30、少女たちの正体
ルルに連れられ、俺達は人通りのない路地裏に来ていた。
男に絡まれていたルルによればこの辺りに人さらいなどを行う犯罪集団の拠点があり、他にも捕まっている人たちが複数いるとのことだ。
そういえば元の世界ではこんなところでよく喧嘩してたなぁ・・・
などと思い返していると、先導していたルルが一つの扉の前で止まった。
「・・・ここですか?」
「はい。多分まだいると思います」
それを聞いて俺が扉を破ろうとすると、
「・・・待って。中から変な気配がする」
と、ティアが俺を止めた。
「・・・変な気配って何だ。
俺やお前がビビるような気配なのか?俺は何も感じんが」
「何というのか・・・貴女がこの世界に来た時の違和感、いや、異物感と言った方がいいのかしら。
それに似てるのよ」
「じゃあなんだ・・・俺と同じ転生者、とか?」
「分からないけど・・・気をつけなさい」
小声で話し合っていると、中から声が聞こえてきた。
上手く聞き取れないが・・・男の声で奴隷が何だのと言っているようだ。
迷っている暇はなさそうだ・・・千里眼が家屋の中まで見れたりすれば憂いもないのだが。
俺は鍵のかかっている扉を盛大に殴り飛ばし、
「御用改めであるうぅぅ!!!」
「「「!?」」」
片手を腰に当て、もう片方で中にいた男たちに向けて掌を大きく開く。
そして全力で叫んでキメた。
男たちはいきなりの襲撃に唖然としていた。
扉の奥は狭く薄汚い部屋になっており、そこに犯罪集団と思しき男たちがルルと同じくフードを被せられた、恐らく少女であろう三人を囲んでいた。
「・・・な、何だお前は!!いきなり扉を破るやつがあるか!常識的に!」
「どうして犯罪集団に常識を説かれなきゃならんのですかねぇ・・・
とりあえずそこの子たちを解放してもらおうか」
後半は少し声を凄ませて言った。
しかし相手はこちらが丸腰の少女と見るやニヤニヤして、
「ハ・・・なーに言ってんだガキが。
あまり大人を舐めんなよ?お前も売り飛ばしてや・・・」
俺は男の一人が言い終わる前にその顎を砕いてやった。
「・・・悪いけど、そういう言葉はもう聞き飽きたんだよね」
「「「なっ!?」」」
俺が目にも留まらぬスピードで移動したことと顎を砕くほどのパワーに男たちは驚愕の声を上げた。
・・・気のせいか? 以前よりパワーが増している気がするのは・・・
これ以上強くなってもなぁ・・・美少女のイメージダダ崩れじゃないか。
拳をグーパーさせながら考えていると、囚われていた少女の一人が声を上げた。
「あ、貴女は・・・助けに来てくださったのですか・・・!?」
「ん・・・まあ、そうですね。ルルさんに助けを求められ・・・
本当は街にお買い物しに来ただけだったんですが、困った方を見捨てることはできません」
俺は出来る限り少女たちを安心させるように微笑みながら言った。
すると少女たちは安堵したように口元を緩ませた。とりあえず信用はされたようだな。
「・・・おい、全員でかかるぞ、お前ら!!」
我に返った男達が、一斉に俺に襲い掛かってきた。
それにしても、ティアは手伝ってくれないのか・・・別にいいんだが。
俺の腕を掴んで拘束しようとした二人を軽く腕を振って吹き飛ばし、残った男たちを横薙ぎの蹴りを食らわせ一気に壁に叩きつけてやった。
・・・隣に人とかいないよな? クレームとか来ないよな?
「・・・さて、終わりましたね。
大丈夫ですか?もう安心して良いと思いますが」
「あ、ありがとうございます! 助かりました・・・!」
拘束を解いてやって俺が少女たちに話しかけると、少女の一人が頭をブンブン下げて礼を言ってきた。
正直雑魚を相手取っただけなのでそこまで礼を言われるようなことではないとは思うのだが、まあこのままではこの少女たちは先程聞こえた声の通り売り飛ばされていたのだろう。
「・・・シャルロット。これ以上厄介ごとになる前に戻るわよ。
何だか嫌な予感がするし、この子たちも普通じゃないわよ」
いきなり乱入してきたティアの言葉に、ルルを含めた少女たちの肩がビクッと震えた。
そういえば、俺が拘束を解いてやってからも被っているフードを取ろうとしない。
良く考えれば確かに怪しいっちゃ怪しい。
助けた人たちが実は敵でした、というパターンだろうか・・・
「・・・どういう事だ、ティア。彼女たちが実は敵だったとか・・・」
「ち、違います!! それだけは決して・・・!!」
「じゃあ、そのフードを上げてくれませんか。
こちらとしても信用したいのですが」
その言葉を聞いてなお、少女たちはフードを上げようとしない。
嘘は言っていないようだし・・・怯えているのか?
「・・・フードを上げないってことはこちらを信用してない証よ。
行きましょう。これ以上ここにいても良いことはないわ」
「わ、分かりました!! 見せます!」
するとルルが率先してフードを取った。
フードの下に隠れていたのは、綺麗な金髪と青い目、そして特徴的な尖った耳。
「・・・エルフ・・・」
そこには、ファンタジー世界のド定番、エルフの姿があった。
俺は驚いたが、すぐにルルが震えていることに気づいた。
「・・・何故震えてるんです? 別に取って食ったりはしませんが」
「え、いえ・・・その・・・」
歯切れの悪い返事をするルルに代わり、深いため息をつきながらティアが説明を始めた。
「・・・あのね、貴女は知らないかもだけど、この世界じゃエルフなんかの人外種は迫害の対象なのよ。そのくせ裏奴隷として高く売れる。もう分かるでしょ?」
・・・なるほど。
要はルル達は人外種で、売られそうになったところを助けられたけど、その助けた俺も人間だから正体を知られたらまた売られるとでも思ったのか。
・・・馬鹿げている。こちとら奴隷制のない世界出身だぞ。
そんなことをする理由もない。
「・・・はあ、そんな事で怖がられていてはたまりませんね。
私はあなた達に危害を加える気はありませんよ・・・大丈夫です」
両手をひらひらさせて危険がないことをアピールすると、フードの少女たちは顔を見合わせ、それぞれのフードを取り始めた。
「ほぉ・・・」
少女たちはそれぞれ、赤髪で猫の耳を持つ獣人の少女と、ルルと同じエルフで、こちらは金髪をポニーテールに纏めていた。
そして最後の一人がフードを取り、俺がその顔を見た瞬間、俺は固まってしまった。
この少女は人間だったが、先程は単に怖かったのだろうか。
この世界には珍しい真っ黒な髪の毛と瞳。
俺はその顔に見覚えがあった。
「・・・遥香・・・!?」
それは見間違えるはずもない、前世の妹の顔そのものであった。




