17 チャラ男勇者、また降格…! 3
暴力の嵐が吹き荒れた、次の日の朝。
アントレアの空は、重苦しい曇天で蓋をされたようになっていた。
小雨降りしきる大通り。
こんな日は買い物客もまばらなのだが、『ゴージャスマート1号店』の前は、朝早くから人だかりで騒然となっている。
お城のような店の前には、野外舞台のようなエントランス。
身分のある者のみが登壇することを許された、庶民にとっては憧れのステージだったのだが……今は処刑台のように、近づく者はいない。
中央には、干し柿のような逆さ吊りの男がぶら下がっており……。
まるでさらし首のように、雨風に晒されていたからだ……!
池のように波紋広がる大理石は、いつもの純白ではなく……錆びたような赤茶色。
踏み荒らすような足跡と、車輪の跡が店の裏手へと続いていた。
主だった見物人は、ダイヤモンドリッチネルと約束を交わした戦勇者たち。
それと、この店を贔屓にしていた貴族や上級職の者たち。
戦勇者たちは朝一番に店に乗り込んで、いい装備をバーゲン会場のごとくかっさらうつもりでいたのだ。
では、貴族や上級職の者たちは、なぜこんな早朝に店を訪れたのだろうか?
それは……昨日開催された『ゴージャスマート杯 小学生対抗剣術大会 ルタンベスタ代表選抜』に端を発する。
多くの参加校の中から、優勝を手にしたのは『スラムドッグマート with ナイツ・オブ・ザ・ラウンドセブン』。
彼らの試合は波乱ばかりであったが、その万丈っぷりは閉会式にも及んでいた。
優勝賞品として与えられた、『ゴージャスマート1号店』特製の剣。
それをキャプテンである少女が、受け取るなり己のロングナイフと打ちあわせ、へし折ってしまったのだ……!
そして開口一番、
「『ゴージャスマート』の剣はインチキよ! 勇者にはいい剣を渡すクセに、貴族とかにはすぐ折れる剣を渡すの! なぜだかわかる!? 実戦で使わないようなヤツらには、見た目はおんなじだけど、粗悪な素材で作った剣を渡してるからのなの! そうやって利幅をさらにあげて、商売してるアコギな連中なのよっ!」
内容はゴルドウルフからの受け売りだったのだが、これは一大スキャンダル……!
それを大勢の観客の前で、しかも記者たちが注目するなかで、ぶちまけたのだ……!
そんな時、真っ先に火消しをしなくてはならないコミッショナーは、ふたりとも不在……!
そこで口封じができていれば、最大最悪の事態は避けられていたかもしれないのに……!
止める者のいない少女は、さらに暴走。
手近にいた貴族の、腰から下げていた剣を奪うようにして抜き、脆弱性を証明してみせたのだ……!
少女の告発を狂言だと笑い捨てていた、2階客席の貴族たちもこれには唖然。
もはや聞き捨てならぬと、めいめいで剣を打ち合わせてしまったせいで……!
ウエハースのように折れる剣、続出……!
クレーマー量産に至ったのだ……!
そして朝早くから『ゴージャスマート1号店』に押し寄せた貴族たちは、さらなる驚愕を目の当たりにする。
そう……!
凄惨なる、処刑の残骸を……!
最初は、ホームレスの老人が、ホームレスの若者によってリンチにあったものだと思われていた。
が、被害者が病院に運ばれ、身元がわかった途端、一大ニュースとして報じられる。
『調勇者ダイヤモンドリッチネル、栄光の地で、変わり果てた姿に……!』
そしてこの事件が、トドメとなった。
相手を選んでインチキ商品を売りつけていた、高級店……!
しかもその店を作り上げた人物は、軒先にて吊し上げ……!
……常識的に考えて、そんな悪魔が取り憑いたような店に、誰が近づくだろうか?
逆に、件の小学生チームが背負っていた看板は、一大センセーショナルとして取り上げられ、街を席巻していた。
彼らの装備は、どこで揃えられたものなのか……!?
もちろん、『スラムドッグマート』……!!
それはすぐに、上級職や貴族の間でも合言葉となっていった。
そう……!
ゴルドウルフの店は一般の冒険者の支持だけでなく、ついには高級志向の客層までゲットしたのだ……!
これは彼にとって、3種の神器のふたつ目である、『剣』となった……!
最初の神器の剣とあわせて、二刀流……!
そうなると、必然……!
薙ぎ払われる、勇者の店たち……!
あれほどの栄華を誇っていた『ゴージャスマート』は、ついにはアントレアの街から撤退を与儀なくさせられてしまったのだ……!
そして『スラムドッグマート』は、このアントレアの街で圧倒的シェアを誇るチェーン店として不動の地位を確立した。
まさにオッサンの、完・全・勝・利……!
勇者たちの牙城を、ほんの一角ではあるものの、ついに崩すに至った……!
栄枯盛衰……!
驕れる者も久しからずや……!
ついに神様は死に、悪魔は去ったのだ……!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その後、かつての店長たちは変死体となって発見された。
持ち去った武器を金に変えようとしてトラブルになり、殺されてしまったというのが衛兵たちの捜査の見解だ。
ダイヤモンドリッチネルは一命をとりとめたものの、気づいた時には全責任を負わされた後だった。
勇者上層部より下された裁きは、異例の二階級特退。
先の降格からあわせると、一気に三段階の降格……!
アイスクリームのような、不幸の三段重ね……!
これは勇者一族にとっても特例中の特例となったが、街ひとつのシェアを失ったことは重罪とみなされ、一気に追放処分となった。
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●御神級(会長)
ゴッドスマイル
●準神級(社長)
●熾天級(副社長)
キティーガイサー
●智天級(大国本部長)
●座天級(大国副部長)
●主天級(小国部長)
●力天級(小国副部長)
●能天級(方面部長)
●権天級(支部長)
ゴルドウルフ
ミッドナイトシャッフラー
●大天級(店長)
●小天級(役職なし)
○堕天
↓降格:ダイヤモンドリッチネル
クリムゾンティーガー
名もなき調勇者 7名
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ゴルドウルフ……チャラ男勇者を、影縫&成敗……!
しかし……心身ともにボケ老人のようになってしまい、自慢の青髪も真っ白になってしまった当人は、己の立場に気づいていない。
今もなお、裏路地のゴミ溜めで壊れたラジオのように「キャハッ! キャハッ! キャハハハハッ!」と笑っているという。
煽り虫様よりレビューを頂きました! ありがとうございます!
今回でひとまず『剣術大会編』は終わりとなります(あくまでひとまず、です)。
次回からは新展開です(新章ではないです)。微妙に消化不良な人物がいるので、次はそちらにまいりたいと思います。
ちょうどいい区切りなので、感想または評価をいただけると嬉しいです。そうすれば新展開にも弾みがつきます!