32、ギルドの特殊試験
とりあえず俺一人だけハンターギルドの仮登録を済ませた後、集会所に隣接する訓練場に来ていた。
そこには俺と、ルルにライム、シンシアに加え、魔法使い職らしき一人のギルド職員、それと野次馬のハンター達が集まった。
「えー・・・では、先程仮登録なされたシャルロットさんとそこのエルフと獣人の四人でこの特殊登録試験を行う、ということでよろしかったですかね?」
「はい、間違いありません」
俺はそう答え、ルル達三人にアイコンタクトをとった。
彼女たちも腹をくくったのか、それに対して小さく頷いている。
「・・・では、改めて説明いたします。私は試験官を務めるサーブルと申します。
本来ギルド登録に年齢制限以外の試験を課すことはありませんが、今回の試験はシャルロットさんの希望で力を示すため行われるものです。
内容はギルドにおける飛び級試験と同様で、私の召喚する魔物と戦っていただきます」
魔物を召喚ね・・・そういえばやったことないが、俺でもできるものなのだろうか。後で試してみるか。
・・・さて、今回の試験は俺が無双しても意味がない。彼女たちのための試験なのだから手出しは最小限だ。エルフや獣人の戦い方も見てみたいしな。
その後も少し説明を受け、俺達四人とサーブルが向かい合う。
俺が小さく頷くと、それを受けたサーブルが杖を掲げ、何やら詠唱を開始した。
「・・・我が呼びかけに応えその姿を顕せ。其は我が従順なる僕なり。『召喚』!!」
俺達の前の地面に魔法陣が浮かび上がり、そこからゆっくりと巨大な人型の魔物が現れる。
三、四メートルはあろうかという巨体、筋骨隆々な肉体、頭部には角。右手には人の背丈ほどある棍棒。
「な・・・!? 大鬼!?」
シンシアが驚きの声をあげる。
無理もない。通常、大鬼は危険度の高い森林などに生息する危険モンスターである。
この魔物そのものにも驚きだが、これを使役するサーブルも相当な実力である。
「大鬼、目の前の四人を襲え!!」
サーブルの号令により、俺達の試験が始まった!
大鬼は訓練場内に咆哮を轟かせ、こちらに向かってきた。
その一歩一歩が軽い地鳴りを引き起こしている。
三人は・・・腰が引けてるな。よし・・・
「三人はそれぞれ、気を落ち着かせてください。暫くは私が囮を引き受けます!」
「「「なっ!?」」」
何やら驚きの声をあげているが、関係ない。俺に常識が通じないのは身をもって体感している。
三人から少し離れた後、魔物の注意を引き付ける魔法『囮化』を自分に発動させる。
すると大鬼はこちらに視線を向け、手に持った棍棒を振り上げた。
そして振り下ろされた棍棒をサイドステップで軽く躱す。今まで立っていた場所が衝撃で抉れている。
意外とオーガ系って力強いんだな・・・多分直撃してもケガ一つしないけど。
棍棒による攻撃の跡をまじまじと見つめていると、今度は殴りかかってきた。
上半身を狙ったその一撃を、マト〇ックスの如く上体を逸らして避ける。
すかさずその不利な体勢の俺に棍棒を叩き込んでくるが、その体勢から派生させ棍棒に蹴りを入れ、棍棒の軌道を逸らす。
しかし舞い上がった土煙が顔にかかり、咳きこんでしまう。まさかのダメージである。
「ゴホッゴホッ・・・酷いことをする・・・ん?」
目に入った土に苦しんでいると、土煙に紛れて横薙ぎの棍棒が俺に襲い掛かるのに気付いた。
(・・・あーやらかした・・・吹っ飛ばされる演技しようか・・・?)
ダメージは無いだろうが、無防備な状態でこれを喰らって微動だにしないのは異常だ。
甘んじて受け、飛行魔法で吹き飛んだ演技をしようと判断し準備をすると、ルルの声が聞こえた。
「『土防壁』ッ!!」
ルルが叫ぶと、俺を守るように地面から土の壁がせり上がり、棍棒が弾かれた。
・・・ルルの魔法か!!
三人の方を見てみると、ルルは杖、シンシアは弓、ライムは己の拳を構え戦闘態勢を整えていた。
さて、この三人の実力を見せてもらうとしよう。
俺は自身にかけていた囮魔法を解き、ルル達三人の後ろに回った。
「ようやくやる気になりましたか?選手交代ですね」
「貴女多分さっきの食らったら重症だったと思うんですが・・・随分余裕そうですね。
まあ、見ててください。私たちの戦いを見せてあげますよ」
シンシアはそう言うと、魔法で作り出したのであろう光り輝く矢を弓に番え、大鬼の頭部めがけその矢を放つ。
矢は見事右目に突き刺さり、大鬼は堪らず右目を押さえる。
その隙を見逃さず、ルルが複数『氷槍』を放ち胴体にダメージを与えた。
続くライムは持ち前の脚力で大鬼の懐に飛び込んでいき、体当たりを繰り出した。
大鬼はそれを受け、倒れないまでも数歩仰け反り、棍棒を杖のように使って体を支える。
・・・ダメージは確実に入っているな。あとは決定打があるかどうかだが。
「ぐ・・・コイツやっぱり硬い!!」
「ですがあと一押し・・・ルル、中級魔法の詠唱の準備をお願いします! それで終わらせましょう!」
シンシアがそう言うと、時間稼ぎのためなのかライムとシンシアがルルを置いて大鬼に突っ込んでいった。
それと同時にルルが精神を集中させ、魔法の準備を始める。
・・・確か中級魔法って人間では使える人少ないんじゃなかったか。となると、この中級魔法で相手を倒すことができれば力の証明に直結するだろう。
「ほーらこっちだノロマ!!ルルは狙わせないからね!!」
ライムが叫ぶと、大鬼はその声に反応してライムに襲い掛かる。
繰り出される拳や棍棒を軽い身のこなしで次々と避けていく。
暫くするとシンシアが大鬼の背後から弓で狙撃を始めた。
ライムが若干疲弊する頃合いを見て囮役を変わろうとしたようだ。
その思惑通り大鬼はシンシアに狙いを切り替えた。
シンシアは接近戦は苦手だができないわけでもなく、少し危なっかしいながらも攻撃を避けていく。
・・・恐らくルルの準備もそろそろ終わる、という頃、
「・・・わ、我が僕よ!杖を持ったエルフを攻撃せよ!!」
「「!?」」
サーブルが焦ったような声で大鬼に命令をした。
・・・確かにルール違反ではないが、褒められた行為ではないな。明らかに妨害だ。
大鬼は命令通りルルに向かって突進してくる。
「や、止めろ! お前の相手はアタシ・・・うわっ!?」
ライムが大鬼の気を引こうと駆け寄るも、棍棒の衝撃でできた溝に足を取られ転ぶ。
シンシアの狙撃にも反応せず、ただただルルに向かい続ける。
ルルも詠唱に集中していたため接近に反応するのが遅れており、ルルが顔を引きつらせている。
「「ルル・・・!!」」
ライムとシンシアが悲痛な叫びをあげる。
・・・仕方ないな。
大鬼がルルに向けて棍棒を振り上げる。
ルルは頭が真っ白になっているようで、避ける様子も見られない。
ライムとシンシアも間に合わないと判断したのか固く目を閉じて諦めようとしていた。
そんな中棍棒は無情にもルルの頭上めがけて振り下ろされ・・・
「・・・へ?」
「・・・詰めが甘かったですね。これでさっきの借りは返しましたよ」
俺はルルと大鬼の間に割り込み、振り下ろされた棍棒を片手で受け止めていた。
受け流したり何か武器を使うでもなく、少女が素手で大鬼の一撃を受け止めたことに、ルル達は勿論、サーブルや野次馬も言葉を失う。
「どうしましたか? もう準備は整っているでしょう? さあ、今です!」
「・・・!! 『氷結監獄』ッ!!」
ルルが唱えると大鬼の周囲の空気が急速に冷気を帯び、だんだんと大鬼の身体が凍っていく。やがて全身が凍り付き、大鬼は完全に活動を停止した。
「・・・さて、これで終わりですね。最後は少し危なっかしかったですが、ほとんどこの三人で倒しました。これで文句は・・・」
「・・・ま、まだです!! 『召喚』!!」
サーブルがやけくそ気味に召喚魔法を再び唱えた。
コイツ、是が非でもルル達を認めない気か・・・?
地面の魔法陣が輝き、先程と同様に大鬼が現れた。
ルル達三人が固まっている。しかし、今回の大鬼は少し様子が違う。
「ハァ・・・ハァ・・・ど、どうです・・・もう一体を相手にする余力は・・・?」
大鬼が魔力が枯渇しかかっているサーブルを睨みつけている。今にも襲い掛かりそうだ。
「し、しまった・・・不完全な詠唱で制御が・・・!?」
・・・バカなのかな、コイツ。
相当な実力者だとか思ったのが馬鹿らしく思えてくる。
「まったく・・・変な意地を持つから・・・ほら、よッ!!」
・・・次の瞬間、大鬼のドテッ腹に風穴が開いた。俺の掌底が原因である。
一撃で大鬼はこと切れ、地鳴りを響かせながら倒れこんだ。
周囲の人間は声を出すでもなく口をポカンと開け、呆然としていた。
・・・これには俺もドン引きした。確かに一撃で仕留めようとはしたが、まさか風穴を開けるとは・・・
以前なら内臓がぐちゃぐちゃになる程度の力加減だったのに・・・
やっぱりティアと戦った辺りからより強くなってしまっている。
「えっと・・・・てへっ?」
普通ならご褒美の美少女の笑顔にもこの時ばかりは恐怖を覚えた、とその場にいたハンター達は後に語る・・・




