15 最終決戦開始
15 最終決戦開始
『ついにやってまいりました! 「ゴージャスマート・スラムドッグマート合同 新製品発表会」っ!
ふたつの商店が合同で開催しているこのイベント! その最終決戦の地は、聖女の国「キリーランド」です!』
新製品発表会は、キリーランドの王都にある広場で行なわれていた。
広場の中央にある特設ステージ、その周囲には高名なる聖女たちの像が、まるで戦いの行く末を見守るように取り囲んでいる。
ステージ上の司会者は、東西にあるふたつの聖女像を示した。
東側にある聖女像はホーリードール三姉妹を模したもので、姉妹が仲良く笑いあっているもの。
西側にある聖女像はフォンティーヌを模したもので、彼女がよくする仁王立ちのポーズを取っている。
『世間ではこの発表会、ホーリードール家とパッションフラワー家の代理戦争とも呼ばれております!
この地で負けるということは、聖女一族としての負けを意味するのです!』
沸き立つ観客、報道席から浴びせられるフラッシュ。
今回の主役である聖女たちは、司会者を中心にして東西に分れて立っていた。
東側のプリムラは不安そうにしている。
そもそも彼女はこの発表会と、聖女一族としての地位はなんら関わり合いのないものだと思っていた。
しかし西側のフォンティーヌはそれが当然であるかのようにしている。
優雅に髪をかきあげ、ピッとプリムラを指さした。
「プリムラさん、この最後の発表会で、どちらがより優れた聖女というのがハッキリしますわ!
あなたの化けの皮を、今こそ剥がしてさしあげますわ! おーっほっほっほっほっ!」
フォンティーヌの声は拡声装置などなくても広場じゅうに響き渡る。
それがさらなる燃料となったかのように、観客席はさらに沸騰、燃え上がるようなフラッシュがふたりを包んだ。
プリムラの「あ、あの……」という声は、完全にかき消されている。
フォンティーヌの舌の調べは続く。
「いままでの新製品発表会は、今回の勝負を引き立たせるための前座にすぎませんわ!
今こそわたくしの本気というものを、見せてさしあげましょう!
わたくしの新製品を見たが最後、プリムラさん、あなたはわたくしの前に跪くのですわ!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
プリムラの後ろに控えているランは「ケッ」と吐き捨てる。
リインカーネーションは子猫どうしの取っ組み合いでも見るかのようにニコニコしていた。
司会者はここぞとばかりに、プリムラに拡声装置を向ける。
『フォンティーヌ様は、プリムラ様を跪かせるとまでおっしゃっています!
それだけ、今回の新製品が素晴らしいもののようです!
プリムラ様の自信のほどをお聴かせください!』
『あの、わたしも自分なりに一生懸命考えてきました。
フォンティーヌさんの新製品に及ぶかどうかはわかりませんが、お胸を借りるつもりでがんばりたいと思います……』
あくまで謙虚なプリムラのコメントに、客席のボルテージがにわかに下がる。
見かねたランが司会者の拡声装置を奪って叫んだ。
『プリムラが考えた新製品はすげぇぞ!
見た瞬間、あの鼻持ちならねぇお嬢様が、ショックのあまりステージの床にめり込むくらいにな!』
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
待っていたのはこのやりあいだと、観客席は再び勢いを取り戻す。
フォンティーヌがすかさず応じた。
「おーっほっほっほっほっ! わたくしもそう思いますわ!
プリムラさんの新製品があまりに貧相で、わたくしがショックを受けるのは目に見えておりますわね!」
「へっ! 貧相なのはテメーの胸だけでじゅうぶんだぜ!」
「大きくても中身がカラッポでは意味がありませんことよ! そこにいるホーリードール家の家長がいい見本ですわね!」
「抜かしやがれ! 小さくてスッカスカのくせしてよぉ! こちとら中身もたっぷり詰まってるんだ!
すぐ折れちまうゴージャスマートの武器とは大違いだぜ!」
フォンティーヌとランのマイクパフォーマンスのやりあいは大盛り上がり。
客席もどんどんヒートアップして、プリムラはおろおろするばかりであった。
「っていうかお嬢様、テメーは魔法使いなんだろう? ならケツの穴にホウキを突っ込んでやるよ!
そのままケツを蹴り上げてやっから、ガンクプフルに飛んで帰んな!」
しかしランの言葉が度を過ぎてきたので、司会者が強制的に打ち切る。
『そ……それではそろそろ、肝心の新製品発表のほうにまいりましょうか!
それではどちらが先に発表するか、クジをお引きください!』
くじ引きの結果、先攻、すなわち先に発表するのはスラムドッグマートと決まった。
ステージに、スラムドッグマートの新製品が運び込まれてくる。
それはキャスターつきのテーブルの上にあり、純白の布で覆われていた。
静まり返る客席。
「おいおい、マジかよ……!? まさかテーブルの上に乗るものだなんて……!?」
「新聞には聖女用のローブだって予想されてたけど、大ハズレだな!」
「いや、まわりのやつらもみんな聖女用のローブだって思ってたぜ!」
「そうそう! ガンクプフルで出した魔導女用のローブ『オーバーリーチ』の聖女版だと思ってたのによ!」
「でもあの大きさはローブじゃねぇ! なんなんだアレは!?」
「ローブでないとなると、聖女用のタリスマンか……!?」
様々な憶測がざわめきとなって客席に広がっていた。
フォンティーヌも聖女用のローブだと思っていたのか、眉をひそめている。
『な、なんと! スラムドッグマートの新製品はローブではなさそうです!
では、いったいなんなのでしょうか!? プリムラ様、紹介をお願いいたします!』
司会者に促され、「はい」と頷くプリムラ。
布のかかったテーブルの横に立つと、時計の秒針のように回りながら、全方位に向かって深々と頭を下げた。
その時間すらも惜しむかのように、固唾を飲む音が止まらない。
最後の方角に向かって頭を下げ終えたプリムラは、拡声装置を手に、まるで説法のように清らかに語りはじめた。
『スラムドッグマートの新製品は、わたくしが考える「愛のカタチ」に関するものです』
……ざわっ! 観客のざわめきがひときわ高くなる。
「『愛のカタチ』……マジかよっ!?」
「いままでずっと謎だった、プリムラ様の『愛のカタチ』が、ついに明らかになるのか……!」
「こりゃ、相当なものに違いないぞ! それだけで、トップスクープじゃないか!」
「ああ! そにれ『愛のカタチ』は聖女にとってのアイデンティティだ!」
「それを標榜して負けたりなんかしたら……ホーリードール家は、国じゅうの笑い者になるぞっ……!」
ステージ上の純白の布に熱視線が視線が集中する。
あのヴェールの向こうには、『プリムラの愛』……すなわち『プリムラのすべて』と呼べるだけのものが隠されているのだ。
それを明かそうというのに、聖少女は気負いのない表情をしていた。
ここまできて腹がくくれたのか、すでにやりきったようなスッキリとした表情をしている。
『わたしはずっと悩んでいました。わたしの愛は、いったいどんなものなのだろうかと。
お姉ちゃんの、包み込んでくれるような豊かな愛……。パインちゃんの、包み込みたくなるような無垢な愛……。
それとは違う、わたしだけの愛を、ずっと探していました。そしてついに、見つけたのです。
ごらんください……!』
……ふぁさっ……!
ほのかな衣ずれの音とともに取り払われるヴェール。
瞬間、世界じゅうの火山が爆発したかのような大絶叫が轟く。
「えっ……ええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
それを目にしたすべての者が、我が目を疑っていた。
なにせテーブルの上には、なにひとつ信じられないものが鎮座していたからだ。
それは、なんと……。
血のしたたる、ゴルドくんの、生首っ……!