表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

799/806

10 出撃

10 出撃


 ステンテッドはアジトの奥へと通される。

 地下の階段を降りていった先には、むせかえるほどに生臭い匂いで満たされた、広い部屋があった。


 床はどす赤い液体で濡れていて、壁や天井からも、どろりとした赤い液体が滴っている。

 部屋の中央には魔法陣のようなものが描かれていて、中央には4つの樽があった。


 樽は内側にはびっしりとヒルが張り付いていて、獲物を嗅ぎつけたように蠢いている。

 部屋の奥には悪魔王の巨大な像があり、ステンテッドはその手前にある、異形の玉座に案内された。


 ステンテッドは最初は引き気味だったが、しばらくすると慣れてしまう。

 運ばれてきた黄金のグラスに入った謎の赤い液体も、ワインのごとく飲み干す。


 ステンテッドの前に跪いていたのは、総勢100名ほどの魔王信奉者(サニタスト)たち。


 壮観だった。

 彼はついに、大いなる力を手に入れたのだ。


 そこに、今日の犠牲者たちが運び込まれてくる。

 ステンテッドの妻と子供、そしてフォンティーヌとバーンナップ。


 ステンテッドは玉座にふんぞり返り、縛り付けられたまま跪かされた者たちに向かって言った。


「これからお前たちには、ワシらの糧となってもらう!

 お前たちはブタとおなじで、ワシの糧になるために、今まで生かされてきたんじゃ!

 でも、そのへんの凡人に食われるのではなく、勇者であるワシに食われるとは、幸せなブタどもといえよう!

 さあ、ブタどもよ、ワシのためにいい声で鳴くんじゃ!

 そして地獄で、偉大なるワシのために死んでいったと自慢するがいい!」


 ステンテッドはすっかり王様気取り。

 魔王信奉者(サニタスト)たちに「やれっ!」と命じ、犠牲者たちを樽にセッティングさせていた。


 唸り始める魔導装置。

 儀式という名の拷問が開始されたところで、彼らの猿ぐつわが解かれる。


「い……いやあああっ!? あ……あなた、こんなこと、やめてくださいっ!」


「うわああんっ! パパは最低だ! 僕らをこんな目に遭わせるだなんて!」


 泣き叫ぶ妻と子供。

 フォンティーヌはギョッとなった。


「もしかして、こちらにいるふたりは、ステンテッドさんの家族だったんですの!?」


「がはははははっ! そうじゃ! ワシに食われる運命にあるとも知らず、このワシを愛しておったんじゃ!」


「げ……外道っ! あなたは人間じゃありませんわ……!」


「なんとでも言うがいい! ワシは決めたんじゃ! あの(・・)オッサンを滅ぼすためなら、なんでもすると!」


あの(・・)オッサン!? 誰ですの、それは!?」


「さぁな、名前など知るか! そのへんにいる、ショボイオッサンじゃ!」


「しょ……ショボイオッサンのために、家族やわたくしたちを犠牲にするというんですの!? そんなこと、許されるわけが……!」


 身体の血を抜かれながらも、樽のなかで暴れるフォンティーヌとバーンナップ。

 妻と子供は、全身をおそうおぞましい激痛に身悶えし、声を枯らして助けを呼んでいた。


「もうなにをしてもムダじゃ!

 このはスラム街、そのうえ地下じゃ! こんな所には衛兵すらも近づかん!」

 来てくれるとしたら、野良犬くらいのもんじゃろうな!

 がはははははっ! がーっはっはっはっはっはっはっは………!」


 ……ずばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーんっ!!


 ニセ悪魔勇者の高笑いは、扉を乱暴にブチ破る音で遮られた。


 ロウソクだけの薄暗い部屋のなかに、まばゆいほどの明かりがもたらされる。

 血なまぐさい匂いが、爽香によって上書きされていく。


「だ……誰じゃっ!?」


 残骸だけとなった両開きの扉の向こうには、4つのシルエットが。

 それを目にした途端、その場にいた者たちは、誰もが目を見開いていた。


「え……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 時は少しだけ戻る。

 場所はゴージャスマートのキリーランド本部。


 事務所の外には、4つの小さな樽が。

 それはときおり持ち上がって、足が生えたかのように、ちょこちょこと移動していた。


 人目を察すると、ストン、と元に戻る。

 隙間のわずかな穴から。ヒソヒソ話が漏れていた。


「ここに、あの鼻持ちならないお嬢様と、鼻持ちならない騎士がいるのね」


「それならここにいるのん」


「って、それはもういいわよ! なんとかして今日の『新製品発表会』に出品する製品を突き止めるのよ!」


「スパイをするには遅すぎるのん。ドロボウを見つけて麻を収穫するようなもののん」


「しょうがないでしょ! ずっとこうやってスパイしてたのに、アイツらぜんぜんシッポを出さないんだから!」


「でも、いまさら突き止めてどうするんですかぁ?」


「それは、えっと……たいしたことないって、笑ってやるのよ!」


「わうっ! わうは笑うの大好きなのです! わうが笑うとめがみさまも喜んでくださるのです!」


 などとワイワイガヤガヤやっていると、少女たちの前に、一台の馬車が通りしすぎる。

 その馬車は人目を避けるように、事務所の裏口で止まった。


「あの馬車、なんだか怪しいわ! もしかしたら、『新製品発表会』の製品を運び出すのかも!? 近くまで行ってみましょう!」


 裏路地に入った彼女たちは、目撃する。

 縛られて馬車に連れ込まれる、フォンティーヌたちの姿を。


「ちょ、なにあれ!? いったい、なにがどうなってるっての!?」


「人さらいのん」


「ひとさら!? ひとさらだけじゃ、お腹が足りないと思いますぅ」


「わうっ! わうたちは、たべざかりなのです!」


「なにわけのわかんないこと言ってるのよ! あの馬車を止めないと! ああっ!? 走り出しちゃった!?」


「いい手があるのん」


「さすがは知恵の2号さん! それはどういう手なんですかぁ?」


「こういう手のん」


「えっ……きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?!?」


 3号が入っていた樽がドーンと押され、横倒しになってゴロゴロと転がされる。

 走り去る馬車に追いすがったが、あと一歩というところで馬車は曲がり、樽は街角に積んである資材にがっしゃんと激突した。


「ああもう、なにやってんのよ3号! ちゃんとぶつかりなさいよ!」


「わうっ、あのくらいの馬車なら、わうなら追いつけるのです!」


「よし、それじゃ4号! あの馬車に飛び移りなさい! もちろん、見つからないようにね!

 アタシたちが馬車で追いかけるから、その目印になるのよ!」


「わうっ! かしこまりなのです!」


 しゅたっ! と敬礼した、犬耳しっぽの少女が走り出す。

 ちょこまかとした動きで馬車に追いつくと、しゅぱっと馬車の後部に張り付いた。


 一団のリーダーである、金髪の少女が言った。


「追跡装置を取り付けたわね! なら、いったん戻るわよ!」


 4号を回収した3人の少女たちは、スラムドッグマートの事務所に戻る。


「クーララカ! 厩舎の鍵をちょうだい! アタシたちの馬車を出すから!」


「なら、用途を説明するんだ。あの馬車はスラムドッグマートの備品なのだから、私用には……」


「鍵ならここにあるのん」


「でかしたわ、2号!」


「って、いつの間に鍵を!? 返すのだ、こらっ!」


 少女たちは、わーっ! と事務所内を駆け回り、追いかけてくるクーララカを翻弄。

 クーララカが壁に激突して倒れたスキに逃げ出し、厩舎の鍵を開け、自分たちの馬車に乗り込む。


 少女たちの馬車は、彼女たちと同じくらいの幼いポニーが引く、犬舎のようにちっちゃな馬車だった。


「いくわよっ! 『わんわん騎士団』、しゅつげきぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーっ!!」


 少女もポニーも、ちっちゃくてもパワフル。


 ……ずばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーんっ!!


 厩舎の扉をデジャヴのように吹き飛ばしながら、外へと飛び出していった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] チェスナ正式4号入りおめでとうw
[一言] 展開としては、かなーり面白い!面白いんですけど、いい加減、主人公の活躍が見たいです。
[気になる点] わんわん騎士団が助けに来ましたか・・・大丈夫なんでしょうねえ?(不安)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ