終末の箱庭
始まりがあれば終わりがあるのです。
「シィル様」
「うん? ・・・あぁ」
私が差し出した箱庭を見たシィル様はすぐに気がついたようだ。
「この箱庭は僕が創造神になった最初に作ったものの一つだ」
箱庭を受け取ると、懐かしそうにその箱庭を見つめる。
「当時はなりたてで失敗もよくしてダメにした箱庭も多かったけど、この箱庭はそんなかでも頑張って育ってくれたんだ」
作られたばかりの箱庭はとても不安定なため、調整を誤るとすぐに壊れてしまいます。
また、いったん安定したように見えてもなにかの拍子に不安定になることもあるため、箱庭の世話は大変手がかかるお仕事なのです。
創造神だけでは世話が出来る数に限りがあるため、自然と眷属神を召し抱えることになります。
新米の創造神は少ない箱庭を育て、自らの眷属神となる人材を育てることが最初の仕事となります。
「安定こそしたけど、あまり発展はしなくてね。残念ながらこの箱庭からは眷属神は生まれなかったんだ。でもとても優しい世界だったから気に入っていたんだけど」
優しい目で見つめるその箱庭は少しずつですが、輝きを失っていくのが見えました。
箱庭は生命が満ちてるほど輝きをまとっています。
その輝きが失われるということは、つまり・・・。
「・・・どうやら、最後の命が消えてしまったようだ」
そう、命の火が消えて、箱庭が終焉を向けると言うことです。
「調整がうまくいかなくて崩壊する箱庭というのは見たことがありますが、命の火がすべて消えることで終わる箱庭というのは初めて見ました」
「まぁ普通はここまできれいに命の火が消えることはまずないからね。この箱庭の終わり方がかなり特殊なんだ」
通常、動物がいなくなることはあっても植物は残るため、完全に命の火が消えてしまうことはありません。
このため、箱庭の終わり方は箱庭そのものが壊れるかあるいは、創造神が何らかの理由で壊すかの二つになります。
箱庭そのものが壊れる理由は大抵の場合、子供たちが力を暴走させた結果箱庭が不安定になり崩壊することです。
創造神が箱庭を壊す理由は、先ほど言った植物だけになったなどの理由で、箱庭の成長が見込めなくなった場合に行われます。
管理できる箱庭の数には限りがありますので手が足りなくなると、そういう箱庭を壊して新しい箱庭を作ったほうが創造神的にはいいのです。
この場合、箱庭に残った生命体は同じような箱庭に移したりして存続させます。
通常は行わないような大規模な干渉になりますが、創造神の都合で箱庭を壊しているためこのような処置となります。
「ジャンヌ、みんなを集めてくれ。とても珍しい終わり方だからみんなにも見せておきたい」
「ほぅ、これはまた珍しいのぅ」
「フィオナ様でも珍しいのですか?」
招集された眷属神や見習いたちが箱庭を見守る中、そんな言葉をフィオナ様が口にされた。
「フィオナ様でもあまり見たことがないのですか?」
「うむ。隠居するまでそれなりの箱庭を管理してきたが、命の火が消えた箱庭なぞ数えるほどしかない」
フィオナ様の言葉に皆興味深そうに箱庭を見ます。
創造神でもあったフィオナ様ですら数えるほどというのですから、この箱庭は本当に珍しい終わり方を迎えたのでしょう。
「ジャンヌ、そして他のものたちもしっかり見ておくがよい。役目を終えた箱庭はただ壊れた箱庭とは異なる部分があるからの」
そういうとフィオナ様はシィル様に視線を向けうなずいた。
シィル様は箱庭を手にすると、力を注ぎ込んでいく。
しばらくして、箱庭にひびが入リ、光る砂がこぼれおち静かに崩れていきました。
箱庭が完全に崩れ落ちると、シィル様の手には光る種が握られていました。
「箱庭が壊れると世界の種子が残るのは知っているだろう? このとき出来る種子はたまに2つになるが、普通は1つしか残らない。しかし、役目を終えた箱庭は種子を最低でも3つ残るんだ。」
「しかも生まれ種子は終わった箱庭の特性を秘めており、普通の種子よりも質がよいのじゃ」
シィル様とフィオナ様のお話では、役目を終えた箱庭はそれまで箱庭に満ちた力が凝縮しているために種子が多く出来るとのこと。
しかも、その箱庭の特性を引き継いでいるため、同じような文化が育ちやすいそうです。
ちなみに壊れてしまった箱庭は箱庭の力が十分に凝縮していないため、残る種子は一つしかないそうだ。
「世界の種子を増やすには、箱庭を発展させて長い間存続させることで生まれるものと、こうやって壊れずに役目を終えた箱庭を育てるしかない」
「終わることは悲しいことじゃ。しかしその命はこうして引き継がれていく。じゃから終わることは決して悪いことではない。むしろ、無理に存続させることでだめになることもあるのでな。終わらせることもまた一つの方法と心得よ」
箱庭が壊れないように、終わらないように世話をすることが私たちの仕事ではあります。
しかし、箱庭で育ったものが次の箱庭につながるのであれば、箱庭が終わることも一つの方法なのですね。
この種子から生まれる箱庭はどんな箱庭になるのでしょうか?
少し楽しみです。
GWにあるコミック1に申し込みました。
落ちていなければ、この話をまとめた本を出したいと思います。
話がまとまれば知り合いに挿絵とか頼みたいと思います。
詳しくは、イベントに当落が決まったあたりに連絡したいとも思います。