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経緯通(いきさつストリート)  作者: さかがみ そぼろ
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いきさつストリート#4


◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇


 敢渡(かんと)「赤の他人が自分が良く知っている人物の物真似をすると、何故かオカシイと思ってしまう心理というのは何故生じるのでしょうか?モノマネ師であるあなたなら明確な回答を携えていらっしゃると考え、お訊ねいたします。」

 

 黒瓜(くろうり)「君ね。私はまじない師であって断じてモノマネ師ではないのだがね?他者と動作をシンクロさせるとその心理状態も漠然とながら多少は把握できるのだよ。的外れなケースも多々あるが、他人の言動を真似ると何故そういった仕草を頻繁にするのか、何故そういった口癖を多用するのか、その心理状態を若干共有出来るのだ。どの程度その対象相手に成りきれるかにもよるのだがね。質問としては更に第三者がそのさまを見て滑稽に思えるのは何故か?という問い掛けで宜しいか?」

 

 敢渡「ええ。その通りです。過去にあなたが与作(よさく)さんの物真似をしているのを偶然にも目撃してしまいまして、失礼とは思いながらも思わず吹き出してしまいました。自分でも不思議なのですが本人ではなく誰かがその人の物真似をしているさまを見るという行為が何故愉快な気分にさせられるのかが疑問なのですよ。しかも与作さんの真似とは分かってはいてもさほどその物真似が似ていなかった、というのも余計に吹き出してしまう要因に繋がっているというのも誠に不思議でなりません。」


 黒瓜「えっ?全然似てなかったのか?君さらっと失礼な事を平気で言うな。もっと言葉をオブラートに包んで話す術を学んだほうが世渡りには有利だと私は思うぞ?実はあの時、与作氏に頼まれてだな、どうも彼は自分が愛用しているノコギリを何処に置き忘れたか全く覚えておらず、それの探索を頼まれたのだよ。彼も結構な年齢だからな。不注意で物忘れも激化してきているらしいのだよ。全く年はとりたくないモノだよなお互いに。そこで私もまじない師の端くれだ。彼を模倣する事で彼の心理状態を探り、ノコギリを何処に置き忘れたのかを『彼になったつもり』でサーチしていたのを君は目撃したのだろう。そうか。そんなにおかしかったのか。実にショックだ。」

 

 敢渡「いえいえ、お気に障ったのであれば謝罪いたします。そうだったのですか。しかしそれも不思議と言えば不思議な話ですね。本人ですら何処に置き忘れたのかすっかり忘れてしまっているノコギリを発見できずにいるのに、物真似をしただけのあなたが見つけられるとも思えませんが。それでそのノコギリは見つかったのですか?」

 

 黒瓜「フフフ。私を誰だと思っているのかね君は?無論、彼が仕事中に関わった人物と何処で会ったかを聞き出し、そこで見事にノコギリを発見した。他人の物真似をする、という事は対象者をくまなく観察して身振りや仕草、しゃべり方を模倣せねばならない。与作氏は近しい誰かと会話する時、しばしばジェスチャーを交えて話す癖があるのだ。その際手に持っている何か、例えば工具などを適当な場所へ立て掛けて置く癖もあるのだ。絶え間ない観察の結果の賜物だよ。案の定、氏が偉影逸(いえいいつ)氏と会って話し込んでいた場所に愛用のノコギリは立て掛けられていた。」


 敢渡「!!見事な観察眼!畏れ入ります。それで肝心の他人の物真似を見ると不覚にも滑稽さを覚えてしまう心理状態というのは?」

 

 黒瓜「ああ、もしかして君はアレかね?私が与作氏を愚弄している、とでも?確かに氏の大袈裟な身振りやジェスチャーは小馬鹿にしていると思われても仕方ないが、これもまじないとしての儀式の一種なのだよ。たぶん氏が今の私の立場だったならきっとこう言うだろうな。『ああん?オカシイと思うのにイチイチ理屈なんざ必要か?お前みてぇな若僧にオレのユーモアなんざ通用すんのか?お前が見た事ねぇ映画のワンシーンをオレが真似したって意味も訳も分かんねぇだけだろ?違うか?』」

 

 敢渡「ぷっ!!セリフは確かに与作さんならそう言うのでしょうけど、失礼ですが全然似てないのが尚更………」

 

 黒瓜「そ、そうか。自分的にはシンクロ率73%のつもりなのだがな。私もまだまだ修練が足りていないようだな。」

 

 敢渡「しかしながら、何故人が他人を真似ているのを見ると滑稽に思えるのかはなんとなく少し分かってきたような気もします。」

 

 黒瓜「ところで今日は占ってもらいに来たのではないのか?グッズも安くしとくぞ?このミミック・オクトパスのフィギュアなんか最高だぞ?基本の蛸の形態の他に何種類もの他の海の生物に変形可能な仕様だ。ウミヘビにだって変身できるぞ?」

 

 敢渡「いえ、結構です。グッズは間に合っております。それに僕は占いの類いは信じない主義ですので。」

 

 黒瓜「………君、本当に処世術というモノを少しは学んだほうが良いと私は真剣に思うぞ。」










◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇


 風子(ふうこ)「どうして赤ちゃんって生まれてくる時に大声で泣くのかしらね?」

 

 偉影逸(いえいいつ)「泣いて居場所を誰かに伝えなきゃ世話を焼いてもらえないからさ。生まれたばかりの人間の赤ん坊はひとりじゃそれ以上生きられないほど弱い存在だからね。見放されれば容易く死んでしまう運命にあるのさ。自分はここに居る、って事を必死で誰かに伝えなきゃ、君も私も今こうして生きてはいない。」

 

 風子「でも泣き声を聞いて猛獣がその存在に気づいてしまったら?猛獣も赤ちゃんの世話を焼いてくれるのかしらね?」

 

 偉影逸「その時はバッド・エンドさ。でもその猛獣が気の利いた紳士だったなら、赤ん坊にだって生き延びるチャンスがあるんじゃないかな?」

 

 風子「ウフフ。面白い事を言うのね。お腹を空かせた猛獣が人間の赤ちゃんの面倒を見るの?それよりも目の前の御馳走を平らげちゃったほうが賢い選択じゃない?」


 偉影逸「君はおそろしい事を平気で言うね。でもその猛獣は他に獲物を見つけられなければ飢え死にして結局は死んでしまうのさ。そして死の間際、あの赤ん坊を食べた事をひどく後悔するに違いない。」

 

 風子「あら?それはどうして?」

 

 偉影逸「もし赤ん坊の泣き声に猛獣が気づいて、それが人間の赤ん坊だと知っていたなら赤ん坊が成長するまでなんとか育てるのさ。人間の赤ん坊が成長してオトナになりさえすれば自分達よりも他の獲物を狩る手段をたくさん持ってる事を知っているからさ。生かしておけば、逆に猛獣の獲物も罠を仕掛けてもっと簡単にとってきてくれるようになるからさ。猛獣だろうと恩を売る事を知っている紳士は得をしなきゃ。それが賢さって事さ。」

 

 風子「フフフ。貴方らしい楽観的な美談ね。でもせっかく生かしてもらった恩すら忘れちゃった人間の赤ん坊は、成長して自分で狩りをするようになったら猛獣の毛皮を剥いでコートにしちゃったわ。それでもそんな事が言えて?」

 

 偉影逸「その時は死の間際、あの時の赤ん坊を食べておけば良かった事をひどく後悔するに違いない。」


 風子「あはは。最高!やはり貴方って面白いわ!」

 

 偉影逸「ははは。でも赤ん坊に限らず、オトナだって時には泣き叫ばなきゃ、いずれは存在を忘れられて死ぬ運命にあるものさ。その声を聞いて近寄ってくるのがたとえ紳士であれ猛獣であれ、ただ黙して死ぬ運命よりかはたとえ格好悪くても泣き叫んで自分の存在を訴えたほうが幾分マシなのかも知れないって事さ。」

 

 風子「そうね。貴方が猛獣か紳士かは未だに分からないけどね。」

 

 偉影逸「フフフ。私かい?それは泣き声を聞きつけて見つけた赤ん坊次第さ。」










◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇


 唖幌(あほろ)「見ず知らずの方に『今年は豊作だったから余っちゃってね。タダであげるよ。持っておいき。』と作物を無料でいただいたのですよ。それでその方にお返しをしたいのですが、うっかり何処の誰なのか聞く間もなくその方は行ってしまいました。こういった場合はどうすれば良いのでしょうか?」


 与作(よさく)「んな事オレに言われてもなぁ。偶然ばったり会ったらそん時お礼でもすりゃいいんでねぇの?」


 唖幌「しかし再会できるとは限りませんし。」


 与作「ん~~~、それもそうだな。ん~~~………たとえば、たとえばだよお前?オレがお前に気まぐれで家具だとか作ってお前にタダでくれてやった、とするだろ?そしてお前がお礼をどうしようかあれこれ考えて迷ってお返しする前にオレが寿命でくたばっちまった、とする。そん時ゃオメェ、どうやってオレにお礼をしてくれる、って言うんだ?」


 唖幌「そんな!亡くなってしまわれたらお礼なんかしようがない。私は親切にされっぱなしです。」


 与作「馬鹿かいお前は。そん時ゃオレの伜にでもあの時はあなたの父に世話になりました、っつってお礼をすりゃいいだろうがよ。別に親切を受けた本人にどうしても返さなきゃならない、って話でもねぇ、そういう事をオレは言いたい訳だよ。」


 唖幌「それは、言われてみればそうですね。無条件で親切にされたのであれば、他の誰かに同じように親切にしてあげればいい、そういう事でしょうか?」


 与作「ま、そういう事だな。因果応報と言ってな、自分がしでかした行ない、ってのぁそれが良い事であれ悪い事であれ巡り巡って最終的には自分のところへ戻ってくるモンなのさ。お前も知らねぇ内に誰かに親切にしてやった事でもあるんじゃねぇのか?自分じゃ大したことしたとは思ってなくともされた側には洒落になんねぇくらい大助かりだった、って事だってないとは限らねぇんだしな。で、作物って何もらったんだよ?」


 唖幌「えのき茸です。鍋だと1ヶ月分くらいの量をいただきました。もう1週間前の事です。冷蔵庫に入り切らない程の量をいただいたモノですから。」


 与作「馬っっっ鹿!お前本当に馬鹿なのな!そういう事は早く言えよ!そんなに置いといたら腐って使い物にならなくなっだろよ!そういう時は御近所さんにおすそ分けすんだよ!お礼以前の問題だろがそれ!」










◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇


 弟刈兎(でかると)「ブレーキが故障したトロッコが猛スピードで分岐に差し掛かっています。分岐レバーの先には5人の作業員が居ます。レバーを引いて進路を変更すれば作業員はひとりだけしか居ないレールにトロッコの進路を変更できます。レバーの前にはあなた以外に人はなく、決定権はあなたに委ねられています。見て見ぬフリをして立ち去れば5人の作業員はトロッコに轢かれて全員確実に命を落としますが、レバーを引いて進路を変更すれば犠牲者は作業員ひとりで済みます。その時あなたはレバーを引きますか?それとも引かずに傍観しますか?」

 

 岩野(いわの)「うーむ。なるべくなら誰も犠牲にならないほうが良いのだろうが、レバーをへし折って線路に置いてトロッコを脱線させる、ってのはやはりナシか?」

 

 弟刈兎「あなたらしい答えですね。これはトロッコ問題という倫理クイズでして、少数の犠牲をとるか運命と捉えて本来事故に遭遇する5人を見殺しにするかの心理テストなのですよ。実際にどちらが正解なのかは僕にも分かりません。いづれにせよどちらに転んでも損をする場合においてその時々の状況によって被害の度合で考えるか公平性で考えるか、それとも気まぐれか。委ねられた決定権をどう処理するかによって性格診断などに使われるのですよ。ちなみに僕ならばひとりの作業員がもしも知人で、5人の作業員が見ず知らずの赤の他人だった場合、被害の度合を無視してレバーを引かずに傍観する、と回答しました。」


 岩野「むう、難題だな。俺もひとりで作業してるのが与作じいさんとかだったらもしかしたらレバーは引かないかもな。他の5人には悪いがな。」

 

 弟刈兎「こういった心理テストはサイコパスの度合を測るのにも使われてるそうですよ。岩野さんは愚直で素直だから全員助けたい、とか考えるのでしょうけど人によっては5人だけ死んでひとり助かるなんて不公平だから残ったひとりも殺しちゃおう、って言うトンデモさんもいるらしいですよ。」

 

 岩野「うーむ、けしからんな。しかし人は極限状態に身を置かれると思いもよらぬ行動に出たりするモノだしな。そういった場面に遭遇しない事を切に願うばかりだ。」

 

 弟刈兎「そこで、どうしてこんな話をあなたにしたか、と言うとですね、実は税金を滞納している方々がおりまして、ひとつは5人でシェアハウスに住んでいる貧乏なその日暮らしの人達でして、金額的にもたいした事はなくこっちは強硬手段に出れば無理矢理回収出来そうなのですが、無理に回収すると自棄になって自殺されたり万引きなどの軽犯罪に走らせる危険性もあるのですよ。対して他のもうひとりの方が厄介でして、こっちは巨額の脱税なのですが無理に回収に向かうとこっちが秘密裏に始末されてしまう危険性がありまして。たぶんですけどソッチ方面の方だと考えて二の足を踏んでいるのですよ。もしも岩野さんが僕の立場だとしたらどちらの回収へ向かいますか?」

 

 岩野「ここはお前に免じてひとりで巨額の脱税をしてるほうへの回収に同行してやろう。5人はしばらく見逃しといてやれ。しかしお前がひとりで作業している作業員の立場だとしたら俺は迷いなくレバーを引くだろうな。しかしお前、いい加減その仕事辞めたらどうだ?」










◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇


 弟刈兎(でかると)「やはりこども達には平等に分け与えるのがベストだと思うのですが。」

 

 宗蔵(そうくら)「お前、マンボウって魚を知ってるかぁ?1度の産卵で3億個だとか卵を生むんだけどよぉ。そいつらが全部孵化して平等にエサ与えられたらどうなると思ってんだぁ?海の中がマンボウだらけになっちまうだろうがぁ。想像力欠如かぁ?ある程度は淘汰される必要があるんだよぉ。またお前、大量に卵を産卵する生物、ってのは大半が捕食されたり死滅するのを見越して多めに卵を生むんだからよぉ。生き残って成長するのはホンのひと握りなんだよぉ。でもそれで生態系のバランスとってなんとかなってんだよぉ。冷酷なようだけど物資は有限なんだから全員平等に、とは単なる理想論であって現実には平等に、とは行かねぇんだよぉ。お前が言ってるのは浮き輪がひとつしかないのに溺れてる全員を助けたい、って言ってるようなモンだのう。」

 

 弟刈兎「そ、それはそうなのでしょうけど、人はマンボウとは別でしょう?ひとりで1度に3億人も出産できないし。」

 

 宗蔵「何ともはや、譬え話も通用しねぇのかよぉ。お前がひとりひとり頼み込んでこども生んでもらってる訳でもないんだろぉ?勝手に出産して勝手に増えて、それで勝手に苦情言われてそんな気にさせられてるだけの話なんだろぉ?ま、生まれてきたモンは仕方ないから面倒みなきゃならんのだろうけど、無計画で子孫残して死にそうだから助けてくれ、ってそりゃお前、今溺れてる奴が既に海の底に沈んであとは絶命するのを待つばかりの奴に向かって『浮き輪を投げてくれ!』って頼んでるのとあんまり変わんないんじゃないのかのう?」

 

 弟刈兎「しかし先進国に住んでいる我々が途上国のこども達を救わねば、他の誰が彼等を救える、というのでしょうか?」


 宗蔵「やれやれ。これじゃ鎖国政策続けといたほうがまだマシだったんじゃないのかぁ?先進国?何を勘違いしてるんだか?自給自足も満足に出来ないで他の国に食わしてもらってる分際で何を思い上がった事を言ってるんだかのう。資源の乏しい国は技術や文化を切り売りして、本来ならいわばお前、物々交換にすらなってねえんだよぉ?お得意のペテンで他国を騙して食糧なんかと引き換えに生かしてもらってる極めて危うい基盤の上に成り立ってる国なんざ先進国と呼べるのかぁ?外交にしくじって他の国からちょっと意地悪されて輸出品を制限されるだけで大多数の餓死者が出るような状況なのに他の国の面倒みてる余裕があるのかぁ?だから偽善者呼ばわりされるんだよお前ぇ。」

 

 弟刈兎「でも可哀想じゃないですか?」

 

 宗蔵「お前なぁ。可哀想だから、って捨て猫全部引き取って面倒みられるのかお前ぇ?自分を何様だと勘違いしてんだよぉ?モノには限度、ってモンがあるだろよぉ?似非ヒューマニズム語って多数意見の賛同もらったってそれでも増え続ける難民全員助けるには全然足りゃしないんだよぉ。犬猫と同じく勝手に増えて勝手に困っているだけ、そういう見方が出来ねえとこの先やってけないよお前ぇ?誰も頼み込んで子孫増やしてもらってる訳じゃないだろぉ?それで物資の奪い合い目的で戦争なんか起こされた日にはお前ぇ、それこそ戦争起こす為に『産めや増えよ』やってたんか君等!?って事になってくるんだよぉ。そうなってくると可哀想もへったくれもないだろぉ?」


 弟刈兎「それも異常な考えですよね?人種や見た目は多少異なりますけど、同じ人が人を駆逐して生存を繋ぐ、というのも因果な話ですよね。」

 

 宗蔵「だから裏を返せば優雅に生活している奴、ってのはそれだけで極悪人も甚だしい訳だよぉ。奴隷制度が大昔から無くなんないのもそういった理由からだよぉ。本来の他人の取り分をペテンで盗らなきゃそんな優雅な生活を維持する事なんて出来やしないんだぁな。誰かがリッチになる為には他の何人もの貧乏人が居なきゃ成立しないんだよぉ。だから金持ちは恨まれて当然なのさぁ。いつも誰かに盗まれないようにびくびくしながら暮らしている。そう考えると金持ちってのは不幸な連中でもあるんだよぉ。」

 

 弟刈兎「僕なんかはおそらく他の人よりは恵まれているのですね。ただ僕は金持ちにはなれそうもないですね。貰ったらすぐ使っちゃうし。」


 宗蔵「そうとも限らないのが世の中のおそろしい処だぁな。運悪く災害や事故に巻き込まれると一転して救助する側から救助される側に転落すんだぁな。勿論そこで死んでしまえば苦悩からは解放されるが中途半端に生き残った場合がまた厄介でなぁ。世間の無慈悲さってモンを肌で知る事になるだろうさぁ。ま、そんな状況でも品性だけは捨てずにいられりゃ幸いだが、世の中ってのは残念ながら行列に平気で割り込める図々しい奴のほうが長生きしやがるから始末が悪い。ワシ等が今こうして生きている、って事は裏を返せば祖先がそういう人種だった、って証拠でもあるんだぁな。特殊な例を除きゃそうでもしなきゃ生き残れない、ってこったねぇ。本当に自己犠牲の精神に満ちた聖人君子みたいな連中はこんな世界はとっくにさっさととっとと見限って天国でゆっくりくつろいでる筈さ。誰が好き好んで自分の食い扶持削ってまで分け与えてやるかねぇ?ましてや自分が飢え死にしてでも他人を活かすような聖人君子様はこんな地獄みてえな世界はとうに卒業してる、って話さぁね。ここに生きてる、って事が他の誰かの取り分をペテンで奪い盗って糧にしてるっていい証拠になるのさぁね。」

 

 弟刈兎「!!み、認めたくはないですけど、反論も出来そうもありません。仰る通りだと思います。」


 宗蔵「偽善者、っても偽善でも善は善に変わりはないなぁ。だがそれも程々にしとかないとなぁ。ヒグマにエサやっても感謝されるどころか自分までエサと見なされて喰われちまうのがオチだ、って事にも成りかねやしねぇ。自己満足が目的で人助けしたい、って浅はかで安直な考えしか持ってないようだったら最初から無縁でいたほうが無難だろうさねぇ。ペットだって終いまで面倒見切れないで山にこっそり捨てに行く馬鹿のお陰様で生態系が狂ったりして間接的に自分等にも被害をこうむってるケースだってあるだろうよぉ。生き物とヌイグルミは別物だ、って認識がないんだったら最初から飼いたいだとか思わない事だわなぁ。」

 

 弟刈兎「それもそうですね。全員が楽しく暮らせる、それは幻想であって希望的観測でしかなく、あちらが立てばこちらが成り立たない、そんな世界に私達は生きているのですね。」

 

 宗蔵「ま、そういう事だぁな。ワシなんかは運がいいのかどうかは知らねえけど大した問題もなくのほほんと生きてきたけどなぁ。せいぜい見苦しい争いなんかにゃ巻き込まれないように気を付けるんだなぁ。これっからもペテンを駆使して誰かの取り分を奪い合ったり掠め盗らなきゃ生き延びられねえんだからよぉ。」










◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇◇◇



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