17、『朧月』
何がどうなってこうなったのか・・・
俺はカグラの兄でもある『剣鬼』リョーマと模擬戦をすることになった。
模擬戦というのは苦手である。
理由としては、手加減するのが難しいからだ。
こっちに来てからそう戦ったわけでもないが、実戦では一人で力加減を練習するのと違って思わず過剰に力を入れてしまうのだ。前世からの性といえばそれまでなのだが。
「ごめんね~いきなり・・・
ほら、リョーマ君って剣術バカだからさ・・・」
「ふ・・・向上心があると言っていただこう」
「いやもう何でもいいですけど・・・
一応剣術試験では私は次席・・・カグラさんの方が相手に相応しいと思うんですが」
「謙遜するな。俺にはわかる。
貴様の目は修羅場をくぐってきた者の目だ・・・」
「は、はあ・・・」
会話の後俺とリョーマ、その他生徒会メンバーで中庭に向かった。
その道中、カグラが俺に耳打ちをしてきた。
「あの・・・いきなり申し訳ありません・・・
兄上は昔から好戦的で・・・もしかしたらケガをされるかも・・・」
「あー・・・大丈夫ですよ。こう見えても丈夫ですから・・・」
「それと・・・兄上の強者を見る目は確かです。
そうなると私などよりお強いということです。
・・・試験では手を抜かれていた、とか・・・?」
「さ、さあ・・・どうでしょうか?」
魔法試験に至ってはドクターストップならぬティーチャーストップ喰らったなんて言えない。
剣術試験も勝とうと思えば勝てたのだ。
技術ではカグラやあの試験官より遥かに劣りはするが、魔力で身体能力を底上げすれば無理やりに勝てる。
・・・しかしそもそも素の身体能力から異常なのだ。
それを魔力で強化してみろ。
実証してはいないが指一本で人を殺せてしまうかもしれない。未知数だ。
そんなこんなだし、この模擬戦は慎重に挑まねばなるまい。
この世界で平穏に生きるという主目標が達成できなくなってしまう。
どうやってやり過ごそうかと考えながら俺たちは中庭まで来てしまった。
道中で興味をもった野次馬どもまで見に来ている。
・・・ますますこの戦いで下手に目立てなくなってしまった。
「・・・模擬戦の前に取り決めをいくつか。
武器はこの木剣・・・だが、もしこれが折れたりしても模擬戦は続行。
戦場では己の肉体のみで戦わねばならない時もあるからな・・・
勝利・敗北の条件はどちらかの降参宣言または軽度とはいえない程度の負傷だ。
これはあくまで模擬戦。これで大怪我などされては困る」
リョーマの説明が終わると、俺とリョーマは同時に木剣を構えた。
「では・・・開始!」
イザベルの号令を合図に、リョーマが踏み込んだ。
「ふっ!!」
「くっ・・・!!」
カァン!という木と木がぶつかる音が辺りに響いた。
『剣鬼』というだけあり、一撃が重い。
とはいえ防げない程でもない・・・のだが、やはり技術は向こうに分がある。
すぐに次の攻撃につなげてくる。
俺は何とか最初のリョーマの連撃を防ぎ切り、少し距離を取った。
「・・・型は滅茶苦茶だがそれを補って余りある膂力と反応速度・・・か。
そちらからも来い。でないと公平じゃない」
「では・・・お言葉に甘えてっ!!」
俺は剣を中段に構えリョーマに向かって飛び込んだ。
そうして放った俺の一撃を、リョーマは華麗に受け流した。
その後も適当に剣を振って攻めたが、そんな攻撃が当たるはずもなかった。
「・・・重い。受け流しても威力が良く分かる。
これで熟練の技だったらと思うと・・・恐ろしいな」
「・・・す、すごいです・・・シャルロットさんってあんなに強かったんですか!?」
「力と速さのみで兄上と張り合うとは・・・あの華奢な身体のどこにあんな・・・」
「は、速ぇ・・・この学院ってこんなにレベル高かったのか・・・?」
「これは驚いた・・・彼とこんなに打ち合えた生徒っていたっけ?」
「いるにはいましたが・・・あの子はどう見ても素人ですよね・・・」
・・・生徒会メンバーからの感想が口々に発せられていた。
野次馬からもざわざわとどよめきが聞こえてくる。
・・・結局、悪目立ちしてしまうのか・・・
「・・・はぁ・・・」
「どうした?」
「いや・・・結局目立つのか・・・と。
こう注目されるのは苦手というか・・・」
「ふむ・・・そうか。
・・・では、次の攻撃を見切ることができればそちらの勝ちでいい。
俺の家に伝わる奥義・・・その一つを見せてやる。見切ってみろ・・・!」
そう言うと、リョーマは改めて木剣を構えた。
それに対し俺はどうしたものかと思いながら、次の攻撃に備えた。
しかし奥義か・・・元々アニメとか好きだったしメチャクチャ興味ある。
「では行くぞ・・・奥義『朧月・十五夜』!!」」
リョーマは俺の腹の辺りを左から狙った。
意外と普通だな・・・と思い普通に受けようとするも、俺は直感的に右も腕でガードした。
「・・・マジかよ」
思わず素が出てしまった。
木剣を素手で止めるのもおかしいのだが、俺の脳は今起こったことを理解しきれていなかった。
「・・・出た。一つの剣を全くの同時に複数回振るう『朧月』・・・何度見ても凄いね」
・・・そう、ベルが言った通り、リョーマの剣は全くの同時に、左右両方から迫ってきた。
防げたのは完全に勘というかまぐれだが・・・
「・・・直感で防ぐか。しかも素手・・・俺もまだまだってことか」
リョーマは半ばあきれた様子で俺に近づき言った。
「俺が言ったことだからな・・・俺の負けだ。
・・・驚かされたよ」
・・・俺とリョーマの模擬戦はリョーマの降参で終わった。
周りのギャラリーは一瞬ポカンとしていたが、次の瞬間には俺に歓声を浴びせてきた。
(・・・あーあ・・・やってしまったな・・・)
模擬戦を受けたことを軽く後悔し、俺はため息をついた。




