勇者と聖女が救われる箱庭02(勇者の視点)
前回からの続きです。
今回は勇者の視点です。
あと、シィル様たちの出番はまだありません。(笑)
「まったく、くだらないことをしてくれる」
神託に従い、聖地巡礼の間に聖女であるセシルの故郷に寄ったのだが、知らないところで彼女の両親たちになにかが起こっていたらしい。
ここ半年ほど手紙が帰ってきていなかったので、気になっていたところに運良く巡礼の順序を変更すべしと神託がおりたことから故郷による機会が出来たのだが、まさかこんなことになっているとは。
順調に浄化も進んでいて余裕があるから少し骨休めをしてくるといいと王子たちに言われたというのにこれでは休めそうにないな。
セシルの実家周辺があんな状態だということはシルビアの方もなにかされているだろう。
平民出身の聖女であるセシルのことを快く思わない貴族たちが、なにかやってくるだろうと思っていた事態の一つなのでそこまで驚きはない。
陛下から聖女に変なことをしないようにと釘を刺されているにもかかわらず、手を出してくるとは馬鹿なのだろうか。
なにはともあれ、急いで連絡を取らないといけない。
しかし、表だって連絡を取ろうとするとこの事態を引き起こした黒幕に感づかれてしまう。
王子たちとはもしもの時の連絡手段を持っているので問題はないが、シルビアと直接連絡を取るのは危険すぎる。
カーラたちがいればあいつらに頼むのだが、こちらの状況を先になんとかしておかないとセシルの心が耐えられないだろう。
幸い、男爵様もついているし連絡がつけば顔を出しに行くまではなんとかなるはずだ。
そう考えた自分は、顔を隠して変装すると、とある商店に顔を出した。
「すみません、今日は店じまいなんですが・・・」
「すまない、店主はいるか。これを見せてほしい」
懐から小さな袋取り出して応対したものに渡す。
店員がそれを持って確認に下がるとすぐに奥に通された。
「お久しぶりです、勇者殿」
「やめてくれ、おまえに言われると背筋がゾクゾクする」
相手のなれない言葉遣いに肩をすくめる。
「その様子からすると、もう気づいてるんだな、ジーク」
「わかってるならもっと早く言ってくれ、ギース」
目の前にいる商店の主、ギースに軽く文句を言う。
彼とは幼馴染みで有り、故郷では領主御用達の商会の跡取りでもある。
勇者になる前から付き合いで、子供頃はいっしょに馬鹿をやった仲だ。
こっちにちょうどいたようだから予定が合うならいっしょに故郷に行こうと思っていたところだった。
「無茶言うなよ。こっちだってシルビア様に頼まれて急遽こっちに来たんだ。そっちだって急に順路を変えたって連絡が来たっきりだったじゃないか」
「神託がおりたせいで急だったからな。で、どこまで知ってる? シルビアや男爵様は無事なのか?」
「男爵様たちの方は今のところ大丈夫だ。セシル様のご両親やアルフ君の方が心配だが、すでに護衛はついてるからとりあえずは大丈夫だろう」
「アルフ君は明日まで戻らないんじゃないのか?」
「その仕事を依頼したのがうちだよ。セシル様の周辺の監視となにかあったときの対応が俺の仕事だからな。様子が変だって報告が来たからとりあえず、仕事を依頼して保護したんだよ。表向きは男爵様のところへの荷物の納品なんだが、本命は男爵様のところで保護する予定だった。もっとも、ジークたちが来るというので、こっちに迎えに来るよう手配しなおしたんだ。勇者と聖女の出迎えと言うことで騎士団も派遣できるしな」
「なるほど」
セシルの婚約者でおさなじみであるアルフ君は行商人の卵だ。セシルが聖女に選ばれたとき、彼女の身内に面倒がからないようにと男爵様が密かに護衛などをつけたのだが、調査の過程で彼もまた優秀な人材だと判明し、男爵家で登用するべく育成を行っている。
現在はギースのところで必要な知識や技能を身につけている最中である。
「基本的なことは出来るようになったので、男爵様のところにそろそろ送ろうと思っていたのだが、急にその話を断りたいと言われてな。男爵様が絡んでいる話だから手紙とかだけで決めるわけにもいけない。なので直接話をするようにと荷物の輸送もかねてあっちに送っていたんだ」
「となると、男爵様はすでにご存じなんだな」
「あぁ、向こうにも接触はあったみたいだが、うまく時間稼ぎをされている様子だった。しかし、接触してきたのは神殿の関係者みたいなんだ。なので、対応に困っている様子だった」
「神殿が絡んでいるのか?」
「あぁ。そもそも様子がおかしくなったのも、先月の収穫祭の時期からだからな」
「祭りでやってきた神官に紛れて接触してきたのか。祭りの騒ぎに乗じて話をつけたのなら確かに目立たなかったろう」
神に仕える神官だからと言って全員が全員信用できるというわけではない。
神殿内でも派閥があり、中にはそもそも神の言葉を疑っているなぜ神官なんてやっているのかわからないような神官もそれなりにはいる。
おそらくそういったものたちを使い接触して脅したのだろう。
「貴族だけかと思ったが神官まで絡んでくるとは、思ったよりも大きな話になりそうだな」
「おまえがすぐに来てくれて助かったよ。男爵様じゃもう手に負えないくらいになってるから急ぎ王子たちに連絡をつけてほしい」
「そうだな。神殿の枢機卿に働きかけを依頼しよう。神殿の方はそれである程度わかるだろう」
さて、ふざけたことをしてくれた黒幕にはしっかり償いをしてもらおうか。
<設定>
勇者は男爵家に仕える騎士の血筋ですが爵位などは持っていません。
このため、地は結構庶民じみてます。
婚約者は仕える男爵家の第二令嬢。
快活な性格で、子供の頃、勇者はいつも振り回されていた。
仕えている主人は辺境の男爵で地位こそ下級貴族ですが、優秀なため国境に接している領地を任されている。
士官学校時代に公爵家現当主と友人だったこともあり、信頼されている分周りのやっかみも多く、苦労している。