104 ローンウルフ4-43
シンデレラオッサンからの手紙、それは現代に例えるなら、憧れのハリウッドスター直々の手紙にも等しい。
ビッツラビッツの執務室は騒然となった。
「なっ……なんですとぉ!? ゴルドウルフ様からの書簡ですとぉ!?」
「ニセモノではないのか!? ちゃんと鑑定院に鑑定させたのか!?」
「はい! ゴルドウルフ様のご本人の魔蝋印が封蝋として押されてありました!」
「なっ……なんということだ! 今やキティガイサー様以上とも噂されるお方から、手紙が頂けるなんて!」
「国王! は、早く、早く見てみてください!」
そのとき執務室にいた大臣たちはこぞって集まってきたが、ビッツラビッツは野良犬に対するかのように、しっしっと追い払う。
「ばかもの! これはゴルドウルフ様……いや、ゴルドウルフ殿が直々に余にくれた、親愛の証ですぞ!
お前たちのような下々の者では、見ることすらかなわぬ雲の上のやりとりである!
さぁ、さっさとここから出て行くのです!」
ビッツラビッツは執務室からすべての人間を追い出すと、いそいそと手紙を開いた。
封筒の中には、2枚の紙が入っていた。
1枚は、このセブンルクス王国の地図に、1本の線が引かれたものであった。
そして、もう1枚は……。
「こっ……これはっ!?」
国王ですら息を呑んでしまった、魔導列車のイメージイラスト。
魔導列車というのは『大陸間鉄道』を走る予定となっている、魔力で動く列車のことである。
その列車の外観はすでに一般に公開されているので、この国の誰もが知っていること。
あとは列車の車体に描かれるデザインが、大国間の王室内で取り沙汰されていた。
この『大国間鉄道』は表向きは勇者は関係ない、大国間でのプロジェクトである。
しかしその意向は各国とも勇者に大いに忖度をしていた。
車体に描かれるイラストも、ゴージャスマートのロゴと王様のキャラクターと決定していたのだが……。
ゴルドウルフから送られてきたイラストの魔導列車には、なんと……。
スラムドッグマートのロゴと野良犬のキャラクターが描かれていたのだ……!
ゴルドウルフがスラムドッグマートの社長であることは、もちろんビッツラビッツも知っている。
しかしゴルドウルフが勇者就任と同時に、スラムドッグマートは全店、ゴージャスマートに生まれ変わるものだと思い込んでいた。
ビッツラビッツは、書斎机に広げられた2枚の手紙を眺め、ひとりごちる。
「これはいったい、どういうことなのですか……!?」
線が引かれた地図と、魔導列車のイメージイラスト。
このふたつが意味するものとは……!?
「まっ……まさかっ!?」
ビッツラビッツは、書斎机の引き出しから1枚の地図を取りだした。
それは、週明けに発表する『大陸間鉄道』のルート図である。
それは下図のように、中央にある王都を横断し、隣接する大国へと繋がるものであった。
そしてゴルドウルフから送られてきた地図は、下図のとおりである。
なんとそのルートは、ドッグレッグ諸国をも含めたものであった……!
「まさかゴルドウルフ殿は、『大陸間鉄道』のルートを、このように変更せよとおっしゃっているのか……!?」
ゴルドウルフが勇者となった以上、鉄道のルートに小国を含めたいと思うのはもっともな話である。
なぜならば各小国はスラムドッグマートの天下であり、鉄道があればそれを足掛かりにしてさらに商売の輪を広げられるからだ。
ビッツラビッツにとってそれは、ありえない話であった。
なぜならば小国どもは、『エヴァンタイユ同盟』を一方的に破棄したのだ。
その非を各国の女王たちが認めてひれ伏すまでは、徹底抗戦する構えでいた。
ビッツラビッツは考えを巡らせる。
「はっ……!? まさかこのエヴァンタイユ諸国では『ゴージャスマート』ではなく……。
すべての冒険者の店が、『スラムドッグマート』となるのか……!?」
頭の中で、架空の論理がさも現実のように実を結んでいく。
王はすぐさま手紙をしまうと、大臣たちを呼び戻した。
「皆の者! 今すぐこの国の『ゴージャスマート』の状況を調べて報告するのだ!
余の目に狂いがなければ、きっと閉店ラッシュになっておるに違いない!
その跡地はきっと、すべて『スラムドッグマート』になるはずだ!」
ビッツラビッツの読みはビンゴであった。
王室情報部の調査によると、この国のゴージャスマートはすでに半数以上が閉店ずみで、残った店舗も時間の問題だという。
ビッツラビッツは確信した。
「そうか、そういうことか……!
勇者上層部ではすでに、そういう話ができあがっているのだ!
あとはこの余に法律の改正を迫り、『スラムドッグマート』を小国から上陸させようというのか……!」
ビッツラビッツは『スラムドッグマート』を上陸させないように、ありとあらゆる妨害手段を講じてきた。
それもなにもかも、勇者たちへの忖度である。
しかし『スラムドッグマート』がこの国における『勇者の店』となるのであれば、もちろん話は別。
汚い野良犬も、ドッグショーのグランプリ犬のごとく……!
……ウエルカム、ウエルカム、ウエルカムっ……!
「ゴルドウルフ殿は、きっと勇者の上層部で決定した極秘情報を、この余だけに流してくれたのであろう!
従来の『大陸間鉄道』のルートでは、勇者上層部は満足しないということを、教えてくれているのだ!
この手紙は、余と特別な信頼関係を築きたいという、ゴルドウルフ殿からの贈り物であったのだ……!」
ビッツラビッツは、書斎机をダンと叩いて立ちあがる。
「よし! 余の一存において、『大国間鉄道』のルート変更を行なう!
来週の正式発表に間に合わせるように、いまから……!」
しかし不意に、彼の脳内に警報のような声が響き渡る。
……ちょっと待て……!
これは、罠ではないのか……!?
そう……! ビッツラビッツの特殊能力である、『危機察知』……!
その予感が、頭をもたげたのだ……!
これにてこのお話は、本年最後の更新となります。
新年の更新は、2021年の1月6日(水)の予定です。
今年一年、オッサンにお付き合いくださり誠にありがとうございました。
来年もがんばって書いてまいりますので、引き読んでいただけると嬉しいです。
それでは皆様、よいお年を!





