11 小学生vsニセ勇者
11 小学生vsニセ勇者
時は現在に戻る。
……ずばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーんっ!!
腐りかけの扉が、ウエハースのように粉々になって吹き飛ぶ。
残骸だけとなった両開きの扉の向こうには、4つのシルエットが。
おそらく魔法で光を放っているのであろう、太陽を背にしたような後光がさしている。
室内にいた魔王信奉者たちは、朝日を浴びた吸血鬼のようにたじろぐ。
最深部にいたステンテッドは、悪魔王のような形相で叫んだ。
「だ……誰じゃっ!?」
影は、いや、光は答える。
「そこで樽に入っているヤツらを、返してもらおうかしら……!
鼻持ちならないお嬢様に、鼻持ちならない騎士だけど、いま死んでもらっちゃ困るのよ……!」
「まさか、アバズレ女を助けにきた騎士どもか!?」
「そう、アタシたちは騎士……!
でも、騎士は騎士でも、そんなチンケな騎士じゃないわ……!
カッ! とひときわ光が強くなる。
誰もがまばゆさに目を瞬かせていたが、やがて目が慣れ、乱入者の輪郭以外が目視できるようになった。
逆光のなか、不敵に笑っていたのは……。
仔犬のように、幼い子供たちであった……!
「世界最強の騎士、わんわん騎士団、参上ぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
まさかの子供……!? まさかの世界最強……!?
まさかの、わんわんっ……!!
「え……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
仰天する大人たちが、次の瞬間に目撃していたのは、さらなる仰天。
4人の中心にいた少女が、抜刀しつつ室内に躍り込む。
金色のツインテールを振り乱す勢いで、天井高く跳躍する姿であった。
「そりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
少女は気合いのこもった掛け声とともに、覆面の大人たちを一気に飛び越える。
そして部屋の中央めがけ、空中で大上段に振りかぶった。
「久々にいくわよっ! ナイツ!!! オブ!!! ザ!!! スラムドッグぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
……シュパァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!
少女は、獲物を襲う黄金のツバメのような軌跡を残しつつ、樽の前に着地。
剣撃を、真一文字に一閃させた。
……ドガァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
4つの樽がまとめて弾け飛ぶ。
ステンテッドの妻と子供はバッタリと倒れ、フォンティーヌとバーンナップはよろめきながらも踏みとどまった。
金色の髪の少女、シャルルンロットは剣を構えなおし、すかざず周囲を威圧する。
人垣が割れてできた道を、仲間たちが駆けつけて合流した。
……パッ!
部屋の明かりがともり、薄暗かった室内の全貌が明らかになる。
今度は、少女たちが仰天する番であった。
「え……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
どす赤い液体にまみれた壁、使われた直後のように濡れ光る拷問器具の数々。
そのおどろおどろしさもささることながら、少女たちの度肝を抜いていたのは……。
おびただしい数の、覆面の大人たちであった……!
形勢逆転とばかりに、ステンテッドが笑った。
「がはははははっ! ワシの手下は100人もいるんじゃぞ!
それなのに子供4人で乗り込んでくるとは、たいした度胸……いや、たいしたバカさ加減じゃわい!」
乱入者の正体が小学生とわかった以上、魔王信奉者たちはもう怖れない。
少女たちを取り囲み、覆面ごしの口元をニヤニヤと歪めている。
バーンナップと支え合うようにして立っている、フォンティーヌが言った。
「あなたたち、本当に4人だけで来たわけではないのでしょう?
このアジトの外には、衛兵と騎士の応援が、大勢いるのでしょう?」
知恵の2号と呼ばれるほど機知に富んだミッドナイトシュガーがすかさず、
「そうのん、この外には衛兵や騎士だけじゃなく、2千を超える数の軍勢が……」
しかしその声を上書きするような怒声で、シャルルンロットが叫んでいた。
「アタシたち4人だけに決まってるでしょ! まさかこんなショボイアジトに、こんなに数がいるとは思わなかったんだから!」
せっかくのハッタリのチャンスを、台無しにしてしまう。
「はあっ!? 本当にたったの4人で来たんですの!? なにを考えてるんですの!?」
「助けてもらったクセにでかい口たたくんじゃないわよ! アタシたちがいなかったら、アンタは今頃干からびてたクセに!」
シャルルンロットとフォンティーヌは一触即発。
しかし、ギャハハハ……! と嘲笑が起こり、我に返った。
シャルルンロットは視線で周囲を威嚇しつつ、ささやきかける。
「フォンティーヌ、アンタは大魔法が使えるんでしょ!? だったら一発ブチかまして……」
「触媒がないと、魔法は使えませんのよ」
「なら、ミッドナイトシュガーの杖を……」
「あんなショボイ杖で使えるのは、せいぜいファイアボールくらいのものですわ」
ふと、フォンティーヌを支えていたバーンナップがつぶやく。
「チャルカンブレードさえあれば……こんなヤツらなど、一撃で……」
バーンナップの愛剣にして、聖女従騎の証である『チャルカンブレード』。
いつも肌身離さず身に付けているのだが、人質になった際に武装解除をさせられ、今はゴージャスマートの事務所の床に置き去りであった。
「せっかく助けが来たというのに、ないない尽くしじゃ、意味がありませんの……!」
ぐっ、と悔しそうに歯噛みをするフォンティーヌ。
少女たちを絶望を支配し、大人たちは希望を見いだしつつあった。
しかしその狭間でひとり、どちらでもない顔をしている者がひとり。
抱き合って震えていたグラスパリーンとチェスナが尋ねる。
「みみっ、ミッドナイトシュガーさんは、怖くないんですかぁ?」
「わうっ、ここっ、このままでは、つかまってしまうのです!」
「別に」とだけ答える赤ずきんの少女。
シャルルンロットが食ってかかった。
「ちょっと、2号! なんでアンタそんなに落ち着いていられるのよ!?
まさか、とっておきの技でもあるとか!?」
「そんな都合のいいものはないのん。でも、とっておきの技が出せそうなものなら、ここにあるのん」
ミッドナイトシュガーはゆったりとした動作で、後ろ手に持っていたものを取り出す。
それは、なんと……!
「え……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」