チートのない箱庭
異世界転生とチートのお話
「残念ですが、あなたは死んでしまいました」
「よっしゃー!!」
唐突に叫びを上げた俺に、相手はビクッと体を震わせる。
「あの、あなたは死んでしまったのですよ? どうしてそんなに喜んでいるのですか?」
「いや、死んだことはショックですけどね」
友達と旅行に行った先で、起こった事故で俺はあっさりと死んでしまった。
たまたま崖崩れの現場にいて、土砂に潰されそうになった子供のかばい、代わりに生き埋めになったのだ。
苦しまずに即死したようなのでそこだけは救いだと思っている。
まだやりたいこともあったし、彼女とか作って見たかった(彼女いない歴=年齢・・・ほっとけ)けど、死んでしまったのはしょうがない。
「残念ですけど、殺されたわけでもないですし。それより、わざわざこうして話していると言うことはもしかしなくても?」
「え、ええ。あなたさえよろしければ異世界に転生することが出来ます。もちろん、元の世界にそのまま転生というのもありです」
「是非、異世界にお願いします」
食い気味に迫る俺に相手はとどまっているようだ。
しかし、興奮するのを俺は押さえられない。
だって、異世界だぜ?
ラノベとかでよくある異世界転生だ。
一体どんな世界に転生させてくれるんだろうか?
「本当に良いのですか? 元の世界での転生でしたら異世界への移動する分のおまけがありますけど」
「問題ないです」
「えっと、まぁ、行っていただけるならこちらとしては助かります。最近、合意なしで送ったりすると苦情が多いので」
「苦情とか来るんですか?」
「はい。一応、自分が管理している世界なので神殿などから送られてくることがあります」
異世界を管理する関係で、問題が起こってないかを神殿の神官たちを通して時々見守っているそうだ。
そうすると、異世界に転生したのはいいが、思い通り行かなかった転生者たちが身勝手な苦情をあげてくるそうだ。
「一度転生してしまうと、管理する世界でも手が出せなくなるのです。なので、転生してから文句を言われてもどうすることも出来ません」
神の干渉はささやかなことでも世界のあり方を変えかねないため、干渉にはいろいろと厳しい規則があるそうだ。
「最後の確認となりますが、本当によろしいですか? ここでの制約は強制力が働くので一度決めてしまうと変更がききませんよ?」
「大丈夫です」
「わかりました。それでは異世界への転生で手続きをしますね」
そういって手を振ると一枚の紙が現れ、文字が刻まれていく。
しばらくして、文字が刻まれた紙にサインをするように言われたのでサインをする。
すると、紙は光の球になり俺の体の中に吸い込まれていった。
「契約は完了しました。これで手続きは完了です。お時間を取ってすみません」
「いえいえ。それでどんな世界なんですか、転生先は。」
「転生先は科学ではなく魔法が発展している世界です。魔王とかは居ません。また、戦争とかもないのどかな世界ですね。貴族も基本まっとうな人たちばかりです」
「平和な世界なんですね」
「はい。あと転生の特典になりますが、やってもらうことは特にありませんのでちょっとだけ環境が良い家にうまれるというものです」
「へ?」
「商人としては中堅くらいです。羽振りが良いわけではないですが、飢えに苦しむと言ったことはないはずです。運がよければ成り上がれますよ」
「あの、それだけですか?」
「はい。ただ死んだだけですと、ランダムなので最悪貧困層の家庭に生まれたりします。元の世界でもそうですが、貧困層に生まれると本当に大変なので、そういう苦労が少ないところを選ばせていただきました」
「・・・あの、チート能力とかは?」
「ありませんよ。そんなものを意味もなく与えたら転生先の世界のバランスがおかしくなるじゃないですか」
なにを当たり前のことを言ってるんですかと言わんばかりの顔で言いかえされた。
「ちょ、ちょっとまってくれ。こういうときはなにかチート能力をくれるんじゃないのか?」
「特に用事を頼んでいるわけでもありませんので、そんな能力は授けられませんよ? そもそも、ランダムで決まる転生先を選択させてあげてるのです。それ以上はちょっと」
「そ、そんな・・・」
「そもそも、チートをあげるなんて言ってないじゃないですか。私は異世界に転生できますけど、どうします?って聞いただけですよね?」
「た、確かにそうだけど」
「一応、転生先で苦労しない環境を選んでますけど、油断すると没落するので頑張らないとだめですよ。あと、特典と言うほどではないですけど少しだけ身体能力が高いです。まぁ、常人より強いと言うだけで鍛えないと伸びませんし勇者とかから見ればささやかですけどね」
マジか。
くそ、こうなると知識チートしか残らないじゃないか。
「最後に、これより以前の記憶は転生先で問題になるのでさっぱり消えてなくなります。過去があると価値観の違いとかで心が病んでしまう人が出てきたのでそのための処置です。それではよい来世を」
「ちょっとまてぇぇぇぇ」
記憶が消えたら知識チートもなくなるじゃねーか。
なにもない転生などやってなにが楽しいんだよ。
それなら特典付きで元の世界に転生する方がよほど良い。
「契約が完了しているので変更はきかないんです。最初に言いましたよね? お気をつけて」
そんな言葉を聞きつつ俺は意識を失った。
「そんな都合の良い世界があるわけないじゃないですか」
たまたま管理していた箱庭で転生する子供と対話している眷属がいたのだけれど、意思疎通が少しとれていない様子だったのでなにかあったときのために控えていたのだがうまくいったようだ。
「あれはうまくいったというのでしょうか?」
「言いたいことはわかるけど、嘘をついてるわけじゃないからね」
異世界に転生するとこで必ずしもチート能力が与えられるわけじゃない。
あくまであれば転生してもらう理由がある場合に与えられるもので、理由もなしに与えられるものではない。
一部でそういうこともあるが、あれは偶然獲得したか善意で与えられたものに過ぎない。
不要にチート能力を与えて箱庭の管理に支障が出ると困るのは管理する我々だからだ。
「違う箱庭に移動するときに子供の魂が強化されるからそういう意味では一応チート能力は獲得していると思うけれどね」
「それはそうですけど」
「ま、気にしてもしょうがないさ。記憶の消去とかはうまくいっているかい」
「・・・はい、そちらも問題ないようです」
「異世界から転生してきた魂だ。記憶がなくても成長のしかたは元の世界とは異なるだろう。しばらくは様子を見ようか」
「了解しました」
以前の話で世界転生者には特典が作ってはないですが、意図して与えられない力は覚醒しない場合があります。
自分の中ではあくまでチートはなにかをしてもらうための代償だったりするので、意味もなく与えられません。
記憶も同様です。
ただ、意図せずに転移してしまったり、たまたま転生時に魂が強化された結果、強い力を持ったり異能に目覚める場合はあります。
この場合、すでに箱庭内に転生してしまっているため創造神から波動使用もありません。
一応、神託なので暴走しないように導いたりはしますが、直接封印したりと言ったことは出来ません。
創造神も箱庭を管理する上での決まりからは逃れられないのです。




