94 ローンウルフ4-33
セブンルクスの新聞に取り上げられたことで、『のらいぬや』は急速に契約店を増やし、次々とナワバリを拡大。
ついには全国区となる有名企業となった。
そして同時にシェアも拡大。
ゴージャスマート40 : 個人商店連合60
ついには一強企業であった、勇者の店を追い抜くほどに……!
ちなみにではあるが、国内の店舗数ではいまだに『ゴージャスマート』のほうが多い。
同店は野良犬たちにシェアを奪われて不採算店が続出していたのだが、1店たりとも潰さなかったから。
新装開店してからマイナスしか出していない店舗であっても、例外ではない。
もちろんこれは例の副部長コンビの判断によるものである。
『潰し屋』の勇者が、潰されるなどもってのほか……!
店舗を閉鎖しなければ、潰されたことにはならない……!
『絶対成功』の勇者には、失敗などもってのほか……!
手がけた新規店舗を潰さなければ、失敗したことにはならない……!
そう、ふたりの勇者のつまらない意地とプライドが、『ゴージャスマート』をさらなる苦境へと導いていたのだ……!
彼らは、客のいない店のなかで呆然と佇む店員たちのストレスも、売上低下で罪をなすりつけあっている中間管理職の苦労もそっちのけであった。
彼らが見るのは、野っ原を我が物顔で駆け回る、野良犬のみ……!
その視線は、近隣住民からは『地域犬』として歓迎されているにもかかわらず……。
なんとしても殺処分をもくろむ者たちのようであった……!
彼らは網を片手に、野良犬に幾度となく挑んでいったが、結果はいつも同じであった。
自分の網に絡まれ、もがき苦しむところを、野良犬にシシシと笑われるばかり。
しかし彼らも、そう同じパターンでやられっぱなしというわけにはいかない。
ある日のこと、ゴージャスマートの副部長室で、バンクラプシーがある図面をノータッチに見せていた。
「これは……新しい店舗の図面のようですね。
しかも10階建てで、売り場面積もとんでもない……。
この国で最大の『コロシアム店』以上ではないですか。
こんな図面をどこで?」
「うっひゃっひゃっひゃっひゃっ!
よくぞ聞いてくれました! それは贔屓にしている建築屋から送られてきたもんなんだよねぇ!」
「建築屋?」
「そう! 『潰し屋』ってのはなにも、できた店を潰すだけじゃないんだよねぇ。
場合によっちゃ、できる前に潰しておいたほうが楽なときもあるってわけ!」
「店舗の賃貸や買い取りは不動産屋でカバーできますけど、土地から買って新しい店を建てる場合は不動産屋はノータッチですからね。
でも、個人商店でこれだけの巨大店舗を出すだなんて、もしかして……」
「そう! 『のらいぬや』だよ!
そいつは『のらいぬや』が建築屋に依頼した図面なんだよ!
こうやって、俺ん所に横流しにされるとも知らずにね、うっひゃっひゃっひゃっひゃっ!」
「まさかバンクラプシーさんは、『のらいぬや』が手がける新規開店を、そのまま横取りしようと……?」
「相変わらずノータッチちゃんは察しがいいねぇ!
その店が建つのは王都の一等地にある空き地なんだけど、いままでずっとガンコだったオーナーが子供の遊び場にしたいからって、ずっと売らなかったんだって!
しかし最近そのオーナーが死んで、跡継ぎが売ろうとしてたところを、『のらいぬや』が真っ先に飛びついたみたいだねぇ!
でもざーんねん! 跡継ぎのオーナーとはもう話をつけてあるよ!
『のらいぬや』の契約店舗には売らずに、コッチに回して、ってね!」
「なるほど……。のらいぬやが見つけてきた土地を横取りし、しかものらいぬやの考えた店舗設計をすべて横取りすれば……」
「大成功間違いなしってワケ! うっひゃっひゃっひゃっひゃっ!」
これを例えるならば、ギャンブルの神がカジノに現れたとしよう。
神はルーレット台に立ち、100発100中の予想的中をしていたとしよう。
その神が、最後の大勝負とばかりに、すべてのチップを掛けた途端……。
それをカジノのオーナーと組んで、チップごと、そのまま横取りする行為に等しい。
絶対に外れることはなく、大儲けは確実のギャンブル……!
まさに、神をも怖れぬ行為……!
自分では思いも付かない大胆なアイデアに、ノータッチは感嘆の溜息を漏らす。
「うーん、この立地であれば、もうデータを検証する必要もないほどの一等地です。
しかも設計も申し分ない……! まさに、大成功が約束されたような、最高の店舗です……!」
「そうでしょうそうでしょう、うっひゃっひゃっひゃっひゃっ!」
彼らはすでに、成功を手にしたように笑いあっていた。
横取りをすることについての呵責など、もはや微塵もない。
それだけ、『のらいぬや』の凄さを認めている証拠でもあるのだが……。
それにしても、プライドなさすぎっ……!
それから副部長コンビは、既存店の不採算などそっちのけで、新しいビッグ・プロジェクトに着手する。
その名も『ジャイアント・ゴージャスマート』……!
セブンルクスにおいてはそれまで最大店舗であった『コロシアム店』を凌駕するため、この名が与えられた。
しかしこれだけの大きな話となると、さすがに副部長だけの判断で進めるわけにはいかなくなる。
となるとボンクラーノに話をするのが筋なのだが、ボンクラーノは「オッサン……」と恋煩いにかかった様子で、まるで話にならなかった。
いちおう筋は通したのだが、念のために副部長コンビはブタフトッタにも報告した。
しかしブタフトッタはブタフトッタで「パイたん……」と話にならなかった。
いずれにせよゴーサインが出たということで、ついに副部長コンビは本格的に動き出す。
『のらいぬや』に対し、野良犬の威を借りた勇者たちの大反撃が、今ここに始まったのだ……!





