いきさつストリート#5
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富良野「もしもこの先、科学技術が今以上に更に発展し、人間とほぼ同等のクローンを作り出す事に成功したとします。そのクローンは人間同様に年をとり、老衰に拠る寿命もあります。人間同様に喜怒哀楽があり、傍目に見ても遜色ない程に人間に酷似していたとしたら、クローンと言えども人間と同等の扱いをすべきなのでしょうか?かたや自然の成行きでこの世に生を享受した者、かたや材料と技術さえあればいくらでも複製を作成可能なものとします。」
九里砂「その回答は至極簡単だ。もし我々が複製のクローンであれば人間と同等の扱いをすればいいし、そうでないならクローン自体に決めさせればいい。クローンが我々と同等の扱いを求めるのは当然予想される結果となるが、我々と同等の存在であれば自分等でそれを決定する事もまた可能なのだ。」
富良野「やはりそう答えるとは思っていました。しかしクローンを新人類、クローンを生み出した我々を旧人類と見なして新人類側であるクローンが旧人類である我々を劣った存在であると見なして戦争でも仕掛けてきた場合、同様の事が言えますか?」
九里砂「人為的に造られたクローンがオリジナルである我々とほぼ同等のスペックであれば我々と同様に道徳心や倫理観が備わっている筈だ。もしそれ等が欠如しているのであれば同等の扱いはすべきではない。姿形が酷似していても欠陥品という事になるからだ。」
富良野「クローンはデータを元に材料さえあれば同じ顔、同じ能力を備えた個体をいくらでも複製可能とします。それらには我々と同様に魂や霊体といった科学では未だ未解明な要素を含むものはスペックとして備わっていると思われますか?それとも人為的に作成された所詮は工業物に過ぎないものにはいくら精巧に作成されていたとしても魂などは備わりはしない、と考えますか?」
九里砂「極めて精巧に作成されたものであれば人間のように振るまい演技する事は可能だろう。そしてそれは魂が備わっている、と錯覚する程の演技とて同様に可能である、という事だ。しかしいくら姿形を真似た処でその後の経験や運命などは異なるために真似られるのは見かけ上のみ、と言う事になるだろう。」
富良野「では次に核心となる質問をします。我々人類を限りなく精巧に模したクローンをあらかじめ作成しておき、培養管の中などで仮死状態にしていたとします。その際仮死状態にあるクローンの脳に電極を繋いでおき、オリジナルである個体が外界で経験した事象を電波などを利用してそのクローンに送信する技術もまた獲得したとします。オリジナルの個体がもしも不慮の事故などで死亡してしまった場合、亡くなる直前までオリジナルが経験した記憶を有したクローンを仮死状態から蘇らせた時、その後亡くなったオリジナルと同じように振る舞うクローンを観察した結果、オリジナルは果たして本当に死亡した事になるのでしょうか?魂とやらは時空を越えてクローンに転移したのではないだろうか?という疑問です。」
九里砂「先程も言った通り、クローンは人間と同じように演技をする事が可能である、という回答に変更はない。つまりオリジナルが死亡してしまった事実は変わらずクローンに魂を転移させて蘇った、と錯覚した上での演技は可能である、という事になる。その場合の存在事実はクローン自体がオリジナルの身代わりとしてクローンとしての新たな人生を歩む事となるが、魂それ自体は記憶に依存した錯覚現象に過ぎない。培養管の中にいたクローンと外界で生活していたオリジナルは同一の経験記憶を有してはいても全く別の個体であって、決してオリジナルが死亡した事実を否定する事にはならないのだ。もしこどもが両親の経験記憶を余すことなく有して生まれたとしても、両親とは全く別の個体である事と同じ理屈となる。つまり魂や霊体といったものは経験記憶とは全く異なる次元に位置する存在という事になる。」
富良野「回答ありがとうございました。やはり不老不死や永遠の命というのは儚い幻想でしかなく、生命とは個別の唯一無二の存在である、という事になるのでしょう。いくら経験記憶が同じでもそれぞれ有する魂という未だ不明瞭な概念は別次元に位置する存在である、と。」
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宗蔵「敢渡のヤツだったかのう?IQが20も違えば会話が成立しない、だとか言っていたんだが、それはどういう事だね?そもそもIQってのはどうやって調べればいいのか、アテになんのかいそんなの?」
風呂板「ああ、そういえばIQテストとかありますよね。あんまりアテになりませんよああいうのは。知能指数といってたとえば10才のこどもなら10才程度のIQがあれば100、というのを基準として、10才なのに高校生くらいの知識があれば150だとか大学院を卒業出来る程の知識量であれば200だとか、物知りであればあるほどその数値が高い、ってだけの極めて曖昧なテストなんですよ。知能が高い者があまり物事を知らない者のレベルに合わせて会話をすれば必ずしもその意見は成立しません。学校の先生と生徒の会話がそんな理由で成立しないならにっちもさっちもどうにもならないでしょ?早い話が偏見なんですよね。そういうのはIQが低い者から見た見解なんですよ。」
宗蔵「何ともはや、失礼な話だのうそれ。早い話が頭の悪い奴は頭のいい奴の話についていけねえ、そういう事なんかの?」
風呂板「必ずしもそうとも限らないんですけどね。でもまあ、おおかたそれで合ってます。ただIQが同レベルでも日本語しか話せない人と英語しか話せない者同士だと会話自体が成立しないでしょ?そんなのはIQ以前の問題でしてね。他にも専門職で使われる専門用語なんかはその業種に携わってる者同士だと理解出来るんでしょうけどそれ以外の人がその会話聞いてもちんぷんかんぷんなんですよね。」
宗蔵「ああ、分かる分かるそれ。ワシ等が若い頃はモノ知らなくて散々怒鳴られてたものなぁ。学校とかでも吹奏楽部同士の奴等の会話なんざさっぱり理解できなかったもんなぁ。」
風呂板「そう、まさにそれです。今だと趣味だとかも多様化して興味がなければ会話についていけないのと同じような事なんですよね。IQの高い低いは全然関係なくて興味があるかないかの違いなんですよね。旧約聖書にバベルの塔の寓話がありますでしょ?天まで届く塔を人類が建てようと思ったら、神さまがそれ見て怒ってカミナリ落として作りかけの塔を破壊して、もう二度とそんな真似させないように言語を乱して言葉を通じないようにして民族同士協力して塔を建てさせるのを妨害した、って話。あの神話の譬えって同一言語使ってる同一民族の間でも趣味とか職業とかの違いで言葉を通じないように仕向けてるのも似たようなもんだと私は思うんですよね。」
宗蔵「先生も博識なんだのう。しかし聖書もアレじゃのう。何でもかんでも神さまの仕業に仕立て上げる傾向ってのもあるよなぁ。もともと全世界で共通言語使ってた、って話もウソくさいしのう。まぁそれなりに説得力はあるんだろうけどなぁ、でもそんな確認しようもないものを理由に煙に巻いて信仰させよう、ってのもセコイ気もすんだよなぁ。」
風呂板「村長のそういうトコが正直で好感が持たれてるんですよね。疑問に思った事を脚色なく歯に衣着せず言うトコなんですけど。でも説明が難しいからってIQのせいにして会話が成立しない理由を適当に言っても誰も信用なんかしないですよね?ある程度は筋道が通ったちゃんとした根拠でもなきゃ虚言を吹聴してるのと何ら変わらないですものね。」
宗蔵「要は頭のいい奴が意地悪して頭の悪い奴に小難しい言葉並べて言いくるめちまうから会話が成立しない、だとか言ってるだけなんだろう?今の若い奴等、ってのも何でも鵜呑みにしちまう傾向でもあんのかね?洗脳されまくっちまってんじゃないだろうなぁ?」
風呂板「確かに。そんな傾向はなんとなくありますよね。心理学も昔と比較するとだいぶ発展してきてますし、情報操作されてる感は否めないですね。」
宗蔵「誰かに聞きたい事とかあっても言葉を知らなきゃ何を疑問に思ってんのか相手にイマイチ伝わんない、ってのは確かに問題あるのう。知識がなきゃ苦情も訴えられない、そりゃ先生、家畜は一切苦情言って来ないから屠殺しても構わない、って言ってんのとおんなじじゃねえかのう?おんなじ人間同士で人間扱いしてねえのと同意じゃねえのかのう?」
風呂板「そうなんですよね。大昔から知識が乏しい者は虐げられ、知識がある者はわざと教えないで人間扱いしていないっていう事は人類の歴史から見ても確実にやってますね。植民地政策なんかそのいい例なんじゃないですか?同じ国民同士でも閉鎖的な村社会の延長みたいな感じですからね。国そのものが村社会をそのまま大きくしただけの一種の宗教団体とあまり変わらないようなものなんですよね。」
宗蔵「会社だとか企業の経営方針だとかも一種の洗脳だろアレ?学校の妙な校則だとかも端から見ると少々異常なんじゃねえの?ってのもあるし、鎖国してた以前にちょんまげが一般的だったのも閉鎖的な村社会じゃ当たり前の風習だったんだろうからのう。視野を世界に広げると、今までなんでこんな恥ずかしいヘアスタイルが善しとされてたのだ?って目が覚めてふと我に返る、みたいな感じかのう。」
風呂板「何にでも幅広く興味を持つ事、って本当に大事な事なんですよね。でも稀に世間には一切見向きもせず我が道を一心不乱に突き進む天才肌の人も居ますし、それはそれで結構だと思いますよ。他人に迷惑をかけなければ、の話ですけどね。」
宗蔵「それもそうだのう。みんなと同じ事やってたってそれ以上にはなれないだろうからのう。逆に虐げられてきたからこそ生まれた価値観だとかもあるんだろうし、何が正解で何が不正解なのかは他人様が決める事じゃあねえやなぁ。瓢箪に手を突っ込んだ欲張りな猿がエサ掴み過ぎて手が抜けなくなるようなモンでなぁ。本当に賢い猿なら予め瓢箪をノコギリで切ってエサ掴み放題にしてから取るんだろうさなぁ。」
風呂板「村長、それは最近の言葉で言うとチート(反則・ズル)と言います。それじゃお薬出しておきますね。」
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弟刈兎「悪友に唆されて、ついついアルコールに頼ってしまうのです。飲んで思考が麻痺してくると僕のちっぽけな悩みなんかこの広大な宇宙と比較すれば些細な事なんだな、とついつい気が大きくなってしまうのです。あまり飲み過ぎは良くない、とは分かっているのですがついつい度を越えて飲んでしまうのです。」
無頼婆月「アルコール依存症かい。分かるよ。あたしも経験あるし。まだ若い頃は浴びる程飲んだモンさね。嫌な事は酒でも飲んですっぱり忘れちゃえばいいや、てな感じでね。でもね、臭い物にいくら蓋をかぶせたって臭い物の元を断たなきゃ何の解決にもなっちゃいない、ってのはアンタでも分かってんだろ?その場しのぎにしかならない、ってねえ。」
弟刈兎「世の中不条理な事が多くて押し潰されそうなのですよ。それで酒のチカラに救いを求めている、というのも自覚しています。でも僕のように何のチカラも後ろ楯もない者が組織の矛盾点や杜撰な法体制の綻びを指摘した処で現状は何も変えられません。実際には必要でもなんでもない何重にも渡る書類の手続きや審査、ろくすっぽ目も通さない上司のチェックで何ヵ月も保留にされて有耶無耶にされる山積された問題など、人員不足を理由に外注への丸投げなんか日常茶飯事でして。あからさまに改革しなければ退廃の一途をたどる状況にほとほと嫌気がさして来まして。上司の言い分も分かるのですよ。時間的に考えても片付けるには身体がふたつ以上なきゃ物理的に無理だ、だから丸投げするしかないんだよ、って。せめてプレゼンの書類提出の納期やスケジュールを1週間とは言わず数日遅らせてくれればひとりでもなんとかなるが、取引先からこれ以上待てないと言われてしまってはそれも叶わないんだ、と。緊急性の面から見てもどうしても早くしなきゃならない案件とも思えないような事柄ばかり片付けて、本当に必要性に迫られている重要事項は外注に丸投げ。実際正気の沙汰とは思えないのですよ。」
無頼婆月「ま、それはアンタに限らず何処へ行っても似たような状況だとあたしゃ思うけどねえ。物事にゃ順序、作業手順ってモンがあってね。基礎打ちを疎かにして建物なんか建てちゃうと簡単に傾いちゃうのと一緒でね。そういうのが全然見えてない奴が下手に管理職に就いてると部下は苦労するんだよね。」
弟刈兎「実際僕も何から手をつけていいやら分からなくなっちゃってですね、それを上司に訊ねると、そういうのは俺に聞かないで自分で判断してやってくれ、と自分の受け持ちで精一杯で全く相談相手にすらなってはくれない。仕事熱心であればあるほど陥りやすい判断力決断力の欠如という奴です。結果、アルコールに救いを求めて嫌な事は忘れるようになるという悪循環にすっかり嵌まってしまいましてね。」
無頼婆月「はっ!要領が悪いのさ。でもそういうの蓄積させとくとロクな事にはならないのはいくらアンタでも想像つくんだろ?だから結局あたしの処の占いに頼りにきた、って寸法かい?ま、あたしゃそれが仕事だから余計な詮索なんざ一切しないがね。それとひとつ言っとくよ?あたしの占いの指示に従った結果、多大な不利益をこうむったからってあたしゃ一切責任なんざ取らない。占いってのは当たるも八卦当たらぬも八卦だよ。それが納得行かないんだったらヨソへ行きな。」
弟刈兎「僕は敢渡とは違って不思議なチカラは絶対にあると思っています。占いを全面的に信じている訳ではないですが、道に迷った時の指標にはなると考えています。何もせずに手をこまねいているよりは数段マシ。たとえそれが間違った港への羅針盤だとしても海原に漂ったままただ呆然としてるよりは占ってもらったほうが参考程度にはなると考えています。最終的に舵をどうとるかは結局自分次第なんでしょうけどね。」
無頼婆月「ま、そういう事さね。良く分かってるじゃないか。あたし等はたどるべき運命の道のその内の1本を照らしてあげる灯台のひとつにしか過ぎないのさ。何も考えずに占い師に言われるがまま占いの結果に従って進むも良し、言われた結果に違和感を感じて真っ暗な道を手探りで進むも良し。筋道立てて矛盾点を突き詰めていけばちゃあんと正しい道を選んで目的地にたどり着ける筈ってモンさね。」
弟刈兎「本当は他力本願に頼るのは褒められたモンでもないですけどね。でもアルコールよりは占いのほうがマシと思って。でもお酒も簡単にはヤメられそうもないですけどね。」
無頼婆月「じゃあ、ざっと占いの結果を伝えるよ。今後あんたは仕事をある程度片付けられた日は大好きなお酒を好きなだけ飲んでもいい。しかし大量に仕事を余した日はお酒はお預けだ。大好きなお酒を飲みたいんだったら必死で仕事を片付ければいい。理由はどうあろうと言い訳はナシさね。そしてあんたはあたしの忠告を守ろうと聞かなかった事にしようとどっちでも構わない。あたしは占った分の報酬さえもらえりゃあんた自身がどうなろうと知ったこっちゃない。ただし占い料金はキッチリ受け取るよ。ああそうそう、さっきも言ったと思うけど占いの指示に従うか従わないかの判断はあんた次第さね。ただし指示に従わない場合は占い料金の分だけ、せっかくの忠告をカネ払って聞いた分だけ損した事になっちまうだけさね。」
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風子「蜘蛛が出たのよ!どうしてあんな気持ち悪い生き物がこの世には居るのかしらね?」
偉影逸「怖いもの無しの君でも苦手なモノがあるんだね。でも蜘蛛が平気なヤツだっているだろう?もしかしたら君だけが苦手なだけかもよ?」
風子「そんな事はないわ!あんな不気味な生き物を平気な人が居るだなんて信じられないわ!」
偉影逸「怯えて取り乱してる君を見るのも新たな発見をしたようで新鮮な気分だ。でも私も蜘蛛は苦手かな?ゴキブリもダメだ。大人になった今ならほとんどの虫が苦手かも知れないね。」
風子「でしょう?でも苦手な生き物が出たらあたしを守ってね。聡明なあなたの事ですもの言われなくてもそうするのでしょうけれどね。」
偉影逸「勿論。騎士が姫を守るのは当然の役目さ。もしその誓いを破ったなら、剣で私の喉元を突き刺してもらっても構わないさ。」
風子「ウフフ。頼もしいのね。あ!あなたの背中に大きい蜘蛛がへばりついてるわよ!」
偉影逸「えっ!?本当かい?ソファが少し汚れるけど御免!」
偉影逸はソファに背中から倒れ込んだ。
風子「あはは。ウソよ。後ろに鏡もないのにあなたの背中が見える訳ないでしょ?でもさっきの言葉にウソ偽りはなさそうね。」
偉影逸「やれやれ悪い子だ。姫に忠実な私のような騎士を試すだなんて、何かお仕置きを考えておかなきゃな。」
風子「フフフ。楽しみにしてるわ。でもどうして蜘蛛に限らず苦手なモノってあるのかしらね?別に毒があるからって訳でもなさそうだし、防衛本能とは無関係なのかしらね?」
偉影逸「単なる刷り込みによるモノだったりしてね。自分の周囲に虫が苦手な人が居て、それが伝染しただけなのかも。」
風子「そう言えばママも蜘蛛は苦手だったわね。パパがいつも追い払ってたわ。パパも別段蜘蛛が大好き、って顔をしてた訳でもなかったけど。」
偉影逸「私の場合はその逆で母が蜘蛛を追い払っていたよ。父は何もしなかった。母は強し、なのかな?それとも父が腑甲斐無いだけだったのかな?やはり二人とも特別蜘蛛が好き、って顔でもなかったよ。でも知り合いにタランチュラを飼ってる強者が居たな。気が知れないけど彼なら蜘蛛程度なら平気なんじゃないかな?爬虫類も飼ってるし。」
風子「信じられないわ。その彼とは縁を切るのをオススメしておくわね。でも確か蜘蛛って無害どころか益虫なのよね?あたしは蛾も嫌いだけど他の嫌な虫を蜘蛛の巣で捕まえてくれてるんでしょ?それなのに忌み嫌われているだなんてなんだか不憫だわ。」
偉影逸「こどもの頃、アゲハ蝶が蜘蛛の巣に引っかかっているのを見てね。可哀想と思って逃がしてやった事があったな。今にして思えば蜘蛛に悪い事しちゃったのかな?」
風子「アゲハ蝶は綺麗だから助けてあげて正解よ。こどもって素直なのよね、自分の感覚に正直って言うか。でも捕まってたのが見た目がグロテスクで気持ち悪いマダラ模様の蛾だったら助けてないでしょ?」
偉影逸「そうだね。何に対しても八方美人だと誰からも頼られて身動きが取れなくなる。そこは冷徹に見えるが助けないだろうね。私も蛾は苦手だし。」
風子「そういう感覚が同じだとなんとなく安心するわ。人って嫌な物を徹底的に拒絶して自分の好みの物ばかり手に入れようとするズルイ生き物よね?あたしも人の事言えないけど。」
偉影逸「だから私は今こうして君と一緒にいるのさ。そしてそのために命を捧げるのも悪くはないものさ。」
風子「ウフフ。あなたって良く真顔でそんな歯の浮いた台詞を平気で言えるわよね。またそれが不思議と似合ってるから余計に憎たらしいのよ。そういった台詞をもし他のオンナにおんなじように言ってたら短剣で喉元を突き刺すくらいじゃ勘弁してあげないわ。蜘蛛の巣に放り込んで生きながら食べさせてもまだ許せないわね。」
偉影逸「やれやれ。オンナってのはどうしてこうも嫉妬深いのやら。ちょっと背筋に冷たいものが走った感じがしたよ。信用してもらえないのなら行動で示すのみさ。君以上に私を飼い馴らせそうな女性なんてどうやら出逢えそうもないからね。」
風子「ウフフ。自分からペットに志願してくれるなんて光栄ね。それじゃ早速命令よ!あそこに居る気味の悪い毛虫を退治して来なさい!」
偉影逸「うわっ!いつの間に部屋に入って来たんだ!?で、では姫、私の後ろに隠れていて下さい。今からあの大蛇を退治して参りまする!やあやあ!我こそは白銀の騎士、姫に貴様の討伐を仰せつかった勇敢なる戦士イェーツなるぞ!畏れをなして逃げ出すなら今の内だぞ!」
風子「………やっぱりあなたって面白いけど変な人よね。」
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