33、ギルドマスター
大鬼に素手で風穴を開けた俺の一撃に、見物人たちはあんぐりとだらしなく口を開けて固まってしまっていた。
・・・まあ、そうだよな。
こんな細い少女の一撃がこんなに破壊力を秘めているはずないもんな。うん。俺も驚いてる。
そりゃ、「てへっ」で済まないよな。
どうしたもんかと俺が困っていると、俺の後ろから声がかけられた。
「シャルロット殿・・・でよろしかったですかな?」
俺が振り向くとそこには、かなり背の高い、四十か五十かといった風貌の男性が居た。
歳は食っているが、その鋭い眼光はただの爺さんではないことを俺に告げていた。
「はい、その通りです。・・・何か?」
「いや何、私もちょっと見物しようとしていたのですが、予想以上に終わるのが早かったのでね。
見逃してしまいましたよ。流石はあのシャルロット殿ですな」
「・・・私をご存じで? あと何者でしょうか」
「おっと失敬。私はこの王都ハンターギルドのギルドマスターをやっとるガリウスという者です。
貴女のことはとある伝手で噂を耳にしていたものでね・・・
いやはや、想像したより常識外れの方のようだ」
ガリウスは顎に手を当て、大鬼の骸を見ながら半ば呆れたかのように言った。
その後、野次馬たちがしばらくして我に返り騒ぎ始めたのをガリウスが収め、そのまま訓練場でルル達について話した。
「・・・という訳で、私たちはこの試験を受けたのですが。サーブルさんが暴走してこの様なことになった次第です。ギルドマスターさんのお考えも聞きたいのですが」
質問をする俺の後ろには、ルル達三人がハラハラした様子で控えていた。
「ふむ・・・私は一向にかまわんよ?」
えっ・・・何か一瞬で許可出たんだけど。もっと何か難癖つけられると思ってたんだが。
「意外とあっさりですね?」
「強い人材はいくらいても余計なことはないからね。確かに異例だけど、悪いことではなかろう」
話が分かる爺さんのようだ。差別意識があるのかどうかは分からないが、他のハンター達と比べればかなり度量が広い。
・・・と、俺が感心していると、案の定ハンター達から声が上がった。
「ギ、ギルドマスター!! そいつらは亜人ですよ!? 正気ですか!?」
おっと何だこの男。正気ですかはないだろ。
「何か、問題かね?」
「大問題でしょ!! 俺達は亜人なんぞと仕事はしたくねぇぞ!!」
「・・・何故君たちはそこまで亜人種を毛嫌いするのかね。
私には君たちのその考えがよく分からなんだ」
「「なっ!?」」
ハンター達から驚きの声が上がった。
かくいう俺も驚いた。ティア曰く人類は亜人種を差別しているんじゃなかったか。
ガリウスが特別なのか・・・?
「・・・それにそうか、シャルロット殿の正体を知らんのか、君たちは」
「正体・・・?」
「かのオーガスタ家のご令嬢、シャルロット・フォン・オーガスタ殿だぞ?」
その言葉に、再びハンター達が固まった。が、すぐに、
「「「「「ええええぇぇぇ!!!???」」」」」
鼓膜が破れるかと思うほどの声が上がった。
「あ、あのオーガスタ家の令嬢!?」
「オーガスタ家っていやあ、国王とも親交の深い有力貴族だよな・・・」
「やべぇ、俺達そんな子に喧嘩吹っ掛けるようなことしたのか・・・?」
いや、別に喧嘩吹っ掛けられた覚えはないんだが・・・まあ亜人種への迫害に憤っていたのも事実だけど。
ってか、ウチってそんなに凄い家だったのか。
断片的に残ってる『シャルロットの』記憶でも、あまりオーガスタ家の権威に触れるようなものはなかった。箱入りだったからなのだろうか・・・
まあ、公爵家だったし、予想はしてたんだがな。
「・・・話が逸れましたが、この三人・・・ルルにシンシア、ライムのハンターギルド登録を認めていただける・・・ということでよろしいですか?」
「ええ、それはもう。大鬼を三人で追い詰める程の実力なら文句もありません。
まあ、貴女にとっては赤子を相手取るようなものなのかもしれませんが・・・」
それを聞いて、俺の後ろに隠れていた三人も目を輝かせながら出てきて口々にお礼を言う。
「あ、ありがとうございます・・・!!」
「はっは、何もそんなにお礼を言われるようなことじゃあない。
有能な人材を確保できて、私も嬉しいのだよ。ギルドマスターとしての仕事だからね」
・・・こうして見ても、ガリウスの態度は自然なものだ。差別の感情を隠している訳でもなさそうだな。
「シ、シャルロットさん!! 本当に、本当にありがとうございました・・・!
貴女が居なければ私たちは・・・!!」
「・・・失礼な態度をとってしまったことは心からお詫びします。
・・・ほら、ライムも」
「う・・・ご、ごめんなさい。それと、ありがとう」
さっきまでガリウスに感謝していたと思っていたら、すぐにこちらに頭を下げに来た。
喜んでくれたようでなにより・・・なのだが。
「・・・心配ですね。ここはハンターギルド。戦闘に関しては素人ではない方々が多数です。
未だ反感のある方もいるようですし・・・」
俺はコソコソ陰口を叩くハンター達にガンを飛ばし軽く脅すように言った。
「む・・・そうか、彼奴らは亜人種を嫌っていたのだったか。
そこに関しては注意しろとしか・・・あのじゃじゃ馬どもを纏めるのははっきり言って無理なのだよ」
・・・意外と容赦ないな、この爺さん。
ガリウスの言葉を聞いて、少し元気をなくしてしまった様子の三人。
まあ確かに、今の今まで人間に拉致られていた三人だ。人間に対して疑念が残るのは当たり前だろう。
・・・仕方ないか。
「ところで、私のギルド登録はもう済んでいるんですかね?」
「ああ、もう貴女は正式なハンターです。珍しいといえばそうですが、貴族の方も時たまハンターとして活動しますから、そこの三人よりかは普通ですね。
・・・まあ、その若さと強さは普通ではありませんが」
「そうですか。ところで、ハンターにはパーティーというものがあるそうで」
「ええ、基本的にそのパーティーで行動します。この仕事は命の危険も常にありますからね・・・
しょっちゅう顔見知りが逝ったりするんですよ。意外とつらい物ですよ、あれは」
「・・・では、私がこの三人とパーティーを組むとして、問題はありませんね?」
「「「「なっ!?」」」」
ハンター達だけでなく、三人からも驚きの声があがった。
「・・・? 何か不満が?」
「い、いや、それは有難いんだけど・・・」
「どうしてそこまで? 私たちは亜人種なのに・・・それに、貴族と言えば裏奴隷の・・・」
「ちょ、シンシア、そこまで言わなくても・・・」
・・・信用されてない・・・という訳でもないか。単純に疑問を持ったのか?
「何故と言われても・・・ここまで関わったからには放っておけないでしょう。
それに私は亜人種が差別されていたなんて今日知りましたからね。私から言わせれば貴女たちも人間と変わりありませんよ。むしろ普通の人間より可愛らしいんじゃないですか?」
「「「!?」」」
・・・そんなに驚くことか? エルフや獣人がファンタジーの住人だった俺の贔屓目・・・でもないはずだが。というか、人間より見た目が良かったり労働とかに使いやすいから亜人種の奴隷の取引価格が跳ね上がるんだろうに。
「・・・じゃ、そういうことで、私はこの三人と組みますね。
少しは人種差別の抑止力になれればいいんですがね」
ついでに男ハンターどもからのパーティー勧誘を断る口実もできた。
俺にとってもこれは悪くないことなのだ。
ここに、一つの新しい異色ハンターパーティーが結成されたのだった。




