作り替えられる箱庭
シィル様はフィオナ様に激甘です。
ですが、ジャンヌには激甘えだったりします。
そして自然にいちゃつくという。
誰か、この二人を止めるんだ!
「う~ん」
「シィル様?」
いつもの見慣れた風景。
眷属や見習いたちからの報告を聞いた後、報告をしに主の庭園にやってきた私の目に困ったような雰囲気の主が映りました。
「ジャンヌ? どうかしたのかい」
「いえ、特になにも。いつもの定期報告です」
「あぁ、もうそんな時間かい」
そうおっしゃられると、手にしていた箱庭をおいて腕を振られます。
するとシィル様の側にアフターヌーンティーのセットが載ったテーブルが現れます。
もちろん、カップが二人分用意されています。
「ちょうどよかった。お茶でも飲みながら報告を聞こうか」
そう言って御茶を入れようとするのを遮り、御茶の用意をします。
「どうぞ」
「ありがとう」
微笑みながらシィル様はカップを受け取られます。
「いつも言いますが、給仕を自分でなさらないでください」
「そうは言うけれどね、君たちはお茶くみじゃないんだから」
「ねぎらっていただけるのは本当にうれしいのですが、そのようなことをされると皆気を遣います。それなら給仕をするものを側に置いてください」
「お茶くみのためだけに人をおいてもねぇ」
「見習いたちならば、シィル様のお仕事を見るだけでもよい経験になりますよ」
「そうかい? まぁ、一考していこう」
「お願いします」
もう何度も繰り返したお願いをしながら自分の分を入れると、私はいつものようにシィル様に報告をあげます。
特に問題もなかったためすぐに報告は終わり、そのまま休憩になります。
「そういえばシィル様、どうなさったのですか? 何やら箱庭を見て悩んでおられたようですが」
「なに、たいしたことじゃない」
そうおっしゃると、先ほどの箱庭をこちらに差し出されました。
のぞき込んでる見ると、ずいぶんとのんびりとした景色が広がっています。
人口はそれほど多くなさそうですが、自然豊かな美しい風景が見れそうな箱庭です。
「ってこれ、保養地の箱庭じゃないですか」
シィル様の手にあったのはシィル様が作られた眷属やルミナ様たちとのんびり過ごすために作られた箱庭でした。
私たち眷属たちの慰安にも使われるこの箱庭は、創造神たちがもつ特権の一つ-自分だけの箱庭を作る権利-によって作られたもので、普段私たちが管理している箱庭と異なり、創造神による干渉が許されている唯一の箱庭になります。
このため、普通の箱庭ではあり得ない環境を作り出すことが出来ます。
また、中に住む子供たちも特別製で創造神によって作り出された特別の存在で使徒と呼ばれます。
「管理している箱庭に新しい文化が生まれたようなのでね。この箱庭に追加してみようと思ったんだけど、箱庭にかかる負荷を減らすにはどうすればいいかと悩んでいてね」
「あぁなるほど。下手に手を加えると壊れてしますから」
創造神が干渉してもいいといっても、箱庭の器の問題があります。
時間をかけて育てることで許容量は増減させられますが、それでも限界というものがあります。
このため干渉する際にかかる負荷を減らすために、通常は既存の環境を利用して干渉します。
しかし、何度も作り替えていくと当然手を加えられる場所が減っていくため、干渉するほどに手を加えることが難しくなります。
どうやら、箱庭に手を加えようとしたもののうまくいかずに悩んでおられたようです。
「フィオナ様に頼まれてね、こういうものを追加したいのだけれどうまくいかなくてねぇ」
「フィオナ様に?」
お話をきくと、フィオナ様が気に入った食文化を入れてほしいと頼まれたものの、箱庭に余裕がないため今あるものを統廃合して何とかしようとしているがうまくいかないというお話でした。
「全く、フィオナ様はまた無理を言って」
「まぁ、追加してほしいって言われたものもいいものなんだよ」
「それはわかりますがもう、本当にフィオナ様には甘いんですから」
相変わらずの様子にため息をつきつつ箱庭を見直してみます。
「・・・ここの環境はこちらと似ているので近くに移動すれば圧縮できますね」
「そうかい? ・・・なるほど、そこが開いてくるなら、こっちとくっつけられるね」
「あ、そこが開けられるならこちらもいけますよ」
こうして、休憩するつもりが気づけば仕事をしておりました。
・・・楽しかったですよ?
***「・・・いい雰囲気ですね」
XXX「そうじゃの」
***「あれでどうしてくっつかないんですか、あの方々は」
XXX「自覚がないのじゃ。いい加減、見ていて砂を吐きそうじゃ」
***「それとなく乱入しますか?」
XXX「ジャンヌににらまれたいのであれば、好きにすればよかろう」
***「イヤですね、死にたくはありません」
XXX「それは儂もじゃ」
***、XXX「・・・はぁ」