12、学院入学試験 その2
・・・遂に、モルガナ学院の入学試験当日となった。
そういえば昨日は魔法の練習もせずにそのまま寝てしまったが大丈夫だろうか?
まあ、心配してても仕方ない。
「き、緊張してきました・・・」
「大丈夫ですよ、エリス様。自分の全力をこの試験にぶつければいいのです」
「そうですよ。緊張は体に毒ですからね」
皆起きだした後、緊張するエリスを俺とカグラは励ましていた。
エリスはそもそも平民出身だし、だだっ広い会場での試験に緊張してしまうことは当たり前だろう。
周りが貴族だらけで自分の異物感のようなものもあったのかもしれないが。
そして結局アルクとはほとんど会話できずに終わってしまった。
本人の性格が問題っちゃ問題だが、悪い人物ではなかろう。
選民思想持ちの貴族のお嬢様ならばエリスに何かしら悪態の一つでもついていたハズだし。
・・・俺たちは試験会場である校舎に向かった。
道中や試験会場には、やはり貴族らしき服装の人物が多くいた。
大体は緊張の面持ちをする者、余裕そうな立ち振る舞いをする者のどちらかだ。
一部シャルロットの方を見て顔を赤くする者もいたのだが、例によってシャルロットは気づかない。
むしろそういった者達にあいさつ程度に微笑みかけるので性質が悪い。
「・・・最初は座学か・・・」
俺は指定された席に座り、配られた問題用紙を見た。
無論、この世界における問題なので前世の知識は役に立たないと思っていたのだが・・・
(何だこれ・・・普通に数学じゃねーか・・・)
『魔法陣数学』という教科。
いかにも数学という感じのこの教科は、まんま数学であった。
・・・いや、数学は数学だが、たまに物理の内容も出てくる。
多分実際はもっと違う学問なのだろうが、少なくとも俺の目には数学である。
難易度は然程高くなかった。
ちゃんと勉強している高校生ならば難なく解けるくらい。
まあ、解けなかったとしてもシャルロット自身の『魔法陣数学』の知識で勝手に補完される。
何てご都合主義だろうか。
言語も理解できるから『言語学』も楽。
シャルロットの記憶のおかげで『歴史学』も楽。
同様の理由で『魔法学』も楽。
前世の記憶が役立ったのは『魔法陣数学』だけであった。
(・・・というか、シャルロットが普通に受けても同じだったってことだよな・・・
やっぱり貴族令嬢として勉強してたんかね・・・それにしても優秀じゃない?)
そう、シャルロットの知識量はもとよりエグかった。
元の世界で生まれてたら東大とか行けるレベルだっただろう。
・・・とまあ、楽な試験を受けた後、俺とカグラ、エリスは合流していた。
「どうでしたか?エリスさん」
「は、はい!結構自信あるです!」
「よかったですね!
・・・あ、エリスさんは魔法と剣の試験は受けるんですか?」
「魔法は受けてみます!でも剣はちょっと・・・」
・・・剣・魔法の試験もあるとは言ったが、受けるかどうかは本人の自由である。
そもそも合格条件としては、座学で優秀な成績をあげる、が一番の基準であり、それに加算されるように剣や魔法の試験が行われる。
座学が優秀なら、基本合格なのだ。
剣や魔法を使えずとも、学者・研究者としての活躍が期待されるからである。
勿論、剣や魔法が使える方が有利ではあるが。
「シャルロット様はどうされるのですか?」
「私はどちらも受けますよ。覚えはあるので」
「なんと・・・剣も使うのですか。
申し訳ない。勝手に剣術試験は受けないと思っていました・・・
私は魔法は辞退しますが剣術試験は受けます。
なんせ家が代々剣を扱う家ですから」
「・・・何だかそれは予想がつきます・・・」
などと話した後、俺は魔法の試験会場に向かった。
そこは前世の学校で言うグラウンドで、いくつか弓道の的のようなものが並んでいた。
グラウンドの半分はこの魔法の試験、半分は剣術の試験の会場である。
どうやら一定の距離からあの的を魔法で攻撃するのが試験内容らしい。
(・・・さて、他の奴らの力がどの程度か見ておこうか・・・)
俺は試験を受ける他の生徒たちの様子を観察し、どの程度が「普通」なのかを調べた。
・・・やはり、初級魔法程度の威力の魔法を打つ生徒が大多数であった。
たまに中級魔法より少し威力が低い程度の魔法を打つ者もおり、それらの生徒は周りから尊敬の念で見られているようだった。
因みにエリスは初級魔法程度の威力であった。
(マズいな・・・俺の最低出力の方が今まで見たものよりずっと威力が高い・・・)
俺の学生生活、あまりにも目立ちすぎるのは良くない。
『普通』の学生生活が俺の目標なのだ。
うんうんと悩んでいると、周囲から「おおっ!!」という声があがった。
何事かと騒ぎの中心を見ると、
「・・・燃え上れ。『猛火魔弾』」
明らかに中級魔法クラスの魔法を軽々何発も打つ人物がいた。
「あれは・・・アルクじゃないか」
・・・アルクだった。
本人はすまし顔だが、周囲の人たちは驚きを隠せないでいた。
まあ、そうだな。他は初級が普通だったもんな。
試験官や生徒たちから称賛されて、アルクはまんざらでもなさそうだった。
(・・・あいつにも可愛いとこあるじゃん)
少し気が休まった俺は、試験官の待つ的の一つの前に立った。
「次は貴女ですね。ではここから的を狙ってください」
俺はできる限り威力を弱めるよう集中して、手のひらに炎の球を出現させた。
いざ放たん!と手のひらを的の方に向けると、
「・・・ちょっ、貴女は・・・!」
こちらに走ってくる女性が見えた。
「・・・マギアさん?」
その女性は、俺に魔法を教えようと屋敷に来た魔法教師、マギアだった。
俺は炎を消し、マギアに向き直った。
「お久しぶりです。こちらにもいらしてたのですね」
「え、ええ・・・
そ、それよりもちょっと来てください」
俺は試験官に軽く謝って、訝しみながらもマギアについていった。
そして人気の少ない場所で、ボソボソと話し出した。
「・・・貴女が魔法なんて打ったら周りが大混乱でしょう・・・
魔力の制御がまだ完璧ではないでしょう?」
「う・・・確かにそうですが・・・
でも最初よりはかなり良くなったと・・・」
「じゃあ『灯火』は使えるのですか?」
「・・・いえ」
「いいですか?
貴女の年齢では初級魔法が使えるだけでも貴重なのです。
魔法の試験は辞退してください・・・」
「え・・・でも、一応試験は受けたほうが・・・」
「私も臨時の試験官だから、貴女も取り持ったことにします。
それで貴女は魔法の試験を受けたことにできますので・・・」
俺は気が進まなかったが、大人しく従った。俺としてもありがたい提案だったし。
その後俺は隠れるように魔法試験会場を後にした。
・・・次は剣術である。
俺が向かった時、試験官の男とカグラが打ち合っていた。
試験官は木剣、カグラは竹刀だった。勝負は素人目から見てもカグラの優勢であった。
「ふっ!はぁっ!!」
カグラは初対面時の淑やかな様子とは打って変わり、怒涛の攻撃で試験官を追い詰めていた。
「そ、そこまで!」
「・・・ありがとうございました」
カグラは一礼して、そのまま試験官に背を向けその場を去った。
「・・・すごいな。流石はあの『剣鬼』リョーマの妹だ」
「あぁ・・・さしずめ『剣姫』といったところか・・・」
・・・『剣鬼』という聞きなれない単語が出てきたが・・・
(剣の名家ってのは本当みたいだな・・・
兄というのは・・・この学院にいるのだろうか?)
そう考え事をしていると、試験官の一人に声をかけられた。
「剣の試験を受けるのか?それなら俺が相手してやろう」
「あ、はい。お願いします・・・」
声をかけてきたのは、金髪をオールバックにした爽やかそうな男性だった。
決してガタイが良いとは言えないが、何となく俺は『強い』と感じた。
前世で鍛えた感覚がそう言っていたのだ。
俺とその男の試験が始まると、周囲に野次馬が集まってきた。
見てて面白いものでもないだろうに、と思いながら渡された木剣を構えると、
「・・・お嬢ちゃん、強いんだろ?分かるよ」
俺だけに聞こえる声量でそう言ってきた。
感覚で敵の強さを測れるのは向こうも同じらしい。
これは相当な実力者っぽいな。
「・・・始め!」
という掛け声の直後、男は容赦なくこちらに攻めてきた。
俺はその剣の軌道を読んで受け止める。
俺の強化された膂力をもってしても腕が痺れた。
「・・・ッ!」
「へぇ・・・!受けるか・・・面白い!」
俺たちはその後の数回の打ち合いのあと、僅かに遅れた俺の防御の隙をついた男の勝利に終わった。
寸止めにされたところを見ると、まだ余裕がありそうだ。
もともとここで勝つ気はなかったのでちょうどよかったが、俺は男の強さに驚いた。
「・・・ふう・・・ありがとうございました。
お強いですね・・・驚きました」
「ハハ、冗談が上手い。膂力なら君の方が上だろう?
そんな華奢な身体のどこにそんな力があるんだ?」
・・・と、これまた俺だけに聞こえるように言ってきた。
気遣いもできるとは流石である。
その後短く言葉を交わした後、俺はその場を去った。
(・・・あれは俺なんかより強くなるな。楽しみだ)
・・・という試験官の心情は誰にも察することはできなかった。
俺が去った後、野次馬たちの
「・・・王国の騎士団長と数回とはいえ打ち合ったぞ・・・何者だ?」
「・・・手加減したんじゃないか?」
「いや、とてもそうは・・・」
というやり取りが行われていたのだが、俺はそれに気づくことはなかった。




