61 悔悟
『駄犬⇒金狼』 第1巻、発売中です!
書籍化にあたり、大幅な加筆修正をさせていただきました!
プリムラやマザーのサービスシーンはもちろんのこと、プリムラがおじさまを好きになるキッカケとなった『初めての体験』が明らかに……!
また勇者ざまぁも新たに追加! あの勇者の最期が描かれています!
さらに全ての始まりとなった、ゴルドウルフの『初めての追放』がついに明らかに……!
若きゴルドウルフの姿は必見です!
そして、第1巻の最大の目玉となるのは、勇者の始祖である、ゴッドスマイルが『初めての登場』……!
世界最強勇者の姿を、ぜひその目でお確かめください!
まさに第1巻は『初めて』だらけ……!
目にしたあなたはきっと、『初めての衝撃』を感じていただけることでしょう!
そして読んでいただければWeb版がさらに楽しくなりますので、ぜひお手にとってみてください!
話は現在へと戻る。
廃屋に拉致され、樽へと詰められたステンテッド。
自分はかつてゴルドウルフに救われていたという衝撃の真実を知らされ、余命宣告を受けた以上のショックを受けていた。
顔面は蒼白、元々残り少なかった髪の毛はハラハラと抜け落ち、もはや枯木のよう。
「わ、ワシが、あのオッサンに救われていただなんて……」
ナイフ片手にステンテッドを囲んでいた『ジン・ギルド』のチンピラたちは怒鳴りつけた。
「テメーは組長の、唯一の恩人といわれる伝説のお方に、俺たちをけしかけたんだ!」
「本当だったら今頃、俺たちは指どころか四肢ごともがれて、海の底だったんだぞ!」
「でもゴルドウルフさんが俺たちのことを許してやってくれて、言ってくださったんだ!」
「ゴルドウルフさんはすげぇお方だ! 組長が命を預けるほどのお方なんだよ!」
「テメーはそのゴルドウルフさんに助けられておきながら、ゴルドウルフさんの店をメチャクチャにしようとした……!」
「テメーは仁義もクソもねぇ、最低野郎だっ!」
よってたかって責められて、ステンテッドは真っ青になって震えるばかり。
まるで鏡に囲まれたガマのように、脂汗まみれになっている。
「う……うそ、だ……! うそだうそだうそだっ……!」
「ウソなわけねぇだろっ! だったらなんでテメーはこんな目に遭わされてると思ってんだよっ!?」
『ジン・ギルド』はまるでひれ伏すように『スラムドッグマート』から手を引いていた。
そしてステンテッドを拉致し、今まさにオトシマエをつけようとしている。
彼らは勇者組織よりも、スラムドッグマートを選んだのだ。
このことが意味することは、ひとつしかない。
しかしステンテッドは頑なに信じようとはしなかった。
「ううっ……! ううううっ……! うそだぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
しかしとうとう、精神が崩壊してしまったかのように、ダムが決壊してしまったかのように、
……ドバッ!
涙を、放出させたっ……!
「ううっ……! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
絶叫が、吹き荒れる潮風が、廃屋の壁をカタカタと揺らす。
「ワシはなんてことを! なんてことをっ! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
彼の頭の中には、ゴルドウルフとの思い出がフラッシュバックしていた。
『はじめまして、店長のゴルドウルフです。ガンクプフルのゴージャスマートの立ち上げにあたって、これからみなさんに、店員としてのノウハウを教えたいと思います』
『ステンテッドさん、発注数が間違っています。この伝票は100セット単位の発注となるので、下2ケタが省略されているんです。このままだと、100倍の数が届いてしまいますよ』
『えっ? もう発注してしまったんですか? それほど前だと、もう取り消しは無理ですね。なんとかして売り切る方法を考えましょうか。売れ残って破棄するようなことがあったら、私が責任を取るんで大丈夫です』
『ステンテッドさん、あなたには物事を推し進めようとする力があります。でもいったんこうと決めたらまわりが見えなくなりますので、走り出す前に立ち止まって、まわりを確認してみるといいですよ』
『そうです、その調子です。あなたの情熱が、お客様に通じたんですよ』
『ステンテッドさんの夢は調勇者になることなんですか? なら、私のほうから新規店舗の店長になれるように、推薦しておきますよ』
『ステンテッドさん、店長就任、おめでとうございます。これで私と同じ立場ですね』
『ララコインさんのことが、好きなんですか? なら、堂々と想いを打ち明けるべきです。ステンテッドさんがいつもお客様にしているように、まっすぐな気持ちを』
『ステンテッドさんの店が、不採算……? なら店長を交代して、私がテコ入れをしましょうか。ステンテッドさんは私のお店の店長をしてください。店にはランさんという、ちょっと気性の荒い女の子がいるので……』
『ステンテッドさん、ランさん、ガンクプフルのゴージャスマートが軌道に乗ったので、私はここを去ることになりました。次はロンドクロウでの立ち上げを行ないます。おふたりとも、お元気で……』
思えば彼の店員人生の半分は、ゴルドウルフでできていると言っても過言ではなかった。
いまステンテッドは、その想い出に押しつぶされそうになっていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
暴れるあまり樽ごと倒れ、ゴロゴロと転げ回る。
廃屋の腐れかけの壁を破り、外に転がり出ていった。
涙の絶叫とともに坂道を転がりおちるステンテッド。
廃屋にいたチンピラたちは、ドップラー効果を残して小さくなっていく樽を、追いもせずに見送っていた。
「樽にナイフを刺して、少し怖がらせてやるつもりだったんだが……」
「もう、その必要も無さそうだな」
「あの『ラクガキ勇者』も、きっと反省してることだろう」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
ステンテッドは慟哭とともに、坂道のふもとにある岩に激突。
……ドガァァァァァァーーーーーーーーーンッ!
樽が大破して、危機一髪の海賊のごとく、全裸のまま飛び出す。
そのまま道の片隅に、路傍の石のように転がる。
「うっ……! うぐっ……! うぐぅぅぅぅぅーーーーっ!!」
それでもなお地に伏せ、ステンテッドは泣きじゃくった。
「ううっ……! オッサン……! オッサンオッサンオッサン……! オッサンぁぁぁぁぁぁんーーーーっ!!」
彼は後悔のあまり、生きたまま皮膚を剥がされているかのように悶絶する。
……あのオッサンは、いつでも陰で支えていてくれていたのだ。
いっしょにいる時はもちろんのこと、そうでない時でも。
ステンテッドはそのことに今ようやく、気付いたのだ……!
「うわぁぁぁぁぁぁんっ!! オッサンオッサンオッサン!! おっさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!!!」
そのへんにあった草をむしり、土を食らい、岩に頭を打ち付ける。
しかし、あふれだす激情は止まらない。
爪が剥がれるのも構わず、樹の幹にギギギギと爪立てる。
そばにあった茂みに飛び込み、イバラに全身を巻かれる。
オッサンのありがたさに気付いた者たちは、みな、悔恨の棘に全身をさいなまれる。
そして……2パターンに分かれる。
ひとつめは、かつてのミグレアのように……。
セブンルクスにいる、かって勇者であった者たちのように……。
オッサンに、空前絶後の感謝を抱く者……!
残る、もう1パターンはというと……。
……バッ!
茂みから飛び出したステンテッド、その頭には偶然、イバラの冠が巻かれていた。
血の涙をあふれさせる瞳は、マグマのように光っている。
「わ……ワシが、あのオッサンに助けられることなど、ありえんっ……!
あるのは、地に這いつくばるあのオッサンを、ワシがあざ笑う事のみ……!
なぜならば、ワシは……ワシはっ……!
ワシの力で店長になったあの日から、あのオッサンを超えていたのだからっ……!
だからこそワシは、あのオッサンが惚れていたララコインを奪った!
だからこそワシは、あのオッサンが育てたランを、倉庫番に追いやった……!
だからっ……!
だからだから、だからっ……!!
ワシがあのオッサンより劣ることなど、あってはならんのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」





