27、『ティア』
シャルロットは激しい怒りに駆られていた。
自分にとって大切な友人を傷つけられたのだ。
前世でも昔からの友人やなんだかんだ腐れ縁だった同じ高校の不良共がちょっかいを出された時にはその相手を潰していた。今回もそれと同じ。人から大きなトカゲに相手が変わっただけ。
『・・・思いあがるなよ人間・・・!!
先程の障壁を出しながら治癒をしないということは魔力も限界ということだ。
その剣一本で何ができる!!』
「・・・お前を殺せる」
『ほざけ・・・その剣では我の薄皮を斬るのがせいぜいということを忘れたか!!
・・・『終焉之業火』!!』
「・・・『神之盾』」
先程と同じ攻防が繰り広げられる。
結果も同じ。このことに竜は焦りを覚えた。
(・・・先程と同じ障壁!?
バカな、我の魔法を完全に防げる魔法を二度も軽々、詠唱なしで、人間が!?
あ、有り得ん・・・!!本当に人間なのか・・・!?)
竜が動揺していると、シャルロットの姿が不意に消えた。
魔法を使った様子もなく、単純にスピードが目で追うことができなかった。
『どこへ・・・!?』
ブシュ、という音と共に竜の首元に鋭い痛みが走った。
『竜滅剣』が竜の首を貫いたのだ。
先程かすり傷程度しかダメージを与えられなかったその剣が、根元までグッサリと刺さっている。
その切り口から大量の赤い血液が流れ、『竜滅剣』とシャルロットを赤く染め上げる。
『ぐああぁッ・・・!?』
「・・・竜も血は赤いんだな。
そういやぁ、俺の元居た世界の物語では竜の心臓食うと叡智を手に入れられるって伝説があるんだ。試してみようか・・・!!」
シャルロットは即座に剣を引き抜き、圧倒的な速度を以て懐に潜り、心臓があると思われる場所に向けて剣を思いきり投擲した。
それは竜の強固な鱗を薄氷の如く貫き、心臓部である核まで到達・貫通し、反対側からその核を突き刺したまま飛び出してきた。
『・・・!!・・・!!』
「・・・汚いな。やっぱ食うのは止めだ」
魔法で引き寄せた『竜滅剣』の突き刺した核を見てそう呟くと、竜は地に倒れた。
『・・・何故だ・・・
何故人間ごときに・・・』
「俺に聞くな。俺もこの化け物じみた力にゃ迷惑してんだ」
『ク、クク・・・やはり貴様は分からん・・・
・・・『あの方』の気配がした気がしたのは、勘違いではなかった・・・のかもしれんな・・・』
「・・・あの方?」
『・・・女神『モルガナ』様・・・』
そう言い残し、竜は力尽きた。
(モルガナ・・・確か前の世界で言うキリストのような存在だったな。
そんな高尚なモンと俺が関係あるのか・・・?)
「・・・っと、危ねぇ・・・治療してやんねぇと・・・」
カグラに近づいて確認してみると、まだ微かに息があった。
あの『神之盾』は魔力消費が著しく、無尽蔵ともいえる俺の魔力量でも治癒魔法との並行はできなかった。
賭けの要素も強かったが、何とか勝ったらしい。
カグラの身体に手をかざすと、淡い光がカグラを包み、その傷は癒えていった。
「ふぅ・・・終わったな。
早く戻りたいが・・・この屍をどうにかしないとな・・・誰かが見たら大変だ」
俺は魔法で周囲の地面を掘り、その中に竜の屍を埋めた。
やってることが完全に証拠隠滅をする殺人犯だが、気にしたら負けだ。
自分で殺した竜の墓を作るというのも変な話だが、その辺の木を削って簡易的な墓標を立ててやった。罪滅ぼしみたいな感覚である。
(・・・そういえば、名前とか言わなかったな・・・まあ、いいか)
墓標に向かって両手を合わせてしばらく黙祷した後、カグラを背負ってファルム大森林の出口を目指した。竜の魔法により着物が切り刻まれ、目のやり場に困ったがそうも言っていられず、しばらく歩いているとカグラを捜しに来た生徒たちと遭遇した。
その後、無事帰還した俺とカグラに待機していた生徒やハンター達は歓声をあげた。
何故か竜のことを知っており、その真偽を問われたりしたが適当に誤魔化した。
とはいえ、俺の大根役者ぶりは自分でも知っている。まず嘘をついていることはバレているだろう。
だが、それ以上踏み込んだ質問をする気もなさそうだし、まあ良いだろ。
俺達は学院に戻り、学年長としてリョーマを除く他の二人と学院長に報告をした。
他の二人は巨大な魔物についてだけ話していた。
彼らも竜のことは知っていたはずだが、俺に気を使っていたのだろうか。
勿論俺も竜のことは話さなかった。
もはや目立つ目立たないの問題ではないし。
カグラは傷こそなくなったものの一度は三途の川に足を踏み入れたからか数日間目覚めることはなかった。俺を含むルームメイト達で医務室に行きお見舞いをしたりして、少しずつ日常に戻りつつあった。
そんなある日の夜、俺は変な声で目が覚めた。
『・・・おい、起きろ』
「ん・・・?うおっ!?」
目を覚ますと、数日前竜を討った『滅竜剣』が宙に浮き、横たわる俺に切っ先を向け落ちてくるところだった。
寸でのところで身体を捻り、それを回避した。
「・・・何なんだ、一体・・・」
『・・・忘れたわけではあるまい。我だ我』
「・・・竜、か・・・!?」
『うむ』
聞き覚えがあると思ったらあの竜であった。
一体どういう理屈なのか、剣から声が聞こえる。
「何で生きてる!?確かに殺したよな!?」
『うむ。確かにあの時我は死んだ。
しかし汝の剣に突き刺さった我の核を介してこの剣に宿ったのだ。
実際入ってみて驚いた・・・これほど高密度の魔力の塊だったとは』
「なるほど、つまりこの剣ぶっ壊せばいいわけね」
『ちょ、ちょっと待て!!
話をさせてくれ!汝にとっても有益な話だ!』
「・・・言えよ」
『・・・単刀直入に言う。このままこの剣に宿らせ、汝と共に行動させてもらいたい。
汝の異常な力の由来として気になることがあって調べたい。
戦闘となれば力も貸す。決して悪い話ではない』
「・・・んな事言われてもな・・・信じろというのは些か無理がある」
『そこを何とか・・・こう、我のネームバリューとかあるし』
「お前名前あんの?」
『・・・ほ、ほら、竜ってブランドがあるだろ、な?』
・・・何か見てて馬鹿らしくなってきた。
まあ、良いか。暴走すりゃ今度こそ滅ぼせばいい。
「・・・分かった。ただしおかしなことをすれば次は殺すぞ。
あと何でもいいから名前考えろ。『竜滅剣』を続投するわけにはいかん。何となく」
『む・・・賛成してもらったのは嬉しいが・・・名前か。
考えたこともないからな・・・適当に汝が付けてくれ』
「えー・・・こっちも考えてないって・・・
・・・じゃあちょい待て。考える。
・・・あぁ、その前に、お前って雄?雌?」
『竜相手に雄・雌呼ばわりか・・・
まあ良い。雌だ。人語時は人間の雌の声にしていたつもりだったのだが?』
「あぁ、やっぱりそうなんだ」
竜の名前を付けることになろうとは・・・
『竜滅剣』で討たれたから『ファフニール』?
かっこいいかも知れんが雌につける名前でもない気がする。
・・・そういえば、『豊穣』が何たらと言っていたな。
確か天地創造の神話で『ティアマト』というのが居たはず。
身体を二つに裂かれて天と地になったという世界の母。
少々不吉だが、元ネタとしてはまあまあ良いのではなかろうか。
「そうだな・・・『ティア』でどうだ」
『ふむ・・・悪くない響きだ。それでいい』
「・・・じゃ、決まりだ。
変な感じだが、まあよろしく。ティア」
俺がそう言うとティアは剣の姿から神秘的な白い長髪を持つ女性の姿になった。
『・・・あぁ、よろしく。シャルロット』
「・・・ビックリした・・・というか、若干キャラ変わってない?」
『あぁ、やっぱり竜としての威厳とかあったしな』
「キャラ付けかよォ!!」
一連の騒ぎは、ティアのおかげなのか、就寝中のルームメイト達には届いていなかったらしい。
こうして、俺はティアという仲間と出会ったのだった。




