81 ローンウルフ4-20
鳴り物入りで出店したものの早々と失速、高級路線への転身も見事に失敗してしまった『アリンコマート』。
店舗の冷房代と高級装備が直射日光でボロボロになったことにより、同グループはさらにシェアを落としてしまった。
ゴージャスマート60 : 個人商店連合40
これはもはや、『シャレにならない数字』をとっくの昔に通り越している。
なにせ『ゴージャスマート』といえば、世界に名だたる超一流グループ。
肩を並べる企業はおろか、その他はすべて足元に這うアリンコ同然という、この世界のガリバーである。
しかしそのガリバーがいま、窮地に追いつめられようとしていた。
集まってもしょせんはアリンコの群れと馬鹿にしていた個人商店よって。
これはまさに、巨人殺し……!
しかも巨人は2体もいるというのに、崩落寸前であったのだ……!
バンクラプシーとノータッチという名の巨人たちは焦った。
いくら必勝の最後の手段があるとはいえ、この事実が勇者上層部にバレたら、タダではすまないからだ。
しかしこの事実は、すぐに明るみに出ることはない。
なぜならば、セブンルクス王国の『ゴージャスマート』に関するトップが事実上、バンクラプシーとノータッチの副部長コンビであったから。
本来であるならば彼らの上司である、例のボンクラ坊ちゃんがトップなのだが……。
ボンクラーノはエヴァンタイユ諸国の統括であるが、セブンルクス王国には最初から興味を示していなかった。
理由は単純で、『自分が手を下すまでもない』と思っていたから。
セブンルクス王国は『勇者の国』と呼ばれているだけあって、勇者の店のなかでは世界的に見ても安定した収支を誇っている。
やることといえば決まりきった内容の書類にハンコを押すだけなので、副部長たちに一任してしまった。
それよりも彼はハールバリーを占領し、他の小国へと侵攻してくる野良犬を相手に『お店やさんごっこ』をするのに夢中だったのだ。
「野良犬をやり込めれば、パパから褒めてもらえるボン!」とばかりに。
その結果は、もはや言うまでもないだろう。
そしてボンクラーノはこのとおりボンクラだったので、今のセブンルクスの惨状に気付いていなくてもおかしくはないのだが……。
さらに最悪なことに、彼の懐刀であるシュル・ボンコスですら、このことには気付いていなかったのだ……!
その理由はふたつあった。
まず、シュル・ボンコス自身の慢心。
彼はずっと野良犬の動向には目を光らせているつもりでいる。
もし野良犬がセブンルクスに紛れ込むようなことがあれば、その時はボンクラーノに報せ、セブンルクスの指揮権を得るつもりでいた。
しかし、彼はいまだに気付いていない……!
野良犬は野良猫のように神出鬼没であることに……!
それも無理もないことである。
まさか小国の攻防をめぐってつばぜり合いを繰り広げている大将が、同時に忍者のように天守閣に忍び込んでいるなど思いもしなかったのだ。
そしてもうひとつは、副部長たちがシュル・ボンコスを毛嫌いしていたこと。
勇者の中には彼のキレ者っぷりを快く思わない者がいる。
バンクラプシーとノータッチがまさにそれであった。
シュル・ボンコスは定期的にセブンルクスの動向をチェックしようとしていたのだが、副部長コンビがそれを拒んでいたのだ。
「うっひゃっひゃっひゃっひゃっ!
俺たちはボンクラーノ様の部下であって、お前さんの部下じゃないんだよねぇ!
だから報告書は見せられないなぁ!」
「ボンクラーノ様からの直接のご命令がない限り、私たちはノータッチです。
いくら代理人とはいえ、勇者ではない尖兵風情に従うつもりはありませんから」
そう……!
彼らは仲間うちで情報封鎖をしていたのだ……!
しかし実をいうと、シュル・ボンコスは今回のシェア低下の情報を、すでに掴んでいた。
それが野良犬のせいであるとは知らなかったが、ともかく知りながら放置していた。
なぜかというと、自分に非協力的であった副部長ふたりの放逐のためである。
セブンルクスが副部長コンビに任されるようになったのは、そもそもブタフトッタの指示からであった。
そのため、セブンルクスの売上が下落しようとも、シュル・ボンコスに責任のお鉢が回ってくることもない。
副部長コンビがシュル・ボンコスへの協力を渋ったという事実も証拠として押えている。
この副部長コンビを追い出せれば、まだ自分に協力的な勇者を据えられると思っていたのだ。
そしてさらに言うと、もはやボンクラーノへの忠誠も薄らいでいる。
今まさに交戦中のキリーランド小国の商戦では対面的にも全力を出すつもりでいるが、そもそも主ですら気付いていない本陣の火事など、わざわざ報告する義務もないと思っていたのだ。
もしここからセブンルクスを野良犬から守る手があるとすれば、たったひとつしかない。
シュル・ボンコスとフォンティーヌというふたりの有能な武将を、キリーランドからセブンルクスへと転戦させ……。
一騎当千の力をもって、個人商店を撃破するっ……!
武将たちの相手はいままで『スラムドッグマート』という、ある程度の規模をもった、いわゆる『軍隊』であった。
しかしセブンルクスにおける同店は、個人商店という名のゲリラたちを蜂起させている裏方に過ぎない。
もしグループ規模の本格的な商戦になってしまったら、個人商店に勝ち目はないだろう。
なぜならば『のらいぬや』はアドバイザー的立場でしかなく、またバックアップするにしても資本も人員も限られているからだ。
しかしその、野良犬に勝つための最終手段に気付いている者は誰もいなかった。
ひとりの、オッサンを除いて……!
勇者とそのまわりの者たちは、自分の首を守るためだけに必死であった。
それこそが野良犬の狙いで、肉球の上で右往左往させられているとも知らず。
勇者たちはしっぽで首を絞められるように、じわじわと追いつめられていたのだ……!





