69 ローンウルフ4-8
創勇者バンクラプシーは、ゴージャスマートにおける『立て直し屋』であった。
ゴージャスマートの不採算店舗を渡り歩き、テコ入れをして、立て直す者のことである。
これは、かつてゴージャスマートで働いていたゴルドウルフの提案から生まれた役割のひとつ。
それまではゴルドウルフひとりで不採算店舗を巡っていたのだが、ゴージャスマートの店舗数が増えすぎて対応しきれなくなったのだ。
そのときにゴルドウルフから『立て直し術』を授かった勇者たちがいて、当時は活躍していた。
しかし、ゴッドスマイルが魔王を討伐してからというもの、彼らの出番は激減する。
なぜならば世界中の認識として、冒険者の店といえば『ゴージャスマート』になってしまったからだ。
すると『立て直し屋』たちは閑職扱いになってしまったのだが、彼らは自分の居場所を確保するため、ふたつの道を選ぶこととなる。
ひとつ目は、不採算店舗の建て直しではなく、優良店舗のアドバイザーとして寄生する道。
『自分がいるからこそ、この店の売り上げは安定しているのです!』と、取ってもいない手柄をアピールした。
そしてもうひとつは、別の調勇者に頼まれて、不採算店舗を作り出す道。
ライバル勇者の地域にある不採算店舗に赴き、『立て直し不可』のレッテルを貼るのだ。
『立て直し屋』が「あの店はもうダメです」と勇者上層部に報告すれば、その店は畳まざるをえない。
そうやってライバル勇者の汚点を作りだす、間者として暗躍していた。
いずれの道も、イバラの道ならぬクズの道であるが、バンクラプシーはさらにその上を行った。
ゴージャスマートの近隣にある個人商店を倒産に追いやることにより、自分の手柄としていたのだ。
勇者組織内で『潰し屋』とまで呼ばれるほどに名声を高めた彼は、当時行なっていたゴルドウルフ追放の手柄とあいまって、ブタフトッタのお眼鏡にかかる。
セブンルクスの大国副部長の座を与えられ、今までは悠々自適の勇者人生を送っていた。
しかし今、その眠れるハイエナが、再び目を覚ます。
そして、牙を剥いたのだ……!
一匹狼という名の、オッサンに……!
バンクラプシーはセブンルクス内の、売上が低下した地域の部長連中を召集する。
そして『立て直し』とは名ばかりの、恐るべきプランを彼らに伝えた。
『潰し屋』と呼ばれたほどの彼が、伝授したのは……。
「うっひゃっひゃっひゃっひゃっ! ここに集まってもらったみんなの店の陳列を、一律で変えてほしいんだよねぇ!
あとでマニュアルを渡すんだけどさぁ、『関連陳列』っていういんだよねぇ!」
なんと、『のらいぬや』のテコ入れの、丸パクリっ……!
バンクラプシーは馬車で視察に出かけた際、偶然に『のらいぬや』のテコ入れを目撃した。
それを後日、部下たちに調べあげさせ、『関連陳列』であるということを突き止めた。
そしてそれをさも自分が考えたかのように、大発表……!
しかしただのパクリと侮るなかれ。
同じパクリでも、『大きいところ』が真似することに意義があるのだ。
ベンチャー企業が生み出した新しいサービスを、大手がそのままパクって自分のものにする……。
これは現代のインターネット社会において、普通に行なわれていることである。
たとえどんなに先行して行なっていたサービスでも、個人商店では限界がある。
ガリバーである『ゴージャスマート』に真似されてしまえば、そもそもアピール力で凌駕され、乗っ取られてしまう……!
これが『潰し屋』のやり方であった。
バンクラプシーに集められた部長連中は、ロートルがいまさらなにをという態度であった。
しかし『関連陳列』のシステムを聞かされた途端、素晴らしさに目を見張り、手のひらを返したように賞賛をはじめる。
「な……なるほど! 商品をジャンルではなく、職業に関連づけて陳列するとは……!」
「これは、いままでにない発想ですな!」
「これならたしかに、関連商品も欲しくなります!」
「客単価を一気にあげられる、素晴らしいアイデアですな!」
バンクラプシーは内心、爆笑していた。
――うっひゃっひゃっひゃっ!
よそが出した画期的なサービスを、そのままうちに持ってくる……。
それだけでコイツらは神様みたいに拝んでくれるんだから、楽なもんだよねぇ!
こりゃ今回も、『潰し屋』の俺が本気を出す必要はなさそうだなぁ!
バンクラプシーが提唱した『関連陳列』は即日実施される。
そうなると個人商店は一気に優位性を失い、再びシェアを1パーセントに落すはずであった。
しかし、蓋を開けてみると……。
ゴージャスマート96 : 個人商店連合4
個人商店のシェアは、さらに倍に……!?
部長連中は、慌ててバンクラプシーに詰め寄った。
「バンクラプシー様っ! 大変ですっ!」
「現場では今、不思議なことが起こってるんです!」
「関連陳列を始めたとたん、関連陳列商品の売り上げが上がったんですが……」
「なぜか、発注ミスが急増してしまったんです!」
「それに、関連陳列以外の商品の売り上げが、ガクッと下がってしまったんです!」
「おかげで、現場は大パニックです!」
「これはどういうことなのですかっ!?」
奇しくも同じ頃、『のらいぬや』の事務所では、この件についての種明かしがなされていた。
「あの、ローンウルフさん、ずっと気になっていたことがあるんですけど……」
「なんですか、オーナー?」
「以前、『関連陳列』にはデメリットもあるとおっしゃってましたよね? あの時はお客様がいたので、聞けずじまいだったのが気になって……」
「ああ、そういえば途中で話を中断していましたね。
では続きをお教えしましょう、『関連陳列』のデメリットはふたつあります。
まずひとつ目。
『関連陳列』をした商品は、本来の陳列場所にも置かれることになりますよね?
たとえば、『関連陳列』コーナーに置かれたグローブは、防具コーナーにも置かれることになります。
同じ商品2箇所に置かれることになりますから、在庫のチェックに混乱をきたすことがあるんです。
ただこれは、在庫把握をする人間がしっかりしていれば、防ぐことができます。
そしてもうひとつのデメリット、こちらが厄介なのです。
『関連陳列』というのは、商品選択の幅を狭めることになります。
最初に『関連陳列』を行なった、盗賊がメイン顧客である店舗がありましたよね?
そこを例にすると、ナイフの品揃えを犠牲にして、関連陳列スペースに作り替えました。
盗賊になりたての初心者がお客様の場合は、商品の選択肢を少なくして、セット販売するほうが良いのですが……。
相手がベテランの盗賊になると、そうはいきません。
彼らは自分の肌にあったナイフ、グローブ、ピッキングツールというものがありますから、セット販売には目もくれないのです。
自分がいつも使っているものが取りそろえてあることが重要なんです。
『関連陳列』では商品の選択肢を減らせることがメリットなのですが、それがデメリットになってしまうというわけですね。
そして『関連陳列』は店の雰囲気も大きく変えます。
初心者の方には非常に入りやすく、親しみやすい印象にできるのですが……。
ベテランの方には素人くさい、といった印象を与えてしまうんです。
これでわかりましたか?
そうです。
『関連陳列』というのは、その店のメイン顧客によっては、客離れを加速させてしまう場合があるんです。
そのため、店の特性も考えずに『関連陳列』を導入することは、愚の骨頂といえるでしょう」





