88 ローンウルフ4-27
ローンウルフはこの国に入り込んだ時は、剣闘士奴隷という立場だった。
その時にコロシアムで活躍したのがきっかけで、多くの剣闘士たちと仲良くなっていた。
その剣闘士たちを今回、店員のアルバイトとして雇ったのだ。
この国にいるチンピラというのは、例外なくコロシアムに足しげく通っている。
剣闘士たちの死闘に血湧き肉躍らせ、なけなしの金を賭けて熱狂しているのだ。
いまこのあたりを騒がせているチンピラたちも例外ではない。
彼らにとっては剣闘士というのは、昭和の子供のプロ野球選手に近い存在である。
そんな憧れの者たちにかかっては、ホンモノニセモノ問わず、悪さなどできるはずもない。
そして剣闘士というのはチンピラに負けず劣らずのコワモテ揃いで、ワイルドな者たちばかり。
ハイソな空間でアルバイトするには、似つかわしくない存在だったのだが……。
ローンウルフは彼らを雇用するにあたって、徹底的に店員として礼儀作法を叩き込んだ。
おかげで、そのへんにいるチンピラとはまた違った、荒削りながらも品というのを獲得するようになる。
そんな人物が、チンピラに絡まれているところを助けに来てくれたら、女性たちはどう思うだろうか?
「お嬢ちゃん、俺たちと付き合えよ!」
「いやあっ!? だ……誰か、助けてぇぇぇーーーっ!」
「待て!」
「ああっ、アンタは『ニットキャップ』!? 暴れ猫と呼ばれたアンタが、どうしてここに!?」
「ちょっとこのあたりでアルバイトをしていてな! さぁ、その子の手を離すんだ!」
「わ、悪かった! もうしない! お……お助けぇぇぇーーーっ!」
「大丈夫ですか、お嬢さん」
「かっ……かっこいい……! じゃなかった、ありがとうございます!
ニットキャップ様とおっしゃるんですね!? どこで働いてらっしゃるんですか!?」
「普段は剣闘士として、コロシアムで戦っています」
「ど……どうりで! たくましいお身体をしているわけですね!」
「でも今はアルバイト中でして、この近くの冒険者の店で働いています。
お嬢さんは魔導女さんですよね? もしよかったらお買い物に来てください」
「い……行きますっ! いますぐ行きますっ!」
剣闘士軍団はローンウルフの指示で、周辺のパトロールを行なっていた。
ゴキブリへの効き目は抜群で、まるで猫が来たアパート状態。
『のらいぬや』の店の周辺だけは、一気に治安が元通りとなった。
ここでローンウルフは、店の表にこんな張り紙を出す。
『当店は、防犯を第一に心がけております
お困りのことがあれば、いつでも駆け込んでください』
この世界にはまだ例のない、『防犯モデル店』を標榜したのだ……!
『防犯モデル店』というのは、地域の防犯にひと役買っている店のことを指す。
たとえば現代であれば、コンビニエンスストアなどがいい例だろう。
コンビニにはコンビニ強盗だったり、ガラの悪い者たちが夜遅くにたむろするというデメリットもある。
しかし夜遅くに帰る女性にとっては、いざという時の駆込み寺としても作用しているのだ。
そして実をいうと、この街の治安が一気に悪化したことで、地域の有力者たちは頭を痛めていた。
衛兵局に働きかけてパトロールを強化してもらっても、現場の人間が抱き込まれているので効果が上がっていなかったのだ。
そんな時に、『防犯モデル店』なるものが彗星のごとく現れたら、どうだろうか?
しかもその彗星は見た目だけでなく、しっかりと邪悪なるものを払ってくれて、効果が絶大だったとしたら……!?
地域の有力者たちはこぞって、『のらいぬや』の店の支持を表明した。
特に年頃の娘を持つような者たちは、実際にその効果のほどを体感していたため、特に熱心に。
「あの店こそ、この地区の救世主となる店だ!」
「ええ! うちの娘なんて、なんどあの店の店員さんに助けられたことか!」
「私も、チンピラに絡まれたときにあの店に駆け込んだことがあるの!
そしたら店員さんが家まで送ってくれたのよ! 私は客じゃなかったのに!」
「ぜひ、魔導女学園と、聖女学園の指定店として推薦しましょう!」
もちろんゴージャスマートの息のかかった権力者たちは反対した。
「それはいけません! 指定店は近隣のゴージャスマートと決まっているでしょう!」
「ええ、それはそうなのですが、ゴージャスマートのある区画の治安は最悪なんです!
あんなところに、将来のある若者たちを行かせて、なにかあったらあなた、責任を取れるんでせすか!?」
「ゴージャスマートさんが治安向上の努力をしてくれた、再び指定店に戻すことはありえます!
でも今は、とてもとても……!」
「ううっ……!」
ぐうの音も出ない正論に、反対派の意見は完全に封じ込められてしまった。
さすがに女学生たちを危険な目に遭わせてまで、ゴージャスマートを利用させろなどとは言えるわけがない。
そしてこの問題は当然のようにゴージャスマートを蝕むこととなる。
『のらいぬや』の店のまわりに配したチンピラたちが追い払われるのはまだいい。
ニセモノのチンピラたちは、ゴージャスマートに害を及ぼすことはないからだ。
しかしどこからともなくやってきた、ホンモノのチンピラたちは違う。
追い払われた彼らは、今度はゴージャスマートのまわりで、好き勝手に暴れはじめる……!
バンクラプシーの仕掛けた作戦は、完全に裏目に出てしまっていた。
これは、隣の住人に向けて送り出したゴキブリたちが、倍になって戻ってくるようなものである。
予想外のカウンターに、バンクラプシーも引きつった笑いを漏らすしなかった。
「うっ……うっひゃっひゃっひゃっひゃっ!
まさか自分の仕掛けたゴキブリに悩まされるだなんて、思いもしなかったなぁ!」
「のんきに笑っている場合ですか。
地域の権力者たちは治安の改善を要請してきているのでしょう?
そのゴキブリをさっさと引っ込めたらどうですか?」
「それはとっくの昔にやったよ! 俺が雇ったゴキブリはもうとっくの昔にハケさせたよ!
でも俺が雇ってないゴキブリたちが、まだうじゃうじゃいるんだよねぇ!」
「養殖でなく天然のゴキブリなら、衛兵に命じて駆除してしまえばいいではないですか」
「いやぁ、それじゃあ『のらいぬや』のカウンターにやられっぱなしってことじゃない?
だって向こうは自力でゴキブリをなんとかしたのに、こっちは衛兵に頼るだなんて……」
「たしかに、受けるイメージとしては『のらいぬや』に遠く及ばないでしょうね
でも、なにか手があるのですか?」
「うっひゃっひゃっひゃっひゃっ! ノータッチちゃん、大事なこと忘れてない?
俺たちが何者かってのを……!」
そう……!
俺たちは、『勇者』だよ……!?
新連載、開始しました!
勇者パーティの荷物持ち 実は武器耐久力無限、重量無限、スタミナ無限、明かり無限…壺を壊しても怒られない最強スキルの持ち主でした。彼を失った勇者パーティはただの烏合の衆に
このお話がお好きな方であれば絶対に楽しんでいただけますので、ぜひ読んでみてください!
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