって巨大な何かが四本足で走ってきているような音が聞こえてくる。
「……何だ? また魔物か?」
俺が魔法銃を構えて警戒していると、ルル達が少し焦ったようにひそひそ話をしだした。
「シンシア、これって……」
「ええ……多分『彼』でしょうね。あの咆哮は……」
「ねえ、これってヤバいんじゃないの? アタシ達が人間と一緒にいる事とか、結界の事とか……」
「何だ? 何の話をしている?」
俺が訊こうとすると、三人は慌てた様子でこちらに向き直り、何でもないと誤魔化した。
……何か隠している?
「……来た!」
俺が更に問い詰めようとした瞬間、先程の森狼と比べ5、6倍の体長の全身が白い体毛に覆われた巨大な狼が現れた。
「デカい……!! ファルム大森林といいこの森と言い、事前情報と違うんだが!」
狼は俺達を一瞥すると、迷いなく俺の方に飛びかかってきた。
「チッ……仕方ない、戦るしか……!」
俺は狼が噛みついてくるのをサイドステップで回避し、そのまま狼の頬のあたりを蹴りを入れる。
……が、狼はびくともしない。かなり力を入れたんだが……
「って、うおっ!?」
狼が思いきり首を振ると、俺は吹っ飛ばされ近くにあった木に叩きつけられた。
大したダメージではなかったが、少し痛い。
……常人が受ければ運が良くて背骨の骨折、悪ければ死んでいたのだろうが。
俺がもう戦えないと判断したのか狼は攻撃対象を俺からハルカに移した。
ハルカは突然襲われ驚いていたが、何とか初撃は魔法で障壁を張ることにより防ぐ。
だが、その一撃で障壁は砕け、体勢を崩したところに狼がハルカに文字通り牙をむく。
その牙はハルカを捉え……ることはなかった。
急に狼が体勢を崩した。俺の魔法銃が狼の前脚を打ち抜いたのだ。
「ハルカ! 大丈夫か!?」
咄嗟に魔法銃を使ったが、やはり強い。威力が一点に集まって少ない魔力でも強力な弾になる。しかも銃声もしないおまけつきだ。
……あれ? ただの凶悪兵器じゃね?
狼は体勢を崩したものの、前脚に小さな穴が開いた程度ではダメージにはならないらしい。
俺に対し警戒たっぷりに睨んできた。
「……ハルカを襲おうとした罰は高くつくぜ狼ィ!!」
中身は分からないが、見た目は間違いなく実妹なのだ。
それが危険な目に遭えば兄としてこの怒りは当然のものだと思う。
両拳に魔力を集めると、拳が魔力によって禍々しい紅に変色する。
それを見て狼は俺を危険だと判断したのか、より鋭く睨みつけてくる。それを受け俺も睨み返す。
「かかってこい……!!」
狼と俺は同時に地を蹴り互いにぶつかり___
「ちょ、ちょっと待って!!」
いきなりルルが間に割り込んできた。俺は咄嗟に踏みとどまり、なんと狼までも攻撃を止めた。
「……どういうことだ? 何で狼がお前の言うことを聞くんだ?」
俺が問い詰めると、ルルは目に見えて焦る。
俺が不審に思っていると、恐らく狼のものと思われる思念波が届いてきた。
『エルフの少女よ、何故止める。そこな人間はこの森、そして里に仇なす者ではないのか』
思念波を操る魔物……思っていたよりずっと高位の魔物だったらしい。
「里……? どういうことだ」
『惚けるな。貴様ら人間たちなど信用できん。即刻立ち去るがいい』
別に敵対をやめたわけではないらしいな。
エルフの味方……というより、亜人種の味方なのか?
実際敵意をむき出しにしているのは俺とハルカにだけだ。
ティアは……本能が人間ではないと判断したのだろうか?
あれからルルが何やらずっと狼を説得している。
その間に俺はシンシアとライムから説明を受けていた。
「えっとですね……彼の名前はロボと言いまして、私達エルフの隠れ里と森の守護者なんです」
「まああの子はエルフの隠れ里の守護者なんだけど、同じような境遇の亜人種全般の味方なんだよ」
成程。つまりあの白狼……ロボは亜人種の味方であり、人間とは敵対していると?
そしてロボが亜人種の味方ということは、亜人種自体も人間に少なくとも良い感情を持っていないという事だろう。
「ん……? ということは、この森にお前らの故郷が?」
「いえ、エルフは元々魔法に長けた種族です。世界中の様々な場所にエルフの隠れ里へ続く魔法門があるのです。普通は結界に隠されていますが」
「だから、ここからでも行けるけど里があるのはもっと別のところってこと!」
「ふーん……で、結界ってこれ?」
「そうで……えっ!? 何で分かって……!?」
俺は最初から、周囲の魔力が普通より濃いことには気づいていた。
結界を見ることはできないが、感じることは出来る。魔力が最も集中している場所を探せばいい。
「しかし巧妙に隠されてるな……素人でも分かるくらいには複雑な魔法だ」
俺が何の気なしに結界とやらに触れると、ピキッという嫌な音が聞こえてきた。
「え……今の音……」
ルル達が引きつった顔でこちらを見ている。
そして俺はと言うと……
「は、ハハ……これが魔法門……かあ」
引きつった顔で目の前に現れた白く発光する楕円形の物質を見ていた。
何で!? 何で触れただけで壊れんの!?
『貴様! 何をした!!』
「うおっ!?」
ロボが背後からいきなり襲ってきて、驚いた俺は思わず魔法門の方へ跳んでしまい___
「「「……」」」
「……どうも」
俺の目の前に広がるのは自然に囲まれた質素な村。
とはいえかなりの広さがあり、目を引くのは……
「に、人間……!?」
「何故人間がここに……!?」
数多くのエルフたち。
……どうしてこうなった。




