神様を嫌う箱庭
「シィル様、またあの箱庭で問題が」
「またかい?」
私の報告にシィル様は困ったような顔をされます。
報告している箱庭はある時期を境に創造神を否定し、別の神様をあがめるようになりました。
時の英雄が自身は神の子で、人として降臨した現人神であると宣言したのが始まりでした。
そして、英雄にふさわしい力を持っていた彼は混乱していた世界を統一しました。
人々を統治するための口実のようなもので、神が治める国と言うことで統治はうまくいっていました。
しかし、世代交代を繰り返すうちに創造神の子ではなく創造神が輪廻転生を繰り返して王位に就いているという妄言を吐くようになったのです。
創造神を崇め祭るものたちは反発しましたが、現人神を名乗った英雄の子孫は創造神をまつるものたちを弾圧するようになったのです。
今では、創造神を表立って祭るものもいません。
「今度は何を始めたんだい?」
「神殿や神像を壊し始めました。歴史的価値のある遺跡なども含まれています」
「創造神話を否定し始めたのか。神からの脱却を求めるのはいいけれど、仮にも創造神を名乗るものが過去の自分を否定するとかなんだかなぁ」
「自身の行いを否定していると思われることに気づいていないのではないでしょうか?」
創造神の神殿や神像を壊すと言うことは、創造神の生まれ変わりである自分の過去を否定すると言うことに他なりません。
それは、自分自分の否定でしかないのですが、どういうことなのでしょうか?
「過去の姿ではなく、今の自分を祭ってほしいのだろう。現人神だなんて話がそもそも人心を集めるための方言でしかない。人心を自分自身に集めるためにやってるんだろうけどどうなるやら」
「評価は半々といったところでしょうか。創造神の生まれ変わりと称したことに神殿側は反発していましたが、完全に王宮と距離を取り始めています。一部では軍と神殿騎士たちの衝突が起こりそうなっているところもあります」
「民衆はどんな感じだい」
「不安になってますね。創造神の生まれ変わりなのに、自分を祭る神殿を弾圧しているわけですから乱心したのかと」
「人心が離れてるね。神託を出して様子を見るしかないかなぁ」
「神官に神託を渡しても意味がないと思いますが」
「いや、今回は箱庭の住人すべてに夢として神託を出す。全員が全員同じ夢を見たとなればでたらめと切り捨てることは難しいはずだ。逆にそこまでするのであれば、国が傾くのはもう止められないだろう」
諫めたに止まらないのであれば、それはもうその箱庭の住人たちの選択だ
後はなるようになるとしかいえない。
「わかりました。それではそのように対応します」
「よろしくね。しかし、残念だよ。建国の英雄は僕をとても大事にしてくれて、今も僕に尽くしてくれているのに」
この箱庭の国を作った建国の英雄は生前の功績からシィル様に召し抱えられて眷属神候補として働いています。
自身がいた箱庭の変化にいつも心を痛めており、シィル様に申し訳ないとことあるごとにいっていました。
きっと、この状況に頭を抱えることでしょう。
「彼にはどう伝えますか?」
「ありのままを。その上で彼の罪ではないので気にしないようにと」
「言っても無理だと思いますが伝えておきます」
後日、箱庭の状況を聞いて彼はシィル様に頭を下げに来ました。
真面目で出来た人ですが、真面目すぎるのが玉に瑕です。
最後にはシィル様だけでなく眷属神全員で彼を慰めることになりました。
なお、件の箱庭は神託を受けて動いた派閥により統治者が退位させられ、王位継承者の中でも恩恵派だった人物が即位することで落ち着きを取り戻すこととなります。
即位した新しい統治者は創造神の生まれ変わりでないと宣言し、壊された神殿の復興などに力を入れることで失われた人心を取り戻すことになります。
<創世記裏話>
神様は箱庭の中で育った優秀な人材を死後に召し抱えることで増えます。
もっとも、本人の意思が最優先されるため神様にならない人もいます。
また、召し抱えられても昇神試験に合格しないと神になれず、箱庭の世界に戻されることになります。
なお、このとき世界の狭間の記憶はなくなり、まっさらになって転生します。
人材は神様の世界でも不足しているので、優秀な人材を育てられる創造神は新人の教育なんかを押しつけられる傾向があります。
ちなみに、シィルのところは少数精鋭ながら優秀な人材がそろっています。
が、これはシィルが頼りないと思われてるため眷属神たちが頑張っているのが原因で、シィル本人も自覚があるので努力した結果である。
まだまだ新米なのと、少数であるが故に引き抜きをされるといったことが今のところありません。
もっとも、引き抜きの話が来てもシィル本人を気に入った人ばかりなので、よほどの理由がないと引き抜かれることはない。