04 不人気だけど
04 不人気だけど
セブンルクス王国において、涙の再会が行なわれていた頃……。
プリムラはスラムドッグマートの新人研修を終え、キリーランドにある事務所に戻っていた。
ゴルドウルフがいるかとほのかな期待を寄せていたのだが、彼の机はがらんとしたまま。
プリムラは秘書席に座り、深い溜息をつく。
――ああ……新人研修は、とても実りある内容でした……。
新人店員の方々とも親しくなれましたし、よい刺激になりまた……。
でも、このキリーランドのスラムドッグマートの不調をなんとかするアイデアは、思いつきませんでした……。
せっかくランさんが気づかって、沈んでいるわたしを連れだしてくださったのに……。
その気持ちに報いることが、できないんだなんて……。
聖女の国、キリーランドで展開しているスラムドッグマート。
フォンティーヌとの決戦でもあるラストバトルであったが、売上は好ましくなかった。
ゴージャスマートは、フォンティーヌのカリスマ性を活かした商品を多数展開。
スラムドッグマートも、ホーリードール三姉妹の商品を展開していた。
売りとなるキャラクターが1対3なら、本来はスラムドッグマートが3倍有利なはずである。
しかし売上は、フォンティーヌのほうにわずかに軍配があがっていた。
その要因を作り出していたのは、すべてプリムラのせい。
プリムラの商品だけが特出して売上が悪く、ひとりで足を引っ張っていたのだ。
しかもその傷はじょじょに深くなっており、売上の差も開きつつあった。
ドッグレッグ諸国のスラムドッグマートの総責任者であるプリムラは、この売上を回復させるのが目下の急務であった。
部屋に入ってきたランが、見かねた様子で言う。
「おいおいガキんちょ、新人研修に出掛ける前と変わってねぇじゃねぇか。
せっかく気分転換したんだから、もうちょっとシャキッとしろよ」
プリムラは、思いつめた様子で切り出す。
「あの、ランさん……」
「なんだ?」
「わたしの商品の取り扱いを、すべて中止しようと思っています……。
いまの不調をなんとかするには、もうそれしか手はありません……」
しかしランは「それはダメだ」と即答。
「どんなに売れなくても、お前の商品だけは落としちゃならねぇ。
落とすなら、ホーリードール家の商品ぜんぶだ」
「な……なぜですか?」
「そんなこともわからねぇのかよ、お前は『ホーリードール三姉妹』のひとりだからだ。
パインパックとリインカーネーションのふたりだけが写っていて、お前だけがいないポスター。
お前だけが欠けてるそ商品構成を見て、客はどう思うと思う?
三人揃っているからこそ、客は自分にあった聖女の商品を安心して選ぶことができるんだ」
「それは大丈夫ではないでしょうか、わたしのことなんて気にする方は、どこにも……」
はぁ、とランは大きく溜息をつく。
「なあプリムラ、『チョコ・閃光・ホットポーション』って言葉を知ってるか?」
「えっ?」
「チョコはチョコレート、閃光は閃光弾、ホットポーションはそのまんまだ。
アタイたち冒険者の店の店員のあいだじゃ、『めったに売れない商品の代名詞』とされているものなんだ。
チョコレートは非常食として持ち歩く冒険者は多い。
しかし滅多に食べることはないから、補充することもほとんどない。
閃光弾も、遭難した時とかの非常用で、滅多に使うことはない。
ホットポーションは飲めば身体が温かく効果がある。
しかしほとんどの冒険者は酒で代用する。
でも、どこの冒険者の店に行っても、その3つの商品は必ず置いてあるだろ?
なぜだかわかるか?
その3つは滅多に使わないものだが、冒険者をやってりゃ、かならず必要になる局面が来るからなんだよ!
そんな、いざという時の必需品が置いてなかったら、客はどう思うかわかるか?」
「……品揃えが悪いと、思われてしまいます……!」
「そういうことだ! お前の商品だけを落とすってのは、そういう意味なんだよ!
客が買うか買わないかはともかく、『あって当たり前』だと思っている商品なんだ!」
いつもであれば、プリムラは大人しく納得する。
しかし今日にかぎって、彼女は反論した。
それほどまでに、追いつめられていたのだ。
「で……でも……! チョコレートはスラムドッグマートの売れ筋商品です!」
「バカ野郎! そりゃオヤジが、そうなるように仕向けたからだよ!
きっと、オヤジはずっと考えてたんだろうよ!
売れもしねえのに売り場のスペースを取ってるチョコを、どうやったら売れるようになるかを!
ガキんちょ! お前はその努力すらしねぇで、売れないって理由だけど、商品を引っ込めようとしてるんだぞ!
工房のヤツらが精魂こめて作ってくれた商品を、ゴミ同然にしようとしてるんだ!」
脳天に落雷を落とされたような衝撃が、プリムラを襲う。
……ガガァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
少女は思っていた。
自分の商品を引っ込めれば、すべてが解決すると。
自分の聖女としての評価は下がってしまうが、それは仕方のないことだと。
少女は思いもしていなかった。
自分の商品を引っ込めることにより、自分以外にも悲しむ人たちがいることを。
そしてちなみにではあるが、『めったに売れないが、扱わないわけにはいかない商品』というのは、どこの業界にも存在する。
コンビニエンスストアならば、『線香・ロウソク・荷紐』である。
この3点は、消費者のイメージ的にも『めったに売れなさそうな商品』であるが、この3点を置いていないコンビニというのはほとんど存在しない。
それだけ、扱っていない場合のイメージ損失というのを怖れているのだ。
話を元に戻そう。
プリムラは、自分がとんでもないことをしようとしていたのだと、瞳から光を失うほどにショックを受けていた。
ランはやれやれと肩をすくめる。
「まあ、このスラムドッグマートの責任者はお前だから、それでも落としたければ自由にすればいいさ」
……ズバァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
突如として、蹴破られるような勢いで事務所の扉が開いた。
プリムラとランはビクリとなる。
見やった先には、いま絶賛交戦中のお嬢様聖女、フォンティーヌが立っていた。
背後に、黒豹のようなバーンナップを従えて。
「おーっほっほっほっほっほーっ! 話はぜんぶ聞かせてもらいましたわっ!
プリムラさんの商品を落とすことなど、女神が許してもこのわたくしが許しませんことよっ!」





