繋がる箱庭
機械の体がほしい少年が乗っている訳ではありません。
もちろん、黒服の美女も透明人間の車掌さんもいません。
どちらかと言えば、アニメにもなった18禁のゲームのほうでしょうか?
あれも好きだったなぁ、世界観がとても。
「あれ?」
「シェラザード? どうかしましたか?」
見習いのシェラザードに箱庭の管理を手伝わせているときのことでした。
シェラザードが驚いたような声を上げました。
「いえ、この箱庭なんですけど、なにか光の糸のようなものが見えたものですから」
「光の糸?」
世話をしていた箱庭を置くと、私はシェラザードに任せていた箱庭に目をやります。
見習いの中では群を抜いて優秀であることがわかる丁寧な仕事が施された箱庭はさすがと言えます。
そんな箱庭に目をこらすと、確かに光の糸のようなものが箱庭から外に向かって伸びております。
糸の先はずっと続いており、先は見えません。
「この箱庭にこんなものはあったかしら?」
「いえ、私が世話をしていますが、先日まではこんなものはなかったです」
シェラザードの報告を聞きながら私も記憶を探りますが、この箱庭にこんなものはなかったはずです。
「・・・そういえば、以前も同じようなことが他の箱庭でもありましたね」
「そうなのですか?」
「えぇ。シィル様に報告して見せたときは、問題がないからそのままでといわれた記憶があります。そのときは深く聞かなかったので、これがなんなのかまでは知りませんが」
いい機会ですのです、シィル様に聞いてみましょう。
「他の箱庭の管理が終わったら、報告のついでにシィル様に聞いてみましょう」
「あぁ、それかい? 銀河鉄道だよ」
「銀河鉄道?」
箱庭の管理が終わり、報告に来た私たちをシィル様はお茶会に誘われました。
仕事の報告をねぎらっていただけるのはうれしいのですが、毎回このようにされてなくてもいいと言うのですが、ちょうど休憩したかったからと何度言ってもやめていただけません。
言っても無駄なのは理解しているので、せめて準備はこちらでさせていただくことになっています。
といいますか、見習いたちがかわいそうなくらいに緊張でガチガチになるのでお茶の用意をするのはやめてください。
シェラザードも今でこそ慣れましたが、最初はお茶の味がわからないくらいに緊張していました。
シェラザードが給仕を終えてテーブルに着いたところで、シィル様は説明を始めました。
「銀河鉄道って言うのは箱庭から箱庭へと移動しながら、箱庭の中での生涯を終えた子供たちの魂を別の箱庭に送り届ける列車のことだよ」
シィル様の話によると、本来箱庭の中の魂が箱庭の外に出ることはないそうです。
箱庭はそれ自体で完結しているというのが理由です。
例外として、箱庭群のように複数の箱庭で一つの箱庭については、箱庭群内に限り移動するそうですがそれ以外で他の箱庭には移動しないというのが原則だそうです。
これでは創造神が手を加えない限り箱庭に変革が起こりにくくなりますが、創造神は基本箱庭に大きく干渉しないため、変革はまず起こらないことになります。
そこで、銀河鉄道という例外を運ぶ存在が生まれました。
銀河鉄道は本来起こらない異なる箱庭への魂の移動を行うことで、箱庭を刺激する作用があります。
異なる箱庭から来た魂はその本質からして移動した箱庭の魂とは異なるため、本来はないいわゆる前世の記憶やその箱庭にはこれまでなかった能力を持った子供が生まれやすく、その子を中心に様々な影響を箱庭に与えます。
そうすることで箱庭の成長に刺激を与えていくのです。
「この銀河鉄道はすべての創造神が作り出した箱庭の間を移動して魂を運んでいる。どんな魂がやってくるかは本当にわからないんだ。だから、銀河鉄道がやってきた箱庭は要観察する必要がある」
「といいますと?」
「やってくる魂に善悪は関係ないから。安定していた箱庭を壊すような悪人の魂が入ってくるということもあり得るのだよ」
まぁ、そういう魂については、基本記憶も能力も付加されない状態で送られてくるそうですが、魂の本質が悪なのでよくない変革が起こりやすいんだそうです。
「前に聞いた話だと、ある箱庭に移動した悪人が大規模な犯罪組織を作って国が一つ潰れたそうだ。他の国々はそのことを教訓に犯罪に対する備えみたいなのが出来たようだけど」
思った以上にとんでもないことが起こっていたようです。
「場合によっては、平和だった箱庭が殺伐とした箱庭になることもある。そういう意味では劇薬の類いだよ」
「我々がどのように対応すればいいのでしょうか?」
「そうだねぇ・・・基本、今まで通りかな。神託で周り注意を促す。そういう魂が悪い方向に行かないように導いたりするくらいかな。あとはもう子供たちの行動で決まるから僕たちが手を出すことじゃないよ」
基本的に私たちに出来ることはないようです。
「銀河鉄道と言えば、どこかの箱庭に銀河鉄道をモチーフにした物語があったね。見たところ作者は銀河鉄道で移動した魂だったようだ」
「銀河鉄道の記憶があるというのですか?」
「おそらくね。本人は夢駄と思っているようだけど」
そういうとシィル様は一冊の本を差し出してきました。
「興味があるなら貸して奥から読んでみるといいよ。ちょっともの悲しいけれど綺麗な物語だった」
「ありがとうございます」
興味がありそうなシェラザードに本を渡すと彼女はうれしそうに受け取った。
お茶も飲みきった様子だったので私たちはそこでお茶会を切り上げることにしました。
モチーフは銀河鉄道管理局が運行している某列車じゃないです。
アニメ版で猫が主人公だった文学小説の方です。
高校の宿題でこれの読書感想文をかいたところまたわかりにくいものでかいたなと言われました。
個人的には表現が綺麗で好きなのです。
当時あった事件なんかも地味に出てくるのでもの悲しいですが知らない人は読んでみるとおもしろいかもです。