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経緯通(いきさつストリート)  作者: さかがみ そぼろ
9/25

いきさつストリート#9


◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇


 富良野(ふらの)「さて、大金持ちがひとり、豪邸に住んでいる。そしてここに謎のボタンがひとつある。そのボタンを押せば、何故かその大金持ちが亡くなって、大金持ちが所有する財産が何故か自動的に君の物となる。その大金持ちと君とは全く何の縁も所縁(ゆかり)もない赤の他人だ。君ならそのボタンを押すかい?それとも押さないかい?」

 

 鷲追(わしおい)「何だ?何だってオレにそんな訳の分かんねえ質問してくんだ?そのカネ持ちが嫌なヤツだったら迷わず押すんじゃねぇか?そうすりゃソイツのカネがオレの手に入るんだろ?逆にカネ持ちでも話の通じるまともなヤツだったら押さねえな。でもそのボタン持ってカネ持ちに会いに行ってたまにはカネをせびりに行くかもな。要は脅して少しばかり財産を頂くだけだ。そのほうが賢いだろ?」

 

 富良野「フフフ。なるほど実に君らしい答えだ。実はその大金持ちというのは自分自身の親を暗示している。そしてそのボタンを押して財産を得た場合、次にその子孫に謎のボタンが手渡されるのだ。縁も所縁もないと言ったのは実は引っ掛けでね。ボタンを押す心理状態にある者はたとえそれが自分の実の両親だろうと押すのだよ。そして1度でもボタンを押してしまったが最後、それは繰り返されるのだ。財産が無くなるまでね。フフフ。」

 

 鷲追「久々に会ったってのに相変わらず気持ち悪りぃ事考えてる野郎だな。変な本の読み過ぎなんじゃねぇのか?」

 

 富良野「まあ、昔のよしみだ。偶然君がこの研究所に来たのも何かの縁があるのだろう。確か君は畜産業に従事しているのだよな?そこで提案なんだが、仔牛を1頭譲ってもらえまいか?研究で使いたいのだ。勿論言い値を支払おう。」

 

 鷲追「ああん?ウチは食用しか扱ってねえんだけどな。他んトコロ紹介しようか?オレんトコロは一応はブランド牛だからな。」

 

 富良野「勿論、それでも構わない。新種の血清を作るだけだからな。本当なら人間で試したいのだがな。しかしそれはどうやら倫理に抵触する、という理由からタブーとされているんだ。全くどうかしている。そういった似非(エセ)ヒューマニズムが科学技術の更なる発展の最大の妨げとなっている事実に気づいていながら誰ひとりとして異を唱えないのだからな。実に嘆かわしい事だ。」

 

 鷲追「どうかしてんのはオメエのほうなんじゃねえのか?誰が好き好んで怪し気な人体実験に志願する、ってんだよ!?相変わらず不気味な野郎だなしかし。」

 

 富良野「研究に犠牲はつきものなのだよ。誰かが毒キノコを食べて死んだ事実があるからこそ、被害は最小限で食い止められるのだ。私は常々考えているのだよ。富を蓄わえこの世の贅を堪能し尽くした者が有する脳内の快楽物質が研究に役立つ日が来るのではないか?とね。是非とも心ゆくまで解剖したいモノだ。フフフ。」

 

 鷲追「いやいやいや、ちょっと何言ってるかさっぱり分かんねえ。なんとか分かるのは相変わらずオメエがアブナイ人なんだな、って事くらいかな?」

 

 富良野「失礼。少々取り乱してしまったか。ではその別の畜産家の連絡先を教えてくれまいか?本当に仔牛を譲ってくれるのだろうな?」

 

 鷲追「ああ、アソコは大丈夫だろ。ただ経営状態があんまり芳しくないようだからちょっと吹っかけて来るかも知れねえけどな。災害でまとめてかっ拐われておじゃんになるよりかは研究のお役に立てるほうが何倍もマシだろうさ。」

 

 富良野「フフフ。それは良い心掛けだ。他にも何かあったらまた頼むかも知れない。その節は宜しく頼むよ。」

 

 鷲追「ニワトリ用のワクチンもらいに来ただけなんだけどオレ。出来ればあんまりここには来たくないけどね!はいこれ連絡先。それじゃあね!次、ってか今度会う時、留置場の金網越しじゃない事を心から祈るばかりさ!」

 

 富良野「フフフ。その無遠慮で馬鹿正直な物言いが何とも君らしいな。勿論その心配は御無用だ。私がそんなヘマをする訳がないだろう?フフフのフ。」

 

 鷲追「やっぱりオメエ、何か怪し気な研究してやがんな!?もう2度とこんなトコ来たくねえオレ!」










◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇


 敢渡(かんと)「人がこの世に誕生する際、自由意思の結果選択して生まれてくるのか、それとも自分の意思とは無関係に他の存在によりこの世に誕生させられたのか、という疑問。つまり私は私をみずからの意思で獲得したのか、それとも他の誰かに私になるように仕向けられたのか、の問い掛けとなります。」

 

 九里砂(くりすな)「目が見える者は風景を記憶する。耳が聴こえる者は言葉を記憶する。人は現象を言語に変換し、抽象化した記憶を有する。しかし実像と虚構には越え難い障壁が存在し、実像は決して虚像とはならず、虚像もまた実像にはなれない。両者は全く異なる存在なのだ。」

 

 敢渡「???」

 

 九里砂「君が自分と信じて疑わない『私』という存在は果たして実像なのか虚像なのか、という問い掛けに等しく、他人に問い掛ける場合は必ずその虚像の私を伝えるようなものなのだ。」

 

 敢渡「おっしゃる意味がさっぱり分かりません。確かにたとえば私が今持っている本は実像ですが、本という言葉自体は虚構である、といった事をおっしゃっているのでしょうか?」

 

 九里砂「外界記憶とは抽象化された虚構に過ぎず、自分や他人といった認識そのものが言語化されたイメージに過ぎない。その1点で考察すると、自然現象と人工物の境界線が消滅する。今まで人工物と考えられていたものがその実、自然現象の延長線上にある単なる1自然現象のひとつに過ぎないという事になる。」

 

 敢渡「理解するのが困難ですが、我々人類が築いた建築物や工業物も森や湖のような自然に出来たもの同様、自然現象の結果生み出されたものという事でしょうか?そんな馬鹿な!?」

 

 九里砂「言語化された現象記憶を加工して我々人間が造った物を人工物と錯覚しているに過ぎないのだ。何故なら我々人類も自然に生み出された結果、人間という生物の立場を享受しているに過ぎない。自然物を人類の適性に合わせて加工したところで自然物が多少その姿形を変化しただけの結果であり、ある程度その組成を人類に都合よく造り変えられるだけでそれもまた自然によって生み出された結果と見なす事が出来る。質問はその自然に生み出された結果、人間の形態となった個体は虚構である外界記憶を有した『自分』『私』という存在は個体その者自体が選択して生まれてきたのか疑問に感じている、という事で間違いないだろうか?」

 

 敢渡「少々頭がこんがらがって来ましたが、なんとなく理解出来そうな気がして来ました。『自然』にこの世に人として生まれた結果、外界記憶を言語やイメージという形で記憶習得し現在に至る今の『私』は、自由意思と錯覚している虚構の自分によって外界記憶を得た『今の自分』がみずから選んで『過去』の『私』としてこの世に誕生したのか、と疑問に感じている、そういった事になるのでしょうか?」

 

 九里砂「その通りだ。君は理解力が高いな。ただしひとつ付け加えると、多くの個体が有する外界記憶が自然現象に影響を与え、それらが複雑に融合した結果、現在の我々がいる。そしてそれは個体単独の意思のみでは自由に選択出来ない側面をも有しているのだ。先程も言った通り、虚像は実像に成り得ないが、実像が虚像を形造るのであればその逆も有り得るという事になる。即ち虚像を実像に転写して模する事もまた可能という事だ。結果としてそれを人工物と称しているに過ぎない。そして世界には自分ひとりしか人が居ない訳ではなく、複数の個体が有する虚像を転写した結果が現在の世界の(かたち)でもある。」

 

 敢渡「愚問でしたね。人とは習得した外界記憶によっては容易く錯覚を覚える不完全な生物だと判明しただけでも収穫はありました。回答ありがとうございました。」










◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇


 敢渡(かんと)「過去に滅亡したとされる文明というのは果たして我々人類の祖先が築いた文明なのでしょうか?それとも人類とは全く別種の生態系から生じた知的生命体が築いた文明なのでしょうか?それとも伝承自体が全くのデッチ上げの御伽噺(おとぎばなし)に過ぎないのでしょうか?」

 

 無頼婆月(ぶらいばつき)「やれやれ、それをあたしが知っている、とでも思っているのかい?あんたあたしが悠久の大昔から生きて人間やってる、とでも勘違いしてるのかい?」

 

 敢渡「なんとなく、なんとなくですけど唖幌さんや岩野さんに訊ねるより、無頼婆さんに聞くのが自然な流れかと思いまして。銅印先生以外のかたの見解も知りたいのです。」

 

 無頼婆月「はっ!実はそんな質問は過去に何度も占いで依頼されて辟易してんだけどね。アトランティスだとかムー大陸だとか。火の無い所に煙は立たずと言ってね、いくらデタラメの空想話だとは言っても何のネタも根拠もなきゃ架空のでっち上げ話だって作れやしないのさ。」

 

 敢渡「するとあながち全くのデタラメでもない、とおっしゃるのですね。世界各地に現存する古代遺跡、エジプトのピラミッドやペルーのマチュピチュなど、現在のテクノロジーでも作製困難な技術を持った知的生命体が過去に存在したのは結果から確実視されるとは思うのですが、僕が知りたいのはそれ等の古代遺跡を建造したのが人類の祖先なのか全く別種の生態系なのか、その1点なのです。」

 

 無頼婆月「宇宙人が作った、って説もあるだろ?ただその宇宙人、てのが何処の星から飛んで来たの?って聞かれると誰も現実的な返答は出来ないんだよねえ。あんた、例えば太陽に生命体が居る、なんて言われたとして信用する事なんて出来るかい?」

 

 敢渡「太陽ですか。恒星に生物は存在不可能でしょう。簡単に燃え尽きてしまうんじゃないですか?ウイルスだってあまりの高温な環境下では生存不可能なんじゃないですか?」

 

 無頼婆月「そりゃあんたが生命体の定義を人間の尺度で判断してるから存在不可能と限定してしまうんだよ。例えばそこの燭台の上の蝋燭の炎、それだってもしかしたら『生物』なのかも知れないよ?あくまで人間の尺度で見るなら一瞬で消滅しちまう儚い生命体なんだろうけどね。」

 

 敢渡「蝋燭の炎が生命体?そんな馬鹿な?」

 

 無頼婆月「あんたの言う生物の定義、ってのは有機物か無機物の違い、その程度の認識なんだろう?しかし人為的な炎、つまり人間が蝋燭を作って着火した炎だとしても、炎それ自体は人間が存在する遥か以前から炎として存在を認識されている、ここまでは解るかい?」

 

 敢渡「???」

 

 無頼婆月「あたし等はそういう存在の事を『精霊』と呼んでいるんだけどね。明確な意志を持った生物、って判断は人間が言葉を使うようになってから気が付いた概念のひとつでしかなくてね。身のまわりの事象を言語で表現するようになる、それ以前までは他の動物みたいに感覚で判別してたのさ。で、火やカミナリ、風とか水なんかはエネルギーとしか認識されてないだろ?人間の視点から判別するととてもじゃあないけど生物とは思えないだろ?しかしそのエネルギーに『意志』なんか無い、なんて事は何故言えるんだい?」

 

 敢渡「自然現象は人間のような思考を駆使して意図的に自由に振る舞えないからではないのですか?」

 

 無頼婆月「それが人間の尺度で物事を判断している、という事さ。精霊達は人間なんかより遥かに長生きだ。っていうより死ぬだとかとは無縁の存在なんだよ。精霊達にとっちゃ文明なんざ築く必要なんか無い。ありのままの自然が精霊の本来の姿だからね。もし精霊達が一種の生命体だとしたら人間なんか歯牙にもかけない程度の邪魔くさい微生物みたいなモンなのさ。」

 

 敢渡「本来の質問の主旨から外れてきてるような気もしますが、僕が知りたいのは遺跡が見つかっている古代文明は誰が造ったのか、という事なのですが。」

 

 無頼婆月「あんたの想像力で期待してる答え、ってのは古代文明を築いた連中もあたし等人間みたいに言語や文字を使用していて当然、といった決めつけがあるんじゃないのかい?じゃあひとつ訊くけどね、太陽に住んでる天使共が人間のような姿をしていて、人間みたいにおしゃべりする、あんたのイメージじゃそんな感じなんじゃないのかい?」

 

 敢渡「!!銅印先生もおっしゃっていましたが、超古代遺跡に文字を使用していた痕跡がほとんど発見されない、とも言っていたような………まさか………太陽に天使共が住んでいる?そんな馬鹿な!」

 

 無頼婆月「おおかたあんたのイメージじゃ真っ白な衣装着て背中にデッカイ羽根生やした頭の上に蛍光灯みたいな輪っか乗っけた後光射してるような聖人、ってのが天使のイメージなんじゃないかい?宗教画家のイメージそのまんま引用してるだけなんだよそれじゃあさ。」

 

 敢渡「つまり太陽から照射される光そのものも精霊、いや天使とおっしゃりたいのですか?馬鹿馬鹿しい!」

 

 無頼婆月「信用するしないはあんたの勝手さね。天使共は精霊達よりも遥か大昔に生まれたのさ。こっからよっぽど遠く離れた星なんかにいる大天使様なんかもっとずっと大昔から偉そうにしてやがるのさね。で、肝心の文明を築いた知的生命体、って話だったねえ。人間やら他の動物達が誕生する以前に生まれた存在だって当然いるよねえ?あんたも良く知ってる筈だよ?」

 

 敢渡「僕が生物学で学んだ最初の生命体はゾウリムシや藻のような微生物だと聞いています。」

 

 無頼婆月「そうさね。でもそこまで大昔じゃなくてもいるだろう?そこら辺につっ立ってる木偶の『棒』がさ。」

 

 敢渡「植物、つまり樹木ですか?」

 

 無頼婆月「正解。天使共や精霊達が育んだ最初の生き物が植物であり樹木なのさ。しかしその樹木が根から養分吸って生きるのではなく明確な意志を持って動物のように動き回れるように変異してた、としたら信じられるかい?」

 

 敢渡「まさか。それこそ宇宙人説以上に有り得ませんよ。木が歩いたり走ったりピラミッド建設したりするんですか?100%それはない、と断言しても良いですよ。僕はギャンブルはしませんが何なら賭けてもいい。」

 

 無頼婆月「その言葉を待ってたよ!金額はどうあれ、一度言った言葉には責任を持たなきゃねえ。あたしは何もピラミッドを造っただのムー大陸を滅ぼした、なんて事はひと言も言っちゃいないのさ。文明を築いた知的生命体は誰なのか、の問いに答えただけさね。あんた、そこら辺にある森だとか密林は人間の尺度で考えると文明でもなんでもない、そう決め付けて判断してる訳だよね?あれだけ密集して生えてんのに、何の意志もない、って感じでね。」

 

 敢渡「それこそ屁理屈ですよね?ペルーのナスカの地上絵なんかは植物が描ける訳がないでしょう?話にもならない。」

 

 無頼婆月「幾何学模様、って側面で判別するんだったら、例えばスズメバチなんかは見事なハニカム構造、ほとんど正6角形に近い巣を作るよ。スズメバチってのは人間みたいな知的生命体なのかい?同じ生物同士コミュニケーションはとってるだろうが人間の言葉なんざ通用しそうもないだろ?他にも奇妙な巣を張るクモだっているだろうさ。」

 

 敢渡「確かに、植物が一大古代文明を築いた、とはひと言も言っていませんね。賭けてもいい、って言ったのは失言だったかな?」

 

 無頼婆月「存外、勘が鋭いねえ。誰がそこに生息していたか?何も知的生命体とは限らない、そういった見方が出来るのかどうか?凝り固まった思考回路でしか物事を考えられないのならはじめから疑問に思ったり誰かに訊ねたりしない事さね。だからと言って恐竜が文明を築いたとも断定できやしないんだけどね。ただ恐竜とは言ってもあれだけ長い期間、何の変化もなく今の人間以外の動物達のように、ずっと何の疑いもなくのんびりと何千万年も恐竜を続けていてくれた、とも限らないって事だぁね。」

 

 敢渡「なんとなく、言わんとする事が分かって来ました。植物や海草から昆虫などの虫が派生し、虫の一部の個体が魚や両生類、両生類から爬虫類に派生していった結果、我々人類になるに至った。しかし人類に派生する以前に全く異なる知的生命体に派生した個体が過去の地球に存在した、そういった事をおっしゃりたいのでは?」

 

 無頼婆月「当たらずとも遠からず。植物からダイレクトに知的生命体に派生した、とは考えないのだねぇ?そんな事は絶対に有り得ない、と断言出来るのかい?そんなのは人間の判断基準ごときじゃ解り得ないモンなのさ。」

 

 敢渡「………銅印先生もおっしゃっていましたが、タイムマシンでも存在しない限り過去の地球の実況見聞は不可能だ、とも。確かに植物は人間のような言語やシンボルに依存した意思の疎通などしませんからね。これは僕に分が悪い賭けでしたかね。」

 

 無頼婆月「そういう事さ。自分の目で確認したモノしか信じない、って科学者気取りの頭でっかちはそういった想像力を鼻で笑っちゃいるが、分かってて馬鹿にするならまだしも作り話するペテン師よりたいしてネタを知らないで考えもなしで根拠が薄いだとか言って頭ごなしに否定しちまうのさ。人間、ってヤツは元々は存在しなかった言葉ってモンを過信して、その言葉が通じないヤツには何しても構わない、だとか勘違いしてるから精霊達からも嫌われてる、ってのを自覚しちゃいないのさ。」

 

 敢渡「真っ向から聖書を否定するような言い草ですね。僕は無神論者ですが聖書なら読んだ事くらいありますよ。キリスト教徒が今のセリフを聞いたら怒ってすぐにこの場から立ち去ってしまいますよ。」

 

 無頼婆月「人間だってこどもが悪さしたら懲らしめて反省させるだろう?天使共や精霊達にとって、ポッと出のルーキーさながら人間や他の生物、ってのはいわばあいつ等の子孫なんだよ。そして過去に少々お調子に乗っておイタしたそのかつての子孫にキツイお仕置きしたんだけど、ま、あいつ等の事だ。手加減すんのを忘れて滅ぼしちゃった、なんて事もあったんだろうさ。」

 

 敢渡「???何をおっしゃっているのかさっぱり理解出来ませんが。」

 

 無頼婆月「黙示録、ってのは黙って示された光景や何やらを記録する、って事さね。ただどんな生物にも数が増えると風変わりなヤツ、ってのは必ず一定の割合で現れちまうモンでね。種族全部が滅亡したと早合点しちゃ考えが浅いと罵られても文句は言えないだろうさ。持ち前の適応能力を発揮して生き残ってるヤツだって何処かでひっそり暮らしてるかも知れないよ。中には地球から飛び出してったヤツだって居ないとも限らない。地面の下を少々改良してこっそり住んでる奴等だって居るのかも知れないしねえ。あたし等がこうして人間やってる、って事は延々遡ってけば超祖先にぶち当たるって証拠だろ?親が居なきゃこどもなんて生まれて来ないんだからさ。でもあんなデカイ巨石を積み木みたいに詰み上げるのはもっとデカイ奴じゃなきゃ出来ないんじゃないか?とはいくらあんたでも考えたりしないのかい?」

 

 敢渡「過去には巨人が居て巨石文明を築いた、とでも?しかし我々の身体のサイズから判断してもせいぜい3メートル程度が限界では?多少身体が巨大な程度では考えづらいですが。」

 

 無頼婆月「現在発掘されてる遺跡なんざ地表のホンの表面上だけの一部分に過ぎないのさ。砂漠の砂を全部とっ払ってみりゃもっと古い時代の遺跡が姿を現すかも知れないし、海底の更に下層にゃもっと古い年代の都市の痕跡だってあるのかも知れないしね。堆積した砂塵なんかを全部除去するのなんざ人間ごときの技術をいくら進歩させたって相当難しそうだからねえ。疑い出したらキリがない。ま、人間程度の技術力じゃ探索可能な場所だって限定されてるしね。仮に身の丈10メートルも20メートル以上もある巨人が地上をウロウロしていて、そんなデッカイのがたかが数10万年や数100万年程度であたし等のサイズにまで身長が急激に縮むか、って言われりゃ疑わしいさね。って事はあんたの知りたがってた答えのひとつは?」

 

 敢渡「人類とは全く別種の巨人が巨石文明を築いたと?た、確かに、それならば辻褄が合いそうですが、しかもその巨人は我々人類の祖先である可能性は限りなく低い、そういう事でしょうか?」

 

 無頼婆月「いろんな国に古くから語り継がれてる神話にそのヒントが隠されてる、って言っちまえばそれまでだけどね。巫女が黙って示された光景を記録するとそんな感じに語り継がれるんだろうさね。見た事をどんな風に伝えるかは語り部の裁量語彙量次第だからね。神話に登場する巨人が本当に居たとしたら、差し詰めあたし等人間は巨人にとっちゃ小人みたいなサイズなんじゃないのかい?って事はあたし等の祖先、ってのは?」

 

 敢渡「今日は貴重な話を聞かせていただいて本当にありがとうございました。」

 

 無頼婆月「おっと!あんたの無駄話に付き合ってあげたんだ。あんたがいくら賭けるつもりだったかは知らないけど、過去の世界の霊視の報酬として言い値でいいから置いていきな。ついでに言えば今の話を全部鵜呑みにすんもの戯言として鼻で笑うのも好きにすりゃいいのさ。さっきも言ったろう?黙って示された光景をどうやって伝えるかは語り部の表現力次第だってね。」










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