愚者の箱庭
「じいさん、これはなにかね」
「くくく、似合っておるぞ、坊主」
「ふざけんてじゃねー」
必死に笑いを隠そうとしてるけれど、全く隠せてねぇ。
じいさんが悪いわけじゃねえが馬鹿にされるのはむかつく。
「そうはいってものぅ。やるといったのはおぬしじゃ。その結果がその姿なのじゃからわしに文句を言われてものぅ」
そう言いながらじいさんは俺をみる。
正確には俺の腰に抱きついている子供をだ。
「どうしてこうなったのか」
俺のささやかな幸せにケチがつき始めたのはこのじいさんと知り合ってからだ。
駆け出しの商人だった俺は、ある取引の旅でとあるじいさんに出会った。
行き倒れとは言わないが、食料が尽きて食い物を探していたじいさんにこれも縁だと恵んだが出会いだ。
そのまま道案内がてら、ともに旅をしたのだがなぜか気に入られてしまい、今もこうして旅をしている。
といっても、じいさんは着いてくるだけで特になにもしてはいない。
できることは手伝ってくれるのだが、いい年なので力仕事をさせるわけにも行かない。
まぁ、行商と言ってもまだ店も持っていない駆け出しなので移動も一人で寂しかったこともあり、そのうちどこかで別れるだろうと思いそのままいっしょに移動して現在に至るというわけだ。
そんなある日、俺たちはじいさんの奨めでとある観光地にやってきた。
と言っても、賑やかな場所じゃない。
単純に昔あったとある物語の舞台だという場所だ。
たいした寄り道でもないし、味気ない移動だけの旅なのだからたまにはいいかと来てみたもの、そこはなにもない草原にある普通の丘だった。
まぁ、そこから見下ろした草原はそれなりに雄大だったけど、ただそれだけだった。
ちょうど日が暮れ始めていたこともあり、その場で野営を始めたところ深夜になって急に人の気配がすることに気づいた。
幸い、こちらには気づいてない様子だったのでじいさんを起こして様子をうかがってみたところ、どうやら闇市らしいことがわかった。
そういえば、犯罪者とかがものを仕入れる闇市がこの近くで開かれていると近くの村で聞いたのを思い出した。
せっかくなのでとのぞきに行くことにした。
いい勉強になるだろうと思ったからだ。
そこで見つけたのがこの子供ってわけだ。
親の薬を買いに来たようなのだが、代金が足りずなんとかならないかと交渉しているところが目に入り、つい助けてしまった。
そのまま家まで送り届けたのだが、幸か不幸か、親はすでに事切れていた。
元々長くないことを知っていたのだろう、手紙が残っていた。
自分が死んだ後のことを一通りしたためてあり、少しではあるが路銀も残していたようだ。
親が死になく子供をなだめつつ、埋葬やらなにやらを一通り行い、いざ旅立とうとすると子供が恩返しをすると言い出したのだ。
さすがに子連れで行商など無理があるので孤児院に預けようとじいさんと相談していたのだが、この様子だと勝手に着いてくるだろう未来が想像にがたくない。
「助けたのは坊主じゃ。なら最後まで面倒を見てやるのが筋というものじゃ」
「まぁ、それはそうなんだがなぁ・・・」
「なに、仕事の時はわしが見ておこう。幸い、読み書きや計算も多少はできるようじゃ。丁稚奉公扱いでいろいろ教えてやるがよい。数年もせんうちに独り立ちするじゃろう」
「数年・・・」
頭を抱えたくなった。
「これも経験と割り切るんじゃな」
じいさんは実に楽しいと言わんばかりに大笑いしている。
ほんと、楽しそうな人生だよ。
どうやったらこんなに生きることを楽しめるのやら。
とりあえず、俺もこのトラブルを楽しんでみるか。
そう開き直ると、不安そうに俺を見上げている子供の頭をなでる。
「着いてくる以上、甘やかさないからな。とりあえず、読み書きと計算はできるようになってもらうぞ」
「このおじいさん、もしかして賢人ですか?」
とある箱庭の管理をしていたシェラザードがたまたま目についた一人の老人について聞いてきました。
「・・・あぁこの子ね。たしか愚者の賢人だったかしら」
「愚者の賢人?愚者でありながら賢人なのですか?」
一見矛盾する組み合わせの呼び名にシェラザードは首をかしげます。
「普通の賢人とはその性質が違うの。この子は賢人というにはそこまで賢くないのよ」
普通の子供に比べればすごい知識を備えているが、賢人としてみれば知識はそこまで多いわけではない。
なににも縛られず、何も縛ろうとはしない。
ただ、あるがままに生きている子供だ。
「その生き方、あり方から愚者の賢人と言われるのです」
「賢人と言うよりは聖人ですね」
「聖人としては欲に忠実だと思いますけどね」
そんな愚者に導かれて、この商人が偉業をなすのはもうすこし先のお話。




