1、最強の不良、死す
―――とある人通りのない路地裏にて―――
「・・・何だァ?もう終わりかよ・・・?」
天堂 大牙は動けなくなった男達に冷ややかな視線を向けながら言った。
「クソ・・・テメェ・・・覚えてろよ・・・」
「あ?何て?誰に言ってやがるザコが」
大牙は倒れて動けないその男の腹を蹴って黙らせると、男たちを放置してその場を去った。
大牙は、いわゆる不良である。
それも、圧倒的な力を持つ不良。
先ほどもゴロツキに絡まれリンチされそうなところを逆リンチしたばかりだ。
このあたりで大牙を知らない者はいない。
もちろん悪い方面の方々に、だが。
故にしょっちゅう絡まれ、その度々に返り討ちにしてきた。
「はァ・・・どうしてこうなったんだ・・・?」
大牙はため息をつきながら一人呟いた。
実をいうと大牙は不良になる気などなかった。
確かに映画やらアニメやらで喧嘩無双する登場人物に憧れたことはあった。
体作りでトレーニングをしてきたのも事実。だが・・・
「誰がマジで不良になると思うよ・・・」
かつて大牙は普通の高校生だった。
その時に初めてチンピラに絡まれたのだが、それが全ての始まりだった。
『おいおい、テメェがぶつかったから骨折れちまった』
『慰謝料よこせよ慰謝料!』
チンピラの下卑た笑みを見て、大牙の中の『何か』が切れた。
体の底から力が溢れてくるのを感じた。
どうも自分は『切れ』やすいらしい。
そう自覚したのもこの時である。
現在はある程度の自制はできるのだが・・・
それが噂になり、最初は同じ高校の不良グループに、その次は近くの学校の不良グループ、そして有名な不良高校の連中にも目を付けられ、身を守るためにも強くなる必要があった。
舐められないように、口調も変える必要があった。
それがいつの間にか最強の不良『牙虎』として知られてしまった。
「もっとこう・・・穏やかに暮らしたい・・・」
という、大牙の真意は一部の友人と一緒に暮らしている妹くらいしか知らないのだった。
とりあえず自分から売った喧嘩はない。買わなかった喧嘩もないが。
・・・なんて独白を、誰に聞かせるでもなく頭の中で作り出して歩いていると、いつの間にか大牙は大通りに出ていた。
「あれ?お兄ちゃん。こんなとこで何してんの?」
大牙に声をかけるのは、大牙の妹、遥香である。
妹という贔屓を抜いても一番可愛い女の子だと大牙は思っている。
決してシスコンではない。決して。多分。恐らく。
「・・・また喧嘩してきたんじゃないよねぇ?」
「え!?いっいやぁ、そんなわけねーだろ!」
「・・・相変わらず嘘が下手だね・・・
そういうとこ愛嬌あるのに・・・喧嘩っ早くなけりゃモテてたんじゃないの?」
「ぐっ・・・それを言うんじゃない・・・」
「きゃああああああっ!!」
「うわああああああっ!!」
駄弁りながら二人で帰路についていると、突然周囲から悲鳴が上がった。
「何だ・・・!?」
振り返ると、何か錯乱した様子の男が刃物を持ってこちらに突っ込んできていた。
・・・正確には、遥香の方へと。
「え・・・」
「遥香ッ!!」
―――――直後、大牙の脇腹に鈍い痛みが走った。
咄嗟に遥香を突き飛ばした結果、自分の脇腹に刃物が深く刺さったのだ。
「ぐ・・・っは・・・!?」
身体が熱くなる。
痛みで意識が遠のく。
せめて一撃入れてやろうと振るった拳は男の顔面にクリーンヒット。
男は伸びてしまい、直後に大牙も倒れこむ。
周囲の悲鳴やら妹の涙ながらの呼びかけが遠くなっていく。
(・・・死ぬのか、俺・・・?)
自分から『命』が消えていく感覚がはっきりとあった。
・・・まあ、短かったがそう悪いものでもなかっただろう。
心残りなのは妹をもう見られないことと荒れた人生だったこと・・・だろうか
(もし来世があるのなら次は・・・)
穏やかに暮らせますように、と念じる前に大牙の意識は途絶えた。
読んでくださりありがとうございます!
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