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78 ローンウルフ4-17

 今日もエプロン姿で接客しているオッサンに、オーナーと店主は同時に詰め寄った。


「ローンウルフさん、いったいどんな魔法を使ったんですか!?」


「あ、わかったぞ! きっと『ゴージャスマート』とうちの店の入り口の時空を歪めて、入れ替えたんだろう!?

 でなければ、こんなに客が来るわけがない!」


「そんなことはしていません」


 オッサンは苦笑しながら、「ちょっと、外に出てみましょうか」とふたりを外に誘う。

 外は快晴で、表の大通りにはまぶしいほどの日差しが降り注いでいた。


「今日は日差しが強いですね」


「そうですねぇ、こうしてると、汗ばむくらい……ってローンウルフさん、もったい付けないで教えてくださいよ!」


「そうだ! 天気の話なんかで誤魔化そうったって、そうはいかんぞ!」


「それが重要なのです。なぜならば今回のことは、天気が関係しているのですから」


「えっ」


 オッサンは「見てください」と太陽を指さす。

 さんさんと降り注ぐ光の脚をなぞるように指をおろし、通りを挟んだ対面にあるゴージャスマートを示した。


「このセブンルクス王国は北半球に位置しています。

 北半球では太陽が南側を移動しますから、陽光は南から北に降り注ぎます。

 そのため、大通りの北側にある建物というのは、直射日光を受けることになるんです。


 オッサンの口から飛び出したのは、この惑星(ほし)規模の話であった。

 オーナーと店主は、思わず唖然としてしまう。


「いま『ゴージャスマート』にいる、お客さんの反応を見てみてください」


 ふたりは呆気に取られたまま、向かいのゴージャスマートに視線を移した。

 そして、ハッとなる。


 なんと、店内の客たちはみな眩しそうにしていて、商品を選ぶのもそこそこに、店を出ていた。

 そして、彼らはみな大通りを渡り……。


 そのまま、こちらの店へ……!


「な、なんと……! 普段は有り難いと思っていた、お天道様が……!」


「こんな形でお客さんのストレスになっているだなんて、思いもしませんでした……!」


「陽光というのは有り難い恵みですが、商売の上ではデメリットでもあるのです」


「な、なるほど……! しかし、これはすぐに改善されてしまうのでは!?」


「ええ。おそらく相手も気付いて、改善をしてくるでしょう。

 しかしその改善が実行されるには、しばらくかかると思いますが」


「えっ? もしかしてローンウルフさんは、その改善をも見越したうえで……?」


「ええ。相手がその改善をしたときに、相手はさらにこちらの思うツボになります」


 オーナーはさっきまで汗ばむくらいだと言っていたのに、今は背筋に寒いものを感じていた。


 このオッサンは、いったい何手先まで読んでいるのだろうと……!



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 時を同じくして、ゴージャスマートの本部。

 いつもと立場が逆転し、ノータッチが吊し上げをくらっていた。


「ちょっとちょっとちょっとぉ! ノータッチちゃん、これ、どういうことなのさぁ!?

 ノータッチちゃんが絶対だっていう新規店舗、セールが終わってから一気に売上が落ちてるけど!?」


「お、おかしいですね、データの上では完璧だったのに……」


「しかも向かいに個人商店が同時オープンしてたから、潰せれば一石二鳥だと思って、こっちは大損覚悟で大セールをやったんだよ!?

 それなのに、赤字が増え続ける一方だなんてさぁ!?」


「くっ……! わ、私の部下を原因究明に当たらせましょう。

 あ、あの店だけは潰すわけにはいきませんから……!」


 普段はノータッチが口癖のノータッチであったが、今回ばかりは協力せざるを得なかった。


 なぜならば、開店したばかりの店舗には運営担当だけでなく、出店担当の責任も問われるからだ。

 そしてそれ以上に、ノータッチには躍起にならざるを得ない理由があった。


 それは『出店成功率100%』という、伝説のバッターの肩書きを、死守するため……!


 彼がごく希にしか出店をしなくても今の地位でいられたのは、すべてはその肩書きがあったため。

 彼は他の出店担当の導勇者に比べても圧倒的に出店数が少なかったため、黒星が付くとかなりの打率ダウンとなる。


 だからこそ何がなんでも、この戦いだけは負けられなかったのだ……!


 ノータッチは次の新規出店をそっちのけにし、部下を総動員して不調の原因を探らせる。


 ノータッチは完全なる『データ主義』で、『現場主義』ではなかった。

 そのため新規出店の際にも、現場を確認するのは最終契約のときの一度だけ、と決めている。


 なぜならば現場を見てしまうと、正しい判断ができなくなってしまうと思っていたから。

 データを元に計算しつくし、判断はすべて机上で行なうことが、彼の必勝パターンだったのだ。


 しかし今回ばかりは正確無比であったはずの『データ主義』こそが完全に仇になってしまった。

 ノータッチの部下たちは本部内にこもりっきりで、紙のデータとにらめっこ。


 誰ひとりとして、『現場』に赴こうとはしなかった……!

 ちょっと本部を出て現地まで行き、客の反応を見ればすぐに解決する問題であるというのに……!


 しかも今回の新規店舗は『重要拠点』とみなされ、現場の改善にも副部長承認が必要とされていた。

 そのため店員たちは問題に気付いていても、どうしようもなかった。


 なにせ、直射日光が原因で客離れが進んでいると上申しても、


「いま運営担当のバンクラプシー様だけでなく、開店担当のノータッチ様も一緒になられて原因究明をされているんだ!

 お前たち現場の人間よりも、経営のプロが動いているから、余計な口出しをするんじゃない!」


 変な組織の上下関係のおかげで、現場の声は一切伝わらないという、悪循環……!


 そうしているうちに、新規店舗は悪魔の忌み子のような負債を、次々と生み出していき……。

 セブンルクスにおけるシェアを、蝕んでいったのだ……!


 ゴージャスマート70 : 個人商店連合30

やる気ゲージが尽きてしまったので、更新頻度を下げたいと思います。


次回からは週に1~2回の更新としてまいりたいと思います。

最低でも週に1回は更新したいと思いますので、これからも読んでいただけると嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 本編が再会して毎日楽しみにしていたので残念です。週2回更新だと6章がおわるのに1~2年かかりそうですね
[気になる点] やはりこうなったか… 本を買うにあたってこれが一番怖かった。 今後出す本にも期待できなそうだな… ほんとに面白い作品で周りにも自信を持って薦めていたが謝らないと。 更新されなくなるのが…
[良い点] なるほど直射日光による状態でしたか!(ニヤリ) その大欠点を大セールで大勢の客たちが知ってしまったのですね!(ニヤリ) そして改善しようにも 店員たちが理解できていても 変な組織の上下関係…
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