3、シャルロットの決意
クリストがしばらく放心していたので、その間に何とか着替えることができた。
一応記憶の中に着方はあったのだが、男物とはやはり違ったので苦戦してしまった。
(・・・そういやさっき思わず素で喋っちまったが・・・大丈夫か?)
シャルロットは記憶の中では礼儀正しく貴族であることに驕らない謙虚な性格である。
もちろん親や兄には敬語、使用人や領民にもきちんと敬語を使える貴族令嬢だ。
・・・まあ、悪く言えば舐められても仕方がない、ということなのだが。
なので、さっきの反応の正解(多分)は、
「す、すみません兄様!お恥ずかしいところを・・・」
・・・と、メチャクチャ赤面して言うまでが模範解答だろう。
残念ながら俺には無理だ。
男に裸を見られたところでさして恥ずかしくもない。
何なら今の姿を鏡でまじまじ見るほうが恥ずかしい。
だって美少女を凝視する男とか、嫌じゃん?
まあ自分の身体を見ているだけなのだが、罪悪感が募る。
ともかく、未だに状況は整理できてはいないが、明確な目的がある。
一つはシャルロットのため。可能な限り『シャルロットとして』振る舞うこと。
大牙としても周囲から怪しく見えるのはごめんだ。
そしてもう一つ、大牙のため。
(・・・この第二の生で、平穏な日々を享受する!)
胸の前で拳を強く握り、自分自身に宣言する。
前世で手にできなかった物を今度こそ手に入れるのだ。
そう考えると自然と笑みがこぼれてくる。不謹慎だろうか?
そして、一つ嬉しい情報、というか記憶。
数日後、シャルロットは王都の学校に入学する為の試験を受けるらしい。
『オーレイア王国立モルガナ学院』・・・ちなみに、超名門である。
まあ識字率も日本の比ではなく低いうえ科学も発展していない世界だ。
この世界の名門は日本の標準的な高校より少し上、といったところか。
元々前世でも普通でいようと勉強は頑張ったし、何よりシャルロットは箱入り娘故に勉強熱心だった。
この世界の言語は無意識に理解出来るし、この世界の歴史なんかも頭に入っている。
まず合格はできると思う。
何より、名門ならガラの悪い連中もいなそう、という想像があった。
不安なのは剣技や魔法の指導とやらだが・・・
魔法、やっぱりあるんだなぁ。
剣技・・・殴り合いなら慣れてるんだが・・・
いや、体が出来ていない。ワンチャン殴ったら自分の腕が折れる。
それくらいシャルロットは華奢だった。
そんな事を考えていると、使用人の女性が部屋に来た。
「シャルロット様、クリスト様。
朝食の準備が出来ましたので食堂に。
レイマン様方も既にお待ちしていますよ」
レイマンとはシャルロットの父、つまりは貴族の当主である。
失礼のないようにしなくては・・・と、ようやく放心状態から解放されたクリストと共に食堂に向かった。