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95 ローンウルフ4-34

 『ジャイアント・ゴージャスマート』の建設は、夜を徹した急ピッチで進められていく。

 なにせ今のままでは、『ゴージャスマート』のシェアは穴の開いた桶のようにどんどん出ていくばかりだったからだ。


 しかしこの巨人ができあがれば、事態は一変するだろう。

 なぜならば、この店舗はいわば『ダム』に相当する。


 桶などというちっぽけなものとは比べものにならない規模で、水漏れなどありえないほどの、絶対巨人……!

 まさに、『ゴージャスマート』の救世主と呼べるものであった……!


 そして救世主は、1ヶ月もかからずにこの地に降臨した。

 そうなると手抜き工事が懸念されたが、その点は『石橋たたきのノータッチ』がいるので心配はない。


 数多くの店舗を手がけてきた彼にとって、これほどまでの巨大店舗は初めてのこと。

 この店を自分の仕事の集大成、そして100年後にも残る自分の記念碑とすべく、しっかりとした施工を施した。


 内装のレイアウトは『のらいぬや』からパクったものそのままであったが、デザインと外装はオリジナルで、贅を尽した作りにした。


 そう、勇者たちはまたしても利益率の高い『高級路線』を狙いにいったのだ。


 しかしこの判断も間違いではなかった。

 なにせ立地的には王都の一等地であり、例えるなら『銀座』に相当する場所である。


 まわりには金があまってしょうがないセレブたちが、うようよいるのだ。

 生け簀に泳ぐ、魚のように……!


 そんな所に店を建てたが最後、大漁は約束されたようなものだった。

 周囲にはゴージャスマートどころか、個人商店の影すらもない場所なので、なおさら……。


 獲り放題、食べ放題っ……!


 そう、今回ばかりは誰がどう見ても、非の打ち所がなかった。

 大半が『のらいぬや』のパクリなのだから、当然といえば当然である。


 しかし、もはや敗北の許されぬ副部長コンビは、手放しでは喜ばなかった。

 彼らはこのプロジェクトの成功率を100%から120%に引き上げるために、ある試みを行なった。


 それは『プレオープン』……!


 まずはごくごく一部の客を招待するだけにとどめた、内々だけの開店を行なったのだ。


 最初から大々的に開店して多くの客を呼ぶのもよいが、なにか失敗があったら大変なことになってしまう。

 たとえば、以前の店舗の直射日光などの想定外の要素である。


 これだけの大規模店になると、失敗のダメージは計り知れない。

 この期に及んでしでかしてしまったら、この国のゴージャスマートは終わりといっても過言ではない。


 だからこそほんの些細なミスも洗い出すために、客を限定したのだ。

 これなら被害は最小限に抑えられるし、アフターフォローも難しくはない。


 副部長コンビは『ジャイアント・ゴージャスマート』の近くにホテルを借り、そこから毎日通って自らが現地で客の様子を観察した。

 そして見つけ出したエラーを改善し、さらにテストを重ねる。


 そうやってサービスを高めていくうちに、『ジャイアント・ゴージャスマート』は、この世界でもトップクラスの冒険者の店へと昇華していった……!


 もはや『のらいぬや』など、踏み潰して通るだけの、ノミ同然に……!


 満を持した副部長コンビは、ついに『グランドオープン』を決行する。

 当日は大々的に開店記念パーティを行なうため、国王をはじめとする、この国のトップセレブリティを招待したのだ。


 嗚呼(ああ)……。

 彼らに最初から、これだけの用意周到さと勤勉ささえあれば……。


 『のらいぬや』にこれほどまでやり込められることも、なかったのかもしれないのに……。


 ……などと思ってしまった人は、野良犬に骨までしゃぶられるタイプであろう。


 このプロジェクトはもはや、針の穴で突いたほどの小さな穴すらない、完璧なるものであった。

 しかし、例のノートを紐解いて開いてみると……。



 デスまぎわノート

  ステンテッド

  ボンクラーノ

  シュル・ボンコス

  グッドバッド

  フォンティーヌ


  New:バンクラプシー

  New:ノータッチ

  New:ビッツラビッツ



 なんと、副部長コンビふたりの名と、この国の国王の名が……!?


 なぜ……!?

 いったいどうして……!?


 なにをどうすれば、ここから国王をも巻き込むほどの、大事件に発展するのか……!?


 それではさっそく、『ジャイアント・ゴージャスマート』の開店の様子を見てみようではないか。

 開店パーティは、広々とした屋上で行なわれていた。


 最初に登壇したのは、やっぱり例の副部長コンビである。


『今日は「ジャイアント・ゴージャスマート」にお越しいただき、ありがとうございます。

 この店舗は我らがゴッドスマイル様の偉業を示すための一片となるべく建てられたものです』


『そして今、この国で悪さをしているヤツらを潰すためにね!

 うっひゃっひゃっひゃっひゃっ!』


『そうです、この店は「勇者の怒り」の現れといっていいでしょう。

 この巨人ような店は皆様の正義の力を借りて動き、悪を踏み潰します。

 今この国を騒がせている、「野良犬」という名の、絶対悪を……!』



 ……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!



『皆様、お聞きください。この店も呼応しております。

 この国にはびこる悪に嘆き悲しみ、怒っているのです……!』


 それは開店パーティに仕込まれた、ちょっとしたドッキリのようなものであった。

 少しの地鳴りの音をたて、参加者をちょっとドキドキさせるというものであったのだが……。


 地鳴りはいつまで経っても止むことはなく、それどころか、あたりが揺れ始めたのだ。

 参加者たちはパニックに陥る


「なっ……!? ゆ、揺れてるっ!?」


「じ、地震よっ!? 地震だわっ!?」


「こ、これは、どういうことなんだっ!?」


『皆様、落ち着いてください。

 ちょっとしたサプライズのつもりだったのですが、本当の地震が来てしまったようです。

 でもご安心ください、この建物は最新式の耐震魔法がかけられています。

 どんな地震が来ても、決して倒れることはありません』


 そう、この建物は震度8クラスの地震が来ても、大地の精霊に働きかけることにより揺れを最小限に食い止めることができるようになっている。

 たとえ地球滅亡規模の地震が訪れても、この建物だけは残るのだ。


 しかしそれは、地震の揺れに対してだけである。

 それ以外の災害、火事や雷などには無力だったりする。


 もちろん最新の消火設備が備えられているので、火事になっても大丈夫なのだが……。

 そうであったとしても、どうにもなないことが、ひとつだけあった。


 そう、それは……。


 地盤沈下っ……!


 ……ズッ……!

 ズズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーンッ!!


 轟音とともに、巨人が地に飲み込まれていく。

 その巨人の頭に乗っていた、人間たち、もろとも……!


「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?!?」


 『ジャイアント・ゴージャスマート』は、多くの悲鳴とともに、爆破解体されるビルのように沈み込んでいった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 皮肉がきいてる文章、これからの展開を暗示しているところ。 「巨大店舗は初めてのこと。この店を自分の仕事の集大成、そして100年後にも残る自分の記念碑」 [一言] 勇者(バカ)の勤勉、自滅…
[一言] 三○百貨店やバベルの塔みたく上から崩壊するかと思いましたが、ニ○の斜塔やロー○ス・リバーサイドみたく地盤から崩壊しましたか。 高層建築物を建てる時は地盤が大事ですよね。
[良い点] ジャイアンマート 一話で崩壊しましたか!(大喜) 一気に終わって良かったです!(ニヤリ) そして国王もデスまぎわとなりましたか!(ニヤリ) [気になる点] 国王 ジャイアンマートにいたので…
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