21、シャル’sキッチン
前話でルビの()が根こそぎ取れるというミスがありました・・・すみません。
修正いたしました。
小鬼の群れを殲滅してからも、度々魔物の襲撃は続いた。
小鬼は勿論、スライム、コボルト。
ゲームなんかでよく見る魔物は結構見かけた。
初心者用の狩場とあって、猪人や大鬼といった、強そうなイメージのある魔物達には出会わなかったが、まだ油断はできない。
当初心配していた凶暴化とやらは今はよく分からないが、ハンター達によると魔物の群れの襲撃の頻度が少し上がっているとのこと。
俺達は初めてだし実感が沸かないのも当然かもしれない。
・・・陽が落ちてきた頃、俺達は少し開けた場所をハンター達に案内され、そこにテントを立てて一夜を明かすこととなった。
「皆さん、お疲れさまでした。
明日に備えて、今日は早めに休みましょう。
・・・勿論、テントに入ってからも油断は禁物ですよ!」
テントを立て終わると、俺は他のメンバーに労いの言葉と油断しないよう言った。
テントに入ったとて、魔物の襲撃はあるかもしれないのだから。
・・・まあ、就寝中はハンター達が見張りをする手筈なのだが。
「しかし驚いたな。まさかシャルロット・・・お嬢があそこまで強いなんて・・・」
「確かに・・・俺達五人がかりで何とか対処した魔物の群れを一人で、しかも肉弾戦で」
「何か意外だったよ。あの剣鬼との戦いを制したって聞いてたから剣を使うのかと・・・」
「・・・まあ、あれはあれで無防備で」
「「「「良かったよなァ・・・!」」」」
などという男子テントでのやり取りをシャルロットは知らなかった。
シャルロットは密かに男子たちの間で『お嬢』と言えば通じるようになっていた。
由来としては、有力貴族の娘であること、容姿・性格両方よしの高嶺の花的オーラを放つ存在であることなど、まあいろいろある。
・・・そして、女子テントの中。
「シャルロットさん、お強いんですね・・・噂通りです」
「噂?」
「はい、あの『剣鬼』との戦いを制した、とか」
「!?ゲホッゲホ!!」
持ってきた水を飲みながら聞いていたため、驚いてむせてしまった。
噂広がるの早すぎだろ・・・
「・・・勝った訳ではありませんよ。
ただ偶然、リョーマさんの提示した勝利条件を達成した、というだけなので・・・」
「いえ、そうだとしても凄いことです!
シャルロットさんは女性ですよ!
それが校外にも名が届く『剣鬼』と張り合えているんです!
しかも王家とも関わりの深い有力貴族のご令嬢・・・
はぁ・・・同じ女として憧れます!」
俺が謙遜しようとしても、セリアが一歩も退かない。
褒められるのは悪い気がしないが、それにしても随分頑固だなぁ・・・
・・・シャルロットが学院内の自分のファンクラブ『花園の護り手』の存在を知るのは、もう少し先のお話なのである。
・・・それから少しして、俺達は食事をとることになった。
食事とはいっても、支給される乾パンなどの非常食だ。
現代日本で暮らしていた俺からするととてもまともな食事とは言えない。
そもそも、この世界の料理は、マズくはないが飛びぬけて美味しいとも思えない。
調味料などの価値が地球の大航海時代並みのものだし、新鮮な食材を手に入れるというのも、輸送方法や保存方法が発達していないこの世界では難しいのだ。
そもそも、地球の食文化が進み過ぎていたのだ。
「・・・・・・・」
「・・・どうされました?」
乾パンをじっと見つめて考え事をしていると、セリアが不思議そうに聞いてきた。
まあ、乾パンをじっと見つめてる人なんて普通居ないよな。
「・・・よし、やるか」
そう呟くと、俺はテントの外に出た。
・・・男子テントの中。
「いやホント、俺達は運がいいな。まさかお嬢と同じ班になれるとは!」
「他の班の奴らや今回参加してない奴らにも自慢しないとなぁ」
「バカ!お前殺されるぞ!割と本気で!」
「・・・ん?
おいお前ら、外から何か匂いがしないか?」
男子生徒の一人、アイルがそう指摘すると、他の三人も匂いに気づく。
「本当だ・・・何だこれ?」
「おかしな匂いではないな・・・というかこれは・・・」
「・・・ああ。むしろメチャクチャいい匂いだな・・・」
「「「「見に行ってみるか・・・!」」」」
好奇心と鼻腔をくすぐる匂いのままにテントの外に出ると・・・
「ふぅむ・・・魔法で料理というのも悪くない・・・
まだまだ色々とできそうだな・・・研究してみるか・・・?」
ブツブツ呟きながら、様々な調理器具を前に格闘するシャルロットの姿があった。
「「「「なぁんだ料理の匂い・・・ええぇぇぇぇ!!!???」」」」
練習してきたのかと思うほど見事に四人の声がハモった。
俺はその声でようやく男子四人の存在に気づいた。
「あ、皆さん。ちょっと待ってくださいね、今色々試してるので・・・」
「いやいやいやいや!!何で料理してるの!?」
「そもそもその量の調理器具をどこに持ってたんだ!?」
「え?普通に収納魔法ですよ?食材も然り・・・」
「普通にって!!そんなの使えるの宮廷魔術師でも珍しいから!!」
「・・・そうなんですか?
・・・やらかした・・・」
『やらかした』の部分は小声で言った。
そうか・・・収納魔法、異常だったのか・・・
だが、これほど便利な魔法も珍しいだろう。遠慮なく使う。絶対使う。
俺は前世では、よく料理をしていた。
意外に思われるかもしれないが、ちゃんと理由がある。
両親とも俺が高校に入るころには亡くなっていた。思えば俺が『キレ』やすくなったのも、そんなストレスが溜まっていた時期にタイミング悪くチンピラが絡んできたからだった。
そしてその上、妹・遥香はいわゆる『メシマズ』だった。
初めて遥香の手料理を食べたときは・・・何というか、全身に電流が走る感覚があったのを覚えている。
それから俺は必死に料理の勉強をし、普通に店で出せるレベルまで料理スキルを上げたのだ。
そんな俺がこの異世界で料理をしている。
その辺で狩ったウサギを魔法で思い通りに解体をし、持ってきた鍋に魔法で出した水を入れ、魔法で火を出して、火力をコントロールして、屋敷から少し持ってきていた調味料・香辛料、そして野菜を適当に見繕って・・・・
などとしている内に、最初は収納魔法や魔法による火力コントロールの方に行っていた生徒やハンター達の注目が、出来上がっていく料理の方へ移っていった。
「・・・うん、悪くない。
さしずめウサギ肉と野菜のスープか・・・まんまだけど」
調理を終え、自分で味見をすると、達成感に満ちた顔で呟いた。
魔法を使ってかなりチート気味な調理をしたが、美味くできたのでまあ良かろう。
・・・そして、涎を垂らしてこちらを見つめる生徒とハンター達。
「・・・食べます?」
「「「「「喜んで!!!」」」」」
その日は、班の皆でシャルロットの手料理を食べ腹を満たした後、次の日に向けて早めに床に就いた。
後にこの料理を食べた生徒たちは、
「熟練の料理人にも負けない味だった。
もはやシャルロット=フォン=オーガスタに出来ないことはないのではないか」
・・・と語る。




