58 1巻発売記念番外編 旋風と太陽38
『駄犬⇒金狼』 第1巻、発売中です!
書籍化にあたり、大幅な加筆修正をさせていただきました!
プリムラやマザーのサービスシーンはもちろんのこと、プリムラがおじさまを好きになるキッカケとなった『初めての体験』が明らかに……!
また勇者ざまぁも新たに追加! あの勇者の最期が描かれています!
さらに全ての始まりとなった、ゴルドウルフの『初めての追放』がついに明らかに……!
若きゴルドウルフの姿は必見です!
そして、第1巻の最大の目玉となるのは、勇者の始祖である、ゴッドスマイルが『初めての登場』……!
世界最強勇者の姿を、ぜひその目でお確かめください!
まさに第1巻は『初めて』だらけ……!
目にしたあなたはきっと、『初めての衝撃』を感じていただけることでしょう!
そして読んでいただければWeb版がさらに楽しくなりますので、ぜひお手にとってみてください!
インキチによって新たなデスゲームの開始が宣言された頃、ホーリードール家の姉妹は、馬車に揺られていた。
自分たちがデスゲームの標的になっているとは、彼女たちはつゆほども気付いていない。
幸せいっぱいのリインカーネーションに、プリムラが尋ねた。
「そういえばお姉ちゃん、『聖心披露会』でひとつだけ気になっていたことがあったのですが」
「あらあら、なあに? プリムラちゃん」
「最後にインキチさんとおやりになった『旋風と太陽』で、どうしてお姉ちゃんは親になりたいとおっしゃったんですか? もしかしてお姉ちゃんはインキチさんが使う奇跡をご存じで、それを跳ね返して勝つために……?」
するとリインカーネーションはふるふると首を左右に振った。
「ううん、ゴルちゃんがそうしろって言ってたから、そうしただけよ」
「おじさまが……?」
「うん。ママが『聖心披露会』に参加するって言ったら、ゴルちゃんが、インキチちゃんと遊ぶことがあったら、親になるといいですよ、って」
「そうだったのですね。でもなぜ、おじさまがそのようなことを……?」
「それはきっと、ゴルちゃんがママに、ママになってほしいって思っているんだわ。『親になれ』ってことは、『ママになれ』って言っているのと同じことでしょう?」
「そ……そうでしょうか……?」
「わざわざそんなことを言わなくても、ママはもうゴルちゃんのママなのにねぇ。でもそんなところがかわいいでちゅよねぇ、ゴルちゃんは! ギュッてしちゃう、チュッてしちゃう! チュッチュッチュッチュッ!」
リインカーネーションはたまらなくなったのか、タコのようなキス顔を作り、プリムラに迫る。
その大聖女の威厳のカケラもない顔を見ていたたプリムラは、「あ」と声をあげた。
「そういえば、大切なことを忘れておりました!」
「あらあら、まあまあ、どうしたの?」
「お姉ちゃんは奇跡で、『かゆみ』を飛ばしたのは初めてだったんですよね? 飛ばした『かゆみ』がどうなったのか、まだ確認していません!」
『いたいのいたいのとんでいけ』は被術者から取り除いた感覚を、攻撃魔法のように飛ばしてしまう奇跡。
本来の用途としては、『痛み』を取り除いて飛ばすものである。
飛ばされた『痛み』は直進する性質があり、距離を飛ぶことにより威力が薄れていき、やがては消える。
『かゆみ』を飛ばしたのは今回が初めてだったので、どんな性質を持っているのか確かめるつもりでいたのだ。
しかし彼女たちは、優勝賞品を手にした嬉しさのあまり、それをするのをすっかり忘れてしまっていた。
曇る表情のプリムラに向かって、リインカーネーションはあっけらかんと言う。
「たぶん大丈夫よ。それになにかあったとしても、インキチちゃんがなんとかしてくれるわ」
「そ……そうですね。インキチさんも心を入れ替えられたようですし」
この聖少女たちは基本的に、人を疑うことを知らない。
そして、どこまでも人を信じる。
だからこそ、彼女たちは多くの人たちから、慕われているのだ。
……が、甘いっ!
甘すぎるっ……!
知らないのだ、彼女は……!
真の人間が、どんなものなのかを……!
その彼女は外の戸口を指さしながら、高らかに笑っていた。
「さぁ、行くのです! わたくしの駒たちよ……! ヌフフフフフ……! オヌゥゥゥゥゥーーーーッフッフッフッフッフッフッフッフゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーッ!!」
ふと視界の前に、何かがゆっくりと降りてくる。
それは、粉雪であった。
粉雪は、天井の開いた場内に、はらはらと舞い落ちる。
ステージの下にいた勇者や聖女も気づき、空を見上げた。
見上げると、少し早い星空のように、だいぶ早い冬空のように……。
粉砂糖を振りまいたような景色が、一面に広がっていた。
「きれい……」
勇者や聖女たちは、その幻想的な光景にかゆみも痛みも忘れて見入っていた。
そして、ハッとなる。
この、デジャヴのような感覚に……!
「うっ……!? うぎゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
ロードローラ、再びっ……!
「かゆいかゆいっ! かゆいいーーーーーーーーーーーっ!!」
「どこもかしこもかゆっ!? かゆすぎるぅぅぅーーーーーーーーっ!!」
「かゆすぎて死ぬっ!? かゆすぎて死ぬぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーっ!!」
嗚呼……!
まさかっ、まさかっ……!
空に飛ばした『かゆみ』は消えるどころか……。
まさか、戻ってくるとは……!
それはお天道様すらも、知らなかった……!
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!? たすけてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
季節外れの雪が舞う空に、絶叫が虚しくこだましていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その日、ハールバリーの各地で、全裸の男女が街中を疾走する姿が目撃されたという。
みな血まみれにもかかわらず身体をかきむしり、意味不明のことを叫んでいたという。
そしてハールバリーで開催予定だった『ゴトシゴッドランド』は、主催者であるはずの大聖女が行方不明になったため中止となり、同国から撤退した。
莫大な建設費用と撤去費用が、ゴトシゴッドにのしかかったという。
しかしそんなことよりも、ゴトシゴッドにはさらに許しがたいことがあった。
それは、優勝賞品の行方である。
部下を調査にやり、黄金棺はホーリードール家で、パインパックのおもちゃ箱入れとして使われているのを確認した。
しかし権利書だけは、同家のどこにも見当たらなかったという。
それも当然である。
権利書はすでに、パインパックの芸術の礎となって消費されていたからだ
その後の部下の調査により、ホーリードール家が権利書をらくがき帳がわりにたという情報が入ったが、それをゴトシゴッドは一蹴した。
あの『神へのパスポート』と呼ばれるほどの権利書を、らくがき帳がわりにする人間など、この世にいるわけがない……!
きっとインキチがデマの情報を流し
持ち逃げしたに違いない……! と……!
ゴトシゴッドは即日、インキチを指名手配したという。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それから数日後、スラムドッグマートで働いていたリインカーネーションの前に、多くの聖女の卵たちが押しかけた。
「あらあら、いらっしゃい、かわいい聖女さんたち。はじめまして、わたしがママよ」
「リインカーネーション様、どうか私たちを、ホーリードール家の門下生にしてください!」
「あらあら、あなたたちのローブには、他の聖女家の紋章が入っているようだけれど……?」
「はい。実は私たちは他の大聖女様に師事しておりました」
「でもこのまえの『聖心披露会』で、大聖女様からの離別を決意したのです」
「あの方たちの説かれている愛は、耳障りはよいのですが、すべてまやかし……私利私欲を肥やすためのものだと気付いたのです!」
「私たちは大聖女様を病院にお連れしていたので、運良く『白き音符と赤き線譜』にかからなくてすみました!」
彼女たちは聖女一門の中でも下っ端。
そのため、『聖心披露会』で負傷した大聖女の付き添いを、他の先輩聖女たちから押しつけられていた。
先輩聖女たちは、ゲームに無残に敗れた大聖女に媚びを売るよりも、勇者といたほうがよいと判断していたのだ。
しかしそれが皮肉にも、運命を分かつことになる。
大聖女と同じくらい打算的で、欲の皮の突っ張った先輩聖女たちは、街中を全裸疾走させられたおかげで、すっかり落ちぶれ……。
家が貧しいからという理由で、入門してもずっと下っ端をやらされていた聖女たちは、本当の愛に気付き……。
真の聖女となるために、ホーリードール家の門戸を叩いていたのだ……!
マザーは、大きな胸の前で指を絡め合わせるというお得意のポーズで、清らかなる卵たちに慈母のような微笑みを向ける。
「あらあら、まあまあ。ちょうどよかったわぁ。ゴルちゃんが『スラムドッグスクール』っていう教室をはじめるところだったの。ママとプリムラちゃんが聖女さんの教室を受け持つことになっていたから、みんなそこに入ったらいいわ!」
これにて『1巻発売記念番外編 旋風と太陽』完結です!
次回更新からは本編に戻るのですが、ここで少しだけお休みを頂きます!
ちょうどいい区切りでもありますので、評価や感想などを頂けると嬉しいです!





