表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

771/806

113 ローンウルフ4-52

 スラム街の広場に現れた謎の集団。

 それは『スラムドッグマート』の新人研修だった。


 その教官役であるランは、新人店員たちに向かって声を張り上げる。


「今からお前たちには2週間、ホームレスとしてこの街で生活してもらう!

 この街の中だけで、10万(エンダー)を稼ぐんだ!」


 さっそく質問の手が上がった。


「ホームレスの方たちを相手に商売するということですね。

 で、なにを売るんでしょう?」


「それもお前たちが調達するんだよ、このスラム街の中でな!

 研修期間中は、この街から一歩でも外に出るのは禁止だ!」


「ええっ!? そんなのムチャです!

 スラム街の中なんてゴミばっかりで、売るものなんてないのに……!」


「なに言ってやがる、売るものならまわりにいくらでもあるだろう!

 お前たちが気付いてないだけだ!」


「まさか、ゴミあさりをしろと!?」


「さぁな、好きにしろよ!

 とにかくどんなやり方でもいいから、10万(エンダー)を稼ぐんだ!

 ただし盗んだり、脅し取ったり、ゴミを騙して売りつけるのはナシだぞ!

 アタイは真っ先にそれをやろうとして、オヤジに叱られちまったんだよな!」


 着ぐるみを着た少女のひとりが口を挟む。


「山賊じゃあるまいし、そんなことするわけないでしょ」


 すると、着ぐるみグループの眼鏡少女がギョッと目を剥く。


「ええっ、もしかして、わたしたちもやるんですかぁ!?」


「しょうがないでしょ、ランと勝負することになっちゃったんだから」


「まさかこんな、くるぶし対決に巻き込まれるとは思いも寄らなかったのん」


「わうっ! がんばるのです!」


 ランのルール説明は続く。


「それと、ここで生活しろとは言ったけど、食うものと寝る場所だけは用意してやるよ!

 寝る場所はこの広場だ! ここで焚火を焚いてやるから、このまわりで寝るんだ!」


「ええっ!? 2週間も外で寝るんですかぁ!?」


「そうだ。嫌ならさっさと10万(エンダー)を稼ぐこったな!

 稼いだヤツは即座に研修終了だ!」


 ランは親指で、ツギハギだらけで灰被り色のローブを着た聖女たちを示す。


「それとメシはガキんちょ……じゃなかった、ここにいる聖女たちが炊き出しをやってくれるからな!」


「みなさん、がんばってくださいね。あったかくておいしいスープを作りますから」


 ガキんちょと呼ばれかけた少女は、ぐっ、両手で小さくガッツポーズを取り、新人店員たちを鼓舞する。

 その隣にいたもうひとりの聖女は、「クゥ」とハンカチを噛んでいた。


「お姉ちゃん、どうされましたか?」


「最後の研修っていうから、世界の中心でゴルちゃんのいいところを100個叫ぶのかと思ってついてきたのに……。

 きっと特別審査員としてゴルちゃんもいるだろうと思って、ついてきたのに……」


「リイン……じゃなかった聖女2! 嫌なら帰ってもいいんだぞ!」


 すると、聖女2の後ろに控えていたガタイのいいホームレス女がしゃしゃり出てくる。


「おいラン! 言葉に気をつけろ!

 いくらおふたりがお忍びだからといって、礼を失してよいわけではないぞ!」


「しょうがねぇだろ、クーララカ! へーこらしたらバレちまうだろうが!

 ホーリードール家の聖女たちが、こんなスラム街にいるとわかったら……おおっと」


 ランは慌てて口を塞いだ。


「とにかく、つべこべ言わずに研修を始めるぞ!」


「そういえばランさん、みなさんにお渡しするものがあったのでは?」


 聖女1にそう言われ、ランはまた「おおっと」となる。


「そうだった、もうひとつ忘れるところだったぜ!

 研修に参加する者には、ひとりにひとつ、アイテムをやろう!

 この中から好きなものを選んでいいぞ!」


 提示されたアイテムは3つ。

 『銀のフォーク1本』『マッチ1本』『瓶のフタ1個』。


 『銀のフォーク』はホーリードール家で使われていたカトラリーで、最高級の銀を使った逸品。

 ホーリードール家の聖女たちが使っていたとわかれば、10万(エンダー)どころではない値段がつくのは間違いない。


 『マッチ棒』はなんの何の変哲もないマッチである。

 使用済みではなく、しけってもいない。


 『瓶のフタ』はいかにも安酒っぽい瓶のフタで、明らかなるゴミだった。


 今回の研修に参加している新人店員たちの多くは、『銀のフォーク』を選んだ。

 その中でごく一部、裏読みをした新人店員は、『マッチ棒』を選ぶ。


 当然の結果ではるが、『瓶のフタ』は誰も手に取らなかった。

 それはランにとって予想通りの結果だったのか、アイテムを手にした選手たちを見回したあと、「うん」と頷く。


「これはお前たち新入りが野良犬になるための『卒業実習』だ!

 この実習こそ、いままで受けてきた研修の総ざらいとなるんだ!

 『商売の基本』を忘れるんじゃないぞ!

 それじゃあスタートだっ! さぁ、散った散った!」


 まさしく野良犬のようにシッシッと両手で追い払われ、新人店員たちは戸惑いながらもその場を離れていく。

 その背後に、嫌な言葉が付け加えられた。


「あ、このスラム街ならどこで商売してもいいが、裏路地には注意しろよ!

 取られるものは何もないと思ったら大間違いなんだからな!」


 いちおう安全のための配慮はされていて、ホーリードール家に仕えている騎士たちが、ホームレスの格好で見回りにあたるようになっている。

 新人店員たちが厄介ごとに巻き込まれた場合、仲裁や救出をするためだ。


 とはいえ、護衛がいる事は新人店員たちには伝えられていない。

 あくまで裸一貫ということを意識させるために。


 企業の『新人研修』というのは、その企業の特色が出るものである。

 軍隊なみに厳しかったり、学生に逆戻りしたようにユルかったり、軽スベりするくらいにはユニークだったり。


 しかしランが提唱した『スラムドッグマート新人研修』、その最終課題は一線を画していた。


 スラム街に2週間滞在し、10万(エンダー)を稼ぐ……!


 この一見して無謀というか、下手をすると超絶パワハラとも取られかねない行為……。

 その裏に隠されている意図とは、いったい何なのか……!?

ここからの『スラムドッグマート新人研修編』はちょっと長いので、区切りがつくまでは隔日更新とさせていただきます。

次回更新は 3月5日(金) の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ・・・なるほど、この研修は勇者じゃなくても躊躇ってしまいますね・・・ハードすぎる・・・(汗) でもまあ、わんわん騎・・・ゴホン! 着ぐるみグループたちはイケそうな気がします・・・。 ・・・…
[気になる点] リイン……もとい聖女2は確か重度のアル中ならぬゴル中だったハズ 2週間もオッサンを絶った状態に正気を保てるのだろうか 炊き出し担当だから研修してるわけじゃないけど 研修者の殆どがオッ…
2021/03/03 20:02 ベアトリスのマント
[良い点] スラムで活動などっかの聖女達(笑) 久々に登場ですね! 彼女達とノータッチ、どう絡むのか!? 次回が待ち遠しすぎる〜(*゜∀゜)♪
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ