120 ローンウルフ4-59
新連載、開始いたしました!
学級裁判で追放された器用貧乏 器用だったので1人で生きていく
器用だったので上級職のスキルと魔法が全て使えるようになり、無敵の存在に
1人で生きていくと決めたのに、まわりがほっといてくれません
このお話のあとがきの下に、小説へのリンクがあります!
スラムドッグマートの新人研修が始まって、1週間が経過。
そしてとうとう、教官であるランが参戦する日がやって来た。
その日は新人店員の誰もが研修を一時休止し、ランのまわりに集まっている。
新人店員たちはこの1週間、スラム街をひたすらうろついて商材を探した。
いくつかの商売を始めたものの、すべて失敗し、誰ひとりとして軌道に乗せられた者はいなかった。
だからこそ、彼らはすでに確信していた。
このスラム街で新しい商売を始めることなど不可能だ、と。
教官も大口を叩いてはいるが、すぐに現実を知るだろう、と。
そしてこんな無茶苦茶で、無意味な研修を考えたことを、激しく後悔するであろう、と……!
新人店員たちはすっかり疲弊しており、中にはやさぐれている者までいた。
彼らはまるでゴロツキのように、ランに絡む。
「ラン教官、それじゃあやってみせてくださいよ、『絶対に成功する商売』とやらを!」
「絶対なんてありえないのに、もし失敗したら、どうするんですかぁ?」
「そうだ、俺たち全員の前で土下座してもらおうぜ!
だって自分でもできなかったことを、俺たちにやらせてたんだから、そのくらい当然だろ!」
ランはフッと笑んだ。
「いいぜ。土下座でも逆立ちでもなんでもしてやるよ」
新人店員たちは「笑っていられるのも今のうちだ」と思っていた。
しかしその瞳が、生まれたての狼を見る母狼のように穏やかなことを、彼らは気付いていない。
――まるで、あの時のアタイとソックリだぜ。
アタイもこんな風に……いや、もっと酷くオヤジに突っかかっていったんだよなぁ。
ランの閉じた瞼の裏には、ありし日のふたりが浮かび上がっていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「オッサン、バカじゃねぇの!? スラム街で商売なんてできるかよ!」
「なぜ、そう思うのですか?」
「アタイはこことは違うけど、同じような街で育ったんだ!
だからスラムのことは、オッサンなんかよりずっと詳しいぜ!
スラムで金儲けしたけりゃひとつしかねぇんだよ!
それは、持ってるヤツから奪うことだ!
そうさ、ここは地獄みたいな所なんだよ!
地獄で商売なんて、できるわけがねぇじゃねぇか!」
「私はそうは思いません。たとえここが本当の地獄だったとしても、商売はできます。
ランさんには、まわりにあふれている商材が見えていないのですか?」
「商材!? なんだそりゃ!?
そこまで言うやら商売してみろよ!
失敗したらタダじゃおかねぇぞ! 足腰立たなくなるまでブチのめしてやる!」
「わかりました。それじゃあ手本を見せましょう。」
そのかわり、ここでの商売が軌道に乗ったら、約束してもらえますか?
もう盗みはやめて、ゴージャスマートで真面目に働くことを」
「ああ、いいぜぇ! どうせ無理に決まってるんだ!
それに、アタイを店員にしようだなんてのも無理だったんだよ!
これが終わったらオッサン、真っ先にテメーの身ぐるみを剥いでやるから、覚悟してろよっ!」
これは若かりし頃のランが、まだ知らなかった頃の話。
『オッサン・マジック』を。
オッサンの展開した商売に、ランの瞳が驚きで見開かれるのに、そう時間はかからなかった。
「う……うそ、だろ……!?
ま、まさか、ただの○○○○が、飛ぶように売れるだなんて……!」
「これでわかりましたか? どんな場所でも商売はできるのです。
たとえ地獄と呼ばれる場所でも」
それはランにとって、感じたことのない衝撃であった。
なにせオッサンが商売を始めてからというもの周囲の光景は、自分の知っている『地獄』とは、あまりにもかけ離れたものとなっていたから。
この時、ランは思う。
――こ……このオッサン、やべぇ……! ヤバすぎるっ……!
このオッサンなら、たとえ地獄の閻魔が相手だったとしても……。
『商売』できるっ……!
瞬間、ランは五体を地面に投げ出していた。
「お……オッサン! いや、オヤジっ! アタイが間違ってた!
オヤジの商売は、まるで魔法だ! だって、この荒んだ街を、こんなにも……!」
「ランさん、顔をあげてください。私のしていることは、魔法などではありません。
これは人間としてごく普通の、人と人との繋がりです」
「人と人との、繋がり……?」
「そうです。欲しいものがあった場合、奪うのは獣のすること。
ですが人間は、それ以外の手段を持っています。
それは、欲しいものを受け取るかわりに、対価を払う……。
これはつきつめれば、人だけがなしえる、人と人との繋がりなのです。
それを忘れなければ、商売はどこででもできます」
「お……オヤジっ! 約束どおり、アタイはゴージャスマートで真面目に働く!
だから、このアタイに『商売』を教えてくれっ!
オヤジの、本物の『商売』を……!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ラン教官、ラン教官!」
新人店員たちに呼びかけられ、ランはハッと我に返る。
「あ、悪い、ちょっとボーッとしてた」
「しっかりしてくださいよぉ! いったい、なにを考えてたんですかぁ!?」
「そんなの、大儲けしてる自分に決まってるだろ!
だって俺たちに、あんな大口を叩いたんだぜ!」
「そうそう、10万¥なんて、あっという間ですよね!」
「それとも失敗したときに、なんて言おうか考えてたりして!」
「んじゃあそろそろ見せてくださいよ、本物の『商売』ってやつを!」
「さぁて、いったい何屋を始めるつもりなんですかぁ?」
「あ、言っときますけど『喧嘩屋』とかはナシですよぉ?
だってもう同じのがありますからねぇ!」
「偉大なラン教官が、パクリなんてするわけないだろ!
だって俺たちに、あんな大口を叩いたんだぜ!」
「もったい付けてないで、なにを売るかだけでも教えてくださいよぉ!」
馴れ馴れしい口調で、小柄なランを肘で突く新人店員の青年。
ランはポケットからあるものを取り出した。
「これを売るんだ」
その手に視線が集中する。
次の瞬間、天地がひっくり返るような驚愕が、周囲から噴出した。
「いっ……いしぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーっ!?!?」
次回、いよいよ『伝説の商売』が明らかに…!
そして新連載、開始いたしました!
学級裁判で追放された器用貧乏 器用だったので1人で生きていく
器用だったので上級職のスキルと魔法が全て使えるようになり、無敵の存在に
1人で生きていくと決めたのに、まわりがほっといてくれません
このお話のあとがきの下に、小説へのリンクがあります!





