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33 ジャベリンとランス、ふたたび…!

 次にゴルドウルフたちの前に現れたのは、ひとつの十字路。

 そして左右の分かれ道からは、ふたつの黒い顔が覗いていた。


 チリチリパーマに(すす)けきった肌。

 爆発コントの直後のような彼らは、ライドボーイ・ジャベリンと、ライドボーイ・ランス。


 かたやジャイアント・マジックスケルトンの一撃でペチャンコに、かたや休憩室の罠で黒焦げになったコンビである。

 彼らはオッサンの姿を認めるなり、



「ロックンロール!」「ラララァ~~~♪」



 ちぐはぐなジャンルの歌声を響かせていた。


 ふたりともすでに勇者としての面影はない。

 魔界から来た浮浪者のようにボロボロだったせいで、その歌声すら不気味に聴こえた。


 シャウトするたびに、口からモクモクと煙が出るのが怖すぎる。


 後続のプリムラとグラスパリーンはすっかり怯えて、ゴルドウルフの背中に隠れてしまった。

 シャルルンロットは特に臆してはいなかったが、なんとなくうらやましくなって、ゴルドウルフの腕にしがみつく。


 ミッドナイトシュガーはひとり、離れた場所で静観していた。


 かつてのアイドルたちはというと、そんな少女たちの反応をポジティブに捉え、まるで己のライブ会場に来た客を迎えるように居丈高に叫びはじめた。



「いえーいっ! やっぱり俺のことが、忘れられなかったんじゃん! いいじゃんいいじゃん! 久しぶりに、セッションといこうじゃん!」



「ランランラララァ~~~♪ よくぞこの私の元へと戻ったぁ~♪ 再び(いしずえ)になりたいという、そなたの気持ちぃ~♪ しかと受け入れようぞぉ~♪」



 不協和音のステレオが、オッサンの身体を通り過ぎていく。

 それは過去の仕打ちを思い出させるにじゅうぶんだったが、彼は爽快も不快も、喜びも悲しみも表さない。



「……私はもう、飼い主は持たないと決めたのです」



 ただその気持ちだけを、言葉に乗せて返す。


 しかしオッサンの想いは届かない。

 地獄の狛犬のように左右対象の彼らは、「おいで」とばかりに手を広げた。



「いえーいっ! そんな言い訳、俺の心にはぜんぜん響かないじゃん! お前の言葉には魂が込められてないんじゃん! だから、ぜんぜん本心じゃないってわかるじゃん! 素直になれば、この俺がロックの魂を注入してやるじゃん! さあこっちに来て、いっしょにアツくなろうじゃん!」



「ララララ、ルラララァ~♪ ああ、やはりぃ~♪ 私から離れてしまったそなたはぁ~♪ 罪深き、愚者の思考へと染まってしまったようだぁ~♪ だがしかしぃ~♪ 海のような広き心でぇ~♪ その罪を許そう~♪ さあ~愚身をこれに~♪」



 シャルルンロットは調子はずれのノイズに耳を塞いでいたが、とうとう我慢できなくなってゴルドウルフの服の袖を引っ張った。



「ねえゴルドウルフ、コイツらさっきからなに言ってんの? 気持ち悪いからさっさとブッ殺して、先に進みましょうよ」



 オッサンはずっと無表情で前を向いていたが、お嬢様を見下ろした時には頬を柔らかくしていた。

 彼女の一言で、誰かが救われたような笑みを。



「その必要はありませんよ。私が選べばよいのですから」



 そしてオッサンは歩きだす。

 てっきり引き返すだろうと思っていた少女たちは意外に思ったが、おそるおそるついていく。



「ロックンロール! やっと俺の歌声に応えてくれたじゃん! やっぱりロックこそが至高! ライドボーイ・ジャベリンこそが最高じゃん! 俺の歌を、常に最前列で聴けるだなんて……お前、マジで幸せじゃん! 一生分の運、使い切ったじゃん!」



「ラララ~ァ~!♪ 高貴なる私に仕えるぅ~♪ 千載一遇のチャンスぅぅ~♪ そなたは愚者からぁ~♪ 賢者となったぁぁぁ~♪ さあ跪けぇぇぇ~♪ 我が足元にぃぃぃ~♪」



 左にはジャベリン、右にはランス……彼らは(くつわ)を手に、かつての馬を今か今かと待ち構えている。


 しかしひとりの人間となってしまったオッサンの進む道は、ぶれなかった。


 ひたすら、まっすぐ。

 黒き勇者たちには脇目もふれず、誰もいない正面の通路に向かったのだ。


 紳士のように堂々とした足取り。

 見送る小男たちは、王様のような表情から一転……物乞いをするストリートチルドレンのように落ちぶれていた。


 あしながおじさんは彼らを一瞥すらせず、通りすがりに一言、



「私は、ふたりは(●●●●)乗せられません」



 そのまま、颯爽と去っていく。


 しばらくして背後から、野良猫の喧嘩のような怒号が噴出する。



「「ギャフベロバギャベバブジョハバ!!」」



 少女たちが何事かと振り向くと、ふたつの小さな影が、上になり下になりもみ合っていた。



「ふたりは乗せられないのは当然じゃん! 一匹の馬に乗れるのは、ひとりの勇者……! ライドボーイの掟じゃん! やっぱりお前が邪魔をしたから、あの野良犬は素直になれなかったんじゃん! 死ね! 死ね! 死ね! 死んじまえじゃんっ!!」



 マウントポジションを取った影が、下の影の胸ぐらを掴み、ガンガンと地面に打ち付けたかと思うと、



「ガガガガァァァァァァァーーーーーンッ!! 邪魔したののは、貴様のほうぅぅ~♪ そして死せるもの貴様のほうぅぅ~! あの野良犬に跨るのは、この私にこそふさわしぃぃぃぃ~♪ ガガガーーーンッ! さあ~! 今生に別れを~!♪」



 バターになりそうな勢いでゴロゴロと転がり、劣勢をひっくり返して、パンチの雨を降らす。



「「メギョグリャスキブバメハビババ……」」



 すこしずつ、遠く小さくフェードアウトしていく、勇者たちの醜い争い。

 振り向きもしないオッサンの背中に視線を戻したミッドナイトシュガーは、ついに確たる戦慄を感じはじめていた。



 ……ま、間違いないのん……!


 ライドボーイ・オクスタン様が鉄球の罠にかかったのは、てっきり偶然かと思っていたのん……!

 しかし意図的に引っ掛けたことが、これで証明されたのん……!


 オクスタン様に臆して、尻尾を巻いて逃げたなんて、のんの大きな思い違いだったのん……!

 この男は逃げるように見せかけて、罠のある所までオクスタン様を誘導したのん……!


 そして今度は、たったの一言でライドボーイ・ジャベリン様と、ライドボーイ・ランス様を同士討ちさせたのん……!


 勇者様たちに対して、直接手を下さなかった理由は簡単のん……!


 勇者への傷害が明るみになれば、問答無用で死刑……!

 でも、偶然を装えば、無罪……!

 勇者同士を争わせれば、無罪……!


 ゆ、勇者を手玉に取るだなんて……!


 あ、悪女のん……!

 悪女みたいなオッサンだのん……!



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 春の路地裏のような喧騒も、すっかり消えたころ……お嬢様が思い出したようにつぶやいた。



「あ、そうだ。この『蟻塚』って、ゾンビがいっぱいいるって習ったんだけど……今のところ出てきたのはコウモリとスケルトンだけよね? これからゾロゾロ出てくるのかしら?」



「ひいっ!? しゃ、シャルルンロットさん! そういう怖いこと、言わないでぇ!」



「グラスパリーン……。そういえばアンタ授業のとき、教科書の挿絵を見ただけで怖がってたわね。そんなんでどうすんのよ。ビクビクしてると真っ先に襲われちゃうわよ? こう……グワー! って!」



「ひゃぁぁんっ!? やめてくださいぃぃ!」



 教師と教え子というより、同学年のようにじゃれあうふたり。

 オッサンは顔にこそ出さなかったものの、そのことは気になっていた。


 この『蟻塚』に、数多くのゾンビがいるというのは間違いない事実。

 しかも彼にとってはただのゾンビではない。共に汗を流し、働いたかつての仕事仲間なのだ。


 それなのに、どこにも見当たらない……オッサンの表情は晴れなかった。


 そうこうしているうちに、またしても分かれ道にさしかかる。

 構造を知り尽くしている彼の顔が、さらに曇った。


 この地下迷宮(ダンジョン)の通路はすべて直線か直角で構成されているのだが、そこだけはY字路になっている。


 唯一の斜線による分岐路であるここは、まさに運命の分かれ道といってよかった。


 そう……!

 この『蟻塚』において、最大最強の難所だったのだ……!

お話はいよいよ佳境に入り、ここから怒涛の展開となります!

がんばって書かせていただきますので、どうか応援をお願いします!


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[気になる点] ・・・この勇者たちは何をしに来たんだろう?(汗) それと、キャットファイトの擬音、このお話で出てきたのは今回が初めてでは?(笑) ・・・のんさん、悪女みたいなオッサンって何?(汗)…
[気になる点] 宝箱の罠にかかったのはジャベリンでなくスピアの方ではないでしょうか? 私の指摘が誤りだったらスミマセン。
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