128 ローンウルフ4-67
復活の狼煙のような高笑いが、スラム街に響き渡る。
「潰し屋バンクラプシー、完全復活だよぉ!
あ~あ、この勢いはもう、神様だって野良犬だって止められないだろうねぇ!」
そう、彼の言うことは間違ってはいなかった。
これまでの彼は、勇者という名の王であった。
そして王を倒すことができるのは、野良犬という名の奴隷だけ。
しかし彼は、ここにきて勇者としてのプライドを捨て去り、温石屋を始めた。
もはや勇者でなくなった彼は、神も、野良犬も恐るるに足らず。
なぜならばもう、失うものなどなにもないのだから。
「さぁ~て、いっちょ『潰し』といきますかぁ!」
飛び立つ不死鳥のように、両手を広げるバンクラプシー。
嗚呼……!
この地でもまた、彼の暴虐の嵐が吹き荒れ……!
多くの者たちが『潰されて』しまうのか……!
勇者という名の鎧を脱ぎ捨て、無敵の力を得た彼を止められる者は、もはやどこにも……!
否……っ
……ジュゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!
バンクラプシーを取り囲んでいた、燃える翼のような焚火たちが、一斉に消しとんだ。
「なっ!?」とあたりを見回すと、ホームレスたちがバケツを手に立っている。
「な……なにしやがる!?」
「『潰し』に来たんだよ」
「な……なんだと!?」
奇襲はバンクラプシーの得意とするところである。
しかしまさか、先に襲いかかられるとは思ってもみなかった。
蜂起した草食動物に囲まれるライオンのように、うろたえるバンクラプシー。
しかしここで引き下がっては『潰し屋』の名がすたると、これから自分がしようとしていたことは棚に上げて、彼らを責めた。
「こ……こんなことをしてタダですむと思ってるのぉ!? この俺が誰だか、知って……!」
「ああ、忘れたくても忘れられないよ、アンタの顔だけは」
「なに……?」
「『潰し屋』と呼ばれたアンタが、スラム落ちしてただなんてねぇ……!」
「なぜ、俺の二つ名を……!?」
それは、度重なる奇襲を受けたような衝撃。
バンクラプシーの背筋に、ぞわりと悪寒が走った。
「ま、まさか、お前たちは……!?」
「そうだよ、アンタに『潰された』者たちだよ」
「ううっ……!?」
「アンタにすべてを奪われた俺たちは、ここで死人同然に生きてきた。
アンタが不幸になることだけを願い、それだけを希望に生きてきた。
でもまさか、こうやってアンタに仕返しができるだなんてねぇ……!」
じりっ、と包囲網を狭めてくるホームレスたち。
「アンタが俺たちにしたように、アンタの商売を、徹底的に邪魔してやる……!」
「このスラムから、絶対に飛びたたせたりはしねぇ……!」
「俺たちは残りの人生をかけて、アンタを潰してやるっ……!」
「覚悟しなっ、『潰し屋』さんよぉ……!」
そう。
神も野良犬も、決してバンクラプシーを殺すことはできなかった。
しかし逆に、神と野良犬以外の全てが、彼を殺しにかかったのだ……!
今までの借りを、返すかのごとく……!
自業自得……! 因果応報……! 天罰覿面……!
身から出た、勇者っ……!
バンクラプシーを取り囲んだ者たちは、ボロボロの手袋ごしに、消えた焚火の中から温石を取り出す。
憎しみを込めるようにしっかりと握りしめ、バンクラプシーに近寄る。
「な、なにをするんだ!? やっ、やめっ……!」
そして当然の権利であるかのごとく、打ち据えたっ……!
「思い知れ、このクソ野郎っ……!」
……ガスッ! ジュゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」
焼けた鉄を押し当てられたかのように、絶叫するバンクラプシー。
逃げようにも、その反対側にも焼け石が待ち構えていて、
……ジュゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?
熱い熱い熱いっ!? 熱いぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
倒れ、踏みつけられ、奴隷の焼印のごとく焼け石を押し当てられるバンクラプシー。
いや、奴隷のほうがまだマシであった。
なぜならば奴隷の焼印は一箇所のみ。
しかし勇者への焼印は、全身に及んだ。
「やっ……やめてやめてやめてぇ! 許して許して許してぇ!
許してぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
涙も蒸発するほどの灼熱のなかで、懸命に哀願する。
しかし、聞き入れてはもらえなかった。
「俺もそう言って、お前さんに何度も許しを請ったよなぁ?」
「でもその時お前さんは、なにをしたか覚えているか?」
「咥えてたタバコを、こうやって俺の顔に押し当てたんだよっ!」
……ジュゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」





