表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

84/806

27 はじめての戦闘

 骨格標本の工場のように、整然と天井から吊り下げられた骸骨たち。


 篝火(かがりび)とはまた違う、壁に埋め込まれた『輝石(きせき)』という魔法石によって青白く照らされ、それがより一層彼らの血肉のなさを際立たせている。


 暗がりの通路から突如、ガスバーナーのような光が花開いた。


 侵入者であるオッサンと少女たちを数瞬照らし出すと、



 ……シュバッ!



 室内めがけて撃ち出される蒼き火球。

 それを追いかけるように、先頭にいたオッサンが躍り込んでいく。


 火線はキングピンのような先頭の骸骨に命中、



 ……パカァーンッ!!



 とストライクのように打ち砕く。



 ……ガシャンッ!



 ハンガーのアームが一斉に外れ、新たなピンたちがレーンに降り立つ。

 通路にいた少女たちは、それを合図に部屋へとなだれ込んだ。


 後衛としての準備を整えながら、単身『マジックスケルトン』の群れに突っ込んでいったゴルドウルフを見守る。


 彼女らは、誰もが疑問に思っていた。

 かのオッサンは事前の作戦会議で、



「作戦としては、私が敵のターゲットを集めます。1体だけ外しますので、それをシャルルンロットさんが相手をしてください」



 と指示してきた。

 それがあまりにさらりとしていたので、言われたその場では納得したのだが……。


 しかし今になって、そんな器用なことができるのだろうか……? と難点に気づいてしまったのだ。


 この部屋にいる『マジックスケルトン』は、ざっと数えて30体はいる。

 1体2体ならともかく、これだけの数のターゲットを独り占めする方法などあるのだろうか?


 こちらが先制攻撃を仕掛けた時点で、スケルトンたちはおのおので侵入者を認識し、散開行動をはじめる。

 彼らが『オッサン憎し』でもなければ、混戦になるのは目に見えているのだが……。


 少女たちにとっては初めての実戦だったが、そのくらいは予想できる程度の練習経験は積んでいる。


 きっとこちらに向かってくる多数の骸骨があるだろうと、ある者は颯爽と、ある者は恐々と、ある者は棒立ちのまま戦いに備えた。


 ……しかし、思わぬ肩透かし……!


 彼女たちの目の前で繰り広げられた光景は、学校では決して学べない、奇妙奇天烈なものだったのだ……!


 手拍子に反応する鯉のように、骸骨たちはオッサンのまわりに殺到していた。

 オッサンが移動すると、アイドルの追っかけの如く、死にものぐるいで追いすがる……!


 少女たちは一般市民のように立ち尽くし、ポカーンと目で追っていたが、



「1匹、そちらにやりますよ! みなさん、注意してください!」



 鋭い掛け声に、水を浴びせられたように身を引き締めた。


 その警告のとおり、事は運ぶ。

 群れにいた最後尾のファンが、マイナーアイドルを見つけたようにはぐれて、少女たちに襲いかかってきたのだ。


 シャルルンロットは待ってましたとばかりに前に出て、愛用の剣を野良犬のように構えて迎え撃つ。


 錆びた赤茶色の剣撃を、鏡のような刀身で受け止めた。



 ……カキィィィィィーーーンッ!



 火蓋を切るに相応しい、激しい火花が散る。


 お嬢様vsマジックスケルトン、戦闘開始っ……!


 それは防戦一方での幕開けであった。


 さすが相手はモンスターだけあって、剣術大会のへなちょこ勇者たちとは動きが違う。

 知識としては知っていたものの、カラクリ人形のように予測のつかない動作からの一撃は、よけるどころか受けるだけで精一杯。


 援護のマジックシールドは途絶えがちで頼りなかったので、お嬢様は自らの腕前でカバーするしかなかった。


 しかし彼女は、相手が強ければ強いほど実力を発揮できるタイプだ。


 ゴルドウルフから教わった方法で相手のクセを見抜き、自分のペースへと持ち込んでいく。


 戦いの最初のうちは、水槽に閉じ込められた魚のような窮屈な動きをしていた。

 しかし少しずつ、大きな池に移されたようなイキイキとした動きを取り戻していく。


 やがて大海原を翔ぶトビウオのように、金色のテールを胸ビレのように広げ、戦いの場を我が物とする。

 ついに少女は、大型魚ともいえる骸骨を圧倒しはじめたのだ……!


 ファインディング・シャルルンロット……!!



「せいりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!」



 大振りとなった敵の一撃にあわせ、カウンター気味に剣を弾き飛ばす。



 ……ガキィィィィィーーーンッ!!



 錆びた剣が、骨ばった手から離れ……墓標のように地面に突き刺さる。

 魔力の供給源であった剣を失い、マジックスケルトンは泣き崩れるようにガラガラと崩壊した。



「その調子です、シャルルンロットさん! もう1体いけますか!?」



「トーゼンよ! こんなんじゃ物足りないわ! じゃんじゃんよこしないさい!」



 追っかけからの熱烈な刺突をひょいひょいとかわしながら、問いかけるゴルドウルフ。

 爽やかな汗を拭いながら、それに応えるシャルルンロット。


 オッサンは再び群れを操る。

 お土産の30個入りのまんじゅうを、もうひとつお裾分けするように1体切り離した。


 ……このように、戦闘中の敵のターゲティングを操ることを『クラウドコントロール』という。


 大層な呼び名がつけられているものの、この世界においては非常に単純な概念。

 『敵に攻撃を加えて、怒らせて気を引く』程度のものでしかなかった。


 しかし彼がやっていたのは、それよりも遥かに進んだテクニック。

 マジックスケルトンの感覚のひとつである『生命感知』を利用したものだった。


 モンスターの中には人間と同じく、五感を使った索敵をする者のほかに、生命力や魔力を察知できる者も存在する。


 命なき不死(アンデッド)系のモンスターは、人間の生命力に嫉妬し、奪おうと積極的に襲いかかっていくのだ。


 オッサンはそこに目を付け、戦闘前にわざと自分の指を噛み、血を流した……!

 『生き血』……! これこそまさに、生き物の生命力を形にしたもの……!


 命を渇望する不死者が、それに反応しないわけがない……!

 1滴垂らすだけで、『(おか)の上のジョーズ』ばりに集まってくる……!


 コワモテのオッサンがアイドル級の人気を得られたのは、そういう理由からだった。


 あとは集めたファンたちを、生命感知の察知範囲から外さないように、群れとして操るだけ。

 お裾分けしたい時は、1体だけ範囲外に置いてやればいい。


 これもオッサンは難なくやってのけているが、テクニックとして人間離れしている。


 そう……!

 もはや野良犬どころか、牧羊犬……!


 その凄さに気づいていたのは、紙人形のように真っ白になっている、赤ずきんの少女だけであった。



 ……な!? なんなのん!? なんなのん……!?


 父上の魔法で操っているマジックスケルトンを、逆に操っているのん……!?

 いったい、どうなってるのん……!?


 こんな謎だらけの尖兵(ポイントマン)……初めてだのん……!?


 しかし、見とれている場合じゃないのん……!

 あの男、28体ものマジックスケルトンに狙われても、かすり傷ひとつ負ってないのん……!


 こうなったら……こうなったらもう、やるしかないのん……!



 赤ずきんちゃんは、垂れ下がった瞼をクッと見開く。

 瞳には密かな決意が宿っていたが、つぶやく呪文は相変わらずのボソボソ口調であった。



「……焼灼せよ、この世で最も熱き氷塊……!」



 ……シュバァッ……!



 術者の冷徹さが込められたような火球が、かざした青白い手をさらに鮮やかに彩りながら、撃ち出される。


 音もなく飛ぶそれは、まっすぐオッサンの後頭部に向かっていった。



 ……これで、終わりのん……!



 少女は、灰色の頭がパーンと弾け飛ぶさまを想像する。

 連想的に浮かび上がってくる、彼女が最も欲しているナスビの笑顔。


 子ナスビはじめての奇襲が、今まさに開花……!


 ……することはなかった。


 狼の後背を思わせるその頭はなんと、第三の眼がついているかのようにクイと横に倒れ、火球をかわしたのだ……!



 ……パカァーンッ!!



 逸れたそれは、ちょうどオッサンに襲いかかろうとしていた骸骨に命中……!



「ミッドナイトシュガーさんもその調子ですよ! どんどんファイアボールを撃ち込んでください!」



 くるりと振り返った彼の笑顔に、ミッドナイトシュガーの顔からさらに表情が消えた。



「……わかったのん」



 動揺をさとられまいと、なんとかそれだけ口にする。


 ……それから彼女は20発近いファイアボールを撃った……というか、撃たされた。

 たまにさりげなくオッサンを狙ってみたのだが、全部ハズレ。


 むしろ骸骨には全弾命中という皮肉な結果に終わった。



 か……カスリもしないのん……!?

 魔法を見もせずによけるだなんて、あの男……魔力感知できるモンスターかのんっ!?



 そして、新たなる驚愕の事実に気づく。



 ま……まさか……! あの男……!?

 のんのファイアボールをよけるついでに、マジックスケルトンに当たるような位置どりをしていたのん……!?


 でなければ、百発百中などありえないのん……!

 まさかクラウドコントロールだけでなく、のんの撃つファイアボールまでコントロールしていたとはのん……!


 でも……今はビックリしている場合じゃないのん……!


 アレが……アレが来るのんっ……!

 本来は頼みの綱だったアレも……このままでは、あの男の狙いどおりになってしまうのん……!


 こうなったら……やるしかないのん……!

 でもこればかりは、リスクが高いのん……!


 まず間違いなく、のんの正体がバレてしまうのん……!

 でも、でも……! 父上のために、やるのん……!


 父上に喜んでいただけるためなら……のんは……!

 のんは、悪魔にだってなるのんっ!



 狼にはかなわないと知った赤ずきんは、ついに禁断の一歩を踏み出した。

 彼女の視線の先にあったもの、それは……。


 跪き、祈りを捧げる白ずきんの姿であった……!

次回、プリムラに魔の手が…!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] そういえば、このお話の世界はスキル、ステータス、レベル、ジョブといったような、テレビゲームの様なシステムじゃないのも個人的には非常に好ましいですね♪ (戦勇者の大剣技は実質的には大魔法みた…
[良い点] 骨さんコチラ♪ 手の鳴るほうへ♪(笑) いや~わんわん団長も最高の実践訓練なんじゃないでしょうか? 安心と信頼のゴルドブートキャンプ!! ・・・それと、TASのスーパープレイには 『バ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ