23、騒乱の森 1
翌朝俺達は、テントの外で騒ぐハンター達の声に起こされた。
どうやら木に縛り付けていたあの男たちに気づいたようだ。
外に出て確認してみると、空が白んできたあたりで、眠ってから4、5時間経っているようだ。
前世ではいつももっと寝ていたためまだ眠気は覚めていないが、セリアや男子連中も騒ぎに気づいてテントから出てきている。この状態で二度寝を決め込むことはできまい。
「・・・あ!起きたのか!
おい、これは何だ!?どうしてこいつ等が縛られてるんだ!?」
元々俺たちの班の護衛の善良なハンターが俺に聞いてきた。
そうか・・・まだ事情は知らないのか。縛り付けておいた男どももまだ目覚めないようだし。
視界の隅に小刻みに震えている昨晩ハンター達を騙して俺達から引き剥がした男を一瞥した後、俺は事情を説明してやることにした。
「・・・皆さん、『見たことのないデカい魔物』とやらは居ましたか?」
「ん?あぁいや、見に行ったが居なくなってて・・・って、何で知ってるんだ!?」
「何故と言われても・・・別に寝ていなかっただけです。
そんな魔物の報告は嘘ですよ・・・あなた達と私達を引き剥がすための。
あなた達が居なくなった後、周囲からハンター達が4人近づいてきて・・・
私達を攫って売り飛ばす、とか言って・・・」
俺がそう報告してやると、ハンター達は自分たちの生徒を危険に晒してしまうという禁忌を自覚し青ざめ、そして嘘の報告をしに来た男を皆で一斉に睨みつけた。
ほどなくしてその男も拘束され、この遠征が終わるまで放置しておき、王都へ帰るときに警吏に引き渡すという流れになった。
特に異存もなかったため、後の始末はハンター達に丸投げにした。
その後ハンター達は土下座で俺達に謝罪をしたが、別に危険な目に遭ったわけでもないし、怒ってもいなかった。悪徳ハンターの検挙の手柄も譲ってやると言ったら、今度は物凄く感謝された。
どうやら、ギルド内での悪徳ハンターの検挙はかなり評価される事案らしい。
「・・・改めて、すまなかった。
今回の事を反省点に、これからも精進したい。
それと、ハンターギルドの信用も守ってくれて本当に感謝する・・・!」
「過ぎたことですし、気にすることはありません。
・・・それより、今朝のご飯なんですが、召し上がりますか?」
「「「・・・いただきます」」」
その後、俺は朝食を準備し、生徒たちとハンター達に振る舞った。
コーンスープと、ベーコンをいい感じに焼いたものという軽い朝食。
これだけでも、野宿中の身としてはとても豪華なものなのである。
皆が美味しいと言って食べてくれるため、俺も作ってやった甲斐があるというものだ。
・・・何?完全にオカンじゃないかって?
ハハハ、言うな。薄々感じてはいる。
朝食を終えると、空はすっかり明るくなっており、体感的には朝の8時頃だった。
今日の移動の準備をしていると、セリア達が話しかけてきた。
「あ、あの!シャルロットさん!
助けていただきありがとうございます!
・・・ずっと寝てしまってましたけど・・・」
「・・・俺達もすまない。
本当なら男の俺達がどうにかするべきだったのに・・・」
「だから、気にしなくてもいいと言ってるじゃないですか!
皆さんが無事だったというのが一番喜ぶべきことです」
「「「「「女神だ・・・!!」」」」」
普通に応対しただけのつもりだったが、随分株が上がってしまった。
また何か変な噂が広まらないといいが・・・
準備が整いいざ出発、といった時に、いきなり大きな地鳴りが起こった。
「!?何だ・・・!?」
「向こうからだ・・・行こう!!」
「あっちょっと・・・はぁ、こういうのに首突っ込むと面倒に・・・」
俺の制止も聞かずに、ハンター達と男子生徒は地鳴りのした方へ駈け出して行った。
仕方なく俺とセリアでその後を追おうとした、その時、
「ぐっ・・・あ・・・!!?」
人影が視界の隅で吹っ飛んだのを見た。
ゴッ、という鈍い音を立て、その人影は近くの木に激突し、ずるずると下に落ちる。
それは、別の班・・・具体的にはカグラ達の班を護衛していたハズのハンターであった。
そのハンターはしばらく呻いた後、動かなくなってしまった。
「「「「うわああああぁぁっ!!??」」」」
「きゃあああぁぁっ!!??」」
俺の班の生徒たちから悲鳴が上がった。
いきなり瀕死の人間が吹っ飛んできたのだ。無理もない。
さしもの俺も動揺した。
大人の男性をまだ見えない距離からここまで吹き飛ばすパワー。人間業ではない。
だからといってこの低レベルのファルム大森林にそんな魔物は居るはずがない。
そして頭によぎる言葉、『凶暴化』。
(・・・まさかこれが『凶暴化』なのか・・・!?
こんなの予想の遥か上だ・・・!!
俺だけならまだしも、こいつらは・・・)
俺は焦った。戦闘慣れしたハンターが手も足も出ない様子。これは危険だ。
あの男はまだ息があるようだが、虫の息である。適切な処置をしなければ間違いなく死ぬ。
だがこの世界で医療はお世辞にも発達しているとはいえない。
そもそも、医者がこの場にいない。
(クソッ・・・やっぱ見捨てるなんてできねぇ・・・
出来るかどうか分からないし目立っちまうが・・・)
俺は動かないハンターの傍に駆け寄り、その体に触れた。
皆が何事かとこちらを見ている。やはり目立つな・・・だが致し方ない。
「・・・治癒魔法『蘇生術・仮』!!」
俺が唱えた直後手のひらから淡い光が出てきて、倒れたハンターの傷を覆うように飛んでいく。
その光に包まれたところから男の傷は急速に癒え、数秒で致命傷だった男の身体は完全に元通りになった。未だ気を失ってはいるが、呼吸も安定してきていた。
(・・・成功したか。何とかなるもんだ)
周りで見ていた人たちはこの様子を見て呆然としていたが、すぐにわっと歓声があがった。
「まだ安心はしないでください!
この人がこうなった原因もまだ分かりませんし、油断できません。
気を引き締めてくださ・・・」
俺が言い終わる前に、キン、キィン!という甲高い金属音が聞こえてきた。
それからも幾度となくその音は続き、剣士が相当な強敵と激戦を繰り広げている様子が分かった。
その音が止んで数秒後、また男一人がこちらに向かって飛んできた。
また犠牲者が・・・と思ったが、その男は空中で何回転した後、何事もなく着地した。
「・・・リョーマさん!?」
「ん・・・?おぉ、シャルロットか。丁度いい。
・・・おい、お前達!シャルロットを除く全員だ!今すぐこの森を出ろ!」
「「「「!!??」」」」
「・・・いったい何が?」
「あぁ、それは・・・」
直後、ドドドッと何か巨大なものが走ってくる音がした。
そして現れたのは・・・
『グルルルルルァァァァ!!!!!』
「「「「「「ぎゃああああぁぁぁぁ!!!!????」」」」」」
軽く全長五メートルを超えるであろ巨大な虎のような魔物が、相当な強度を持つはずの大木をなぎ倒しながらこちらに迫って来ていた。
その姿を視認した瞬間、生徒たちはパニックに、ハンター達もあまりの迫力に思わず悲鳴を上げていた。
「見たことのない巨大な魔物・・・!!」
まさに、嘘から出た誠というやつである。
「・・・生徒の皆さんは今すぐに避難!!
ハンターの皆さんは自由ですが退却する方は先程の方を安全な場所へ運んで生徒の援護を!!」
俺が指示を出すと、生徒たちとハンターの約半数は森の出口へと向かって走り出していった。
こういう状況でも蜘蛛の子を散らすように逃げないのは非常にいい判断だ。
そして俺はリョーマと共に虎の魔物と向かい合い、戦闘態勢を整えた。
ここから、ファルム大森林での大騒乱、長い一日の幕が上がった。




