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57 1巻発売記念番外編 旋風と太陽37

新作小説連載中です!


『スカッと悪役令嬢 すべての令嬢から嫌がらせされているので、逆に破滅フラグをブッ刺してやりました! そしたら婚約破棄したはずの令息たちが、急接近してきて…』


このお話の最後、あとがきの下に小説へのリンクがあります。

絶対にスカッとできるお話なので、ぜひ読んでみてください!

 リインカーネーションとプリムラが黄金の棺を会場の外に運び出すと、停馬場(ていばじょう)で待機していた騎士たちが泡を食らうように飛んできた。


 今回の『聖心披露会』はマスコミを含め、部外者はシャットアウト。

 護衛の彼らも例外ではなく、終わるまで外で待機していた。


 しかしまさか自分たちの(あるじ)が、棺を抱えて出てくるとは思いもよらなかったようだ。

 彼女たちは慌ててリインカーネーションとプリムラから棺を受け取る。


 そもそもこれほど大きな優勝賞品を、大聖女自ら運ぶ必要などない。

 大会のスタッフに頼めば運んでもらえるし、配送にも対応しているからだ。


 しかしこの姉妹は一刻も早く持って帰りたくてウズウズしていたのだ。


 あとはこの黄金の棺を、彼女たちにとっては黄金のバスタブを……。

 『錆びた風』にセットすれば、すべての準備が整う。


 あとはあの(●●)オッサンに、入ってもらうだけ……!


 心はすっかり『成功者の嫁』気分のリインカーネーションとプリムラ。

 弾むような足取りで馬車に乗り込むと、さっさと会場をあとにする。


 本当は『聖心披露会』の後は、祝勝会を兼ねた『勇者との懇親会』がある。

 しかし彼女たちはドタキャンどころか、全く参加する意思はないようだった。


 そして多くの観客として詰めかけた勇者は、その懇親会目当てでもあった。

 ようやくホーリードール家とお近づきになれるチャンスがやって来たと張り切っており、なかには着ていく装備を一新した者までいた。


 彼らは懇親会では酔った勢いを利用して、彼女たちにソフトタッチ、あわよくばハードタッチを目論む。

 たとえ触るところまではいかなくても、あの宝石をちりばめた天の川のような瞳で見つめられ、鈴音のような声を(じか)にかけてもらえさえすれば……。


 それだけで、勇者仲間に差を付けられる……!


 しかし現実は、一瞥すら得られなかった。


 主役のいなくなった『聖心披露会』の場内は、嵐が過ぎ去った後のように静まり返っていた。


 勇者も聖女も司会もみな、棒立ちのまま、開きっぱなしの戸口の向こうをぼんやりと見ている。

 戸口から吹き込んでくるそよ風に前髪を揺らしながら、小さくなっていく馬車を忘我の極地で見送っていた。


 いま思えば、ホーリードール家の姉妹は、どこまでも自由だった。

 そして、神がかっていた。


 第1ゲーム『庶民への愛』では、札束飛び交うなか、彼女たちだけは庶民から、無償の愛を受け……。


 第2ゲーム『勇者への愛』では、自分が受けるのが当たり前の試練を、すべて勇者になすりつけ……。


 第3ゲーム『隣人への愛』では、心の底からパートナーを信じ、誰もが足のすくむ地雷原を、走り抜けてみせた……。


 今回の『聖心披露会』はいわば、裏切りと絶望しか入っていないはずの、パンドラの箱。

 開けた誰もが恐怖に泣き叫び、憎悪に顔を醜く歪めていたというのに……。


 彼女たちだけは、信頼と希望の詰まったチョコレートの箱のように……。

 甘い愛を味わい、また振る舞い、はちきれんばかりの笑顔で満喫してみせたのだ……!


 「め……女神だ……」と誰かがつぶやいた。


 ……しかし、不思議に思うことはないだろうか?


 大会中はあれほど妨害を重ねてきた人物が、急になりをひそめたことに。


 延長戦のゲームに敗北してからというもの、今大会のコミッショナーであるインキチは、再び裏方に徹していた。

 閉会式ではステージの隅で穏やかな笑顔を浮かべ、観客にあわせて小さく拍手までしていた。


 あれほど出し渋った優勝賞品も、物言いをつけることなくあっさりと明け渡す。

 『黄金の棺』も『スマイル霊園の権利書』は、彼女にとっては心臓と脳と呼べるほどに、大切なものであった。


 夫であるゴトシゴッドから託されたそれは、多くの魚を釣るための最高級の疑似餌。

 それをまんまと持って行かれたとわかったら、彼女はただではすまないはずなのに……。


 やっぱり彼女は本当に、ホーリードール家の愛にほだされ、真の聖女の心に目覚めたのだろうか?


 ……否っ……!


 彼女は、待っていたのだ……!



 ……ギンッ!



 それまで壁の花のようだった彼女の瞳が、かつての光を取り戻す。



 ……博徒は、地獄に咲き乱れてこそ、華……!



 そう。彼女は絶体絶命ともいえるこの状況においてもなお、あきらめてはいなかった。



 むしろ虎視眈々と、チャンスを待っていたのだ……!



「それでは皆様、最後のおゲームと、しゃれこみましょう……!」



 そう宣言しながら、ステージ中央に歩み出るインキチ。

 それまで外を眺めていた観客たちは、「ええっ!?」と振り返る。



「最後のおゲームの名前は、『愛・絶章』……! ルールは簡単です。どんな手段を用いになられてもよいので、白豚聖女様から、優勝賞品をお返しいただくことでございます……!」



 平たく言えば、ホーリードール家から優勝賞品をぶんどってここにもってこいという意味であった。

 これにはさすがに勇者たちからも、批判の声があがる。



「おい、どういうことだよそれっ!?」



「ホーリードール家は文句なく優勝だって、お前も認めてたじゃねぇか!」



「それなのに賞品をあとから取り戻すだなんて、汚えぞ!」



「そんなこと、誰がやるかよっ!」



 ある意味当然のブーイングであったが、インキチはどこ吹く風。



「この最後のおゲーム、参加は自由でございます。しかし参加になられない場合は、より酷くなることでしょうねぇ……」



 彼女がフンと鼻を鳴らした瞬間、眼下の観客たちに異変がおこる。



「うっ!? うぐぐっ!? 股間がっ!? 股間がぁぁぁっ!?」



「ああんっ!? デリケートゾーンがっ!? た、耐えきれないほどにっ!?」



「かっ……! かゆいいいいいいーーーーーーーーーーっ!?!?」



 勇者と聖女たちは尋常ならざる尿意を感じたかのように股間を押え、その場で一斉に飛び跳ねはじめた。


 ……インキチは、残していた。


 『白き音符と赤き線譜スムーズ・ムズムズ・リズム』を、解除したかに見せかけて……。

 股間の白カビだけは、そのままにしていたのだ。


 肌が露出した部分の白カビを全て取り除けば、一見して完治したように見せかけられる。

 ホーリードール家は、わざわざ股間の中までは調べようとはしないだろう。


 そしてホーリードール家がいなくなったあとに、残したものを時限爆弾的に爆発させてやれば……。

 観客の勇者と聖女たちは、彼女の駒と化すっ……!


 まさに『インキ○・オブ・ソイホイ』と化したインキチ。

 老木のような身体をしゃがみこませ、嬉しくないM字開脚を観客たちに向かって披露する。



「さぁ、おゲームのスタートでございます……! 白豚から、わたくしの大切なものを取り戻しいただけた方だけ、そのかゆみを取り除いてさしあげるのでございます……!」



 彼女は裂けんばかりに口を開くと、高らかにゲーム開始を宣言した。



「さぁ、行くのです! わたくしの駒たちよ……! ヌフフフフフ……! オヌゥゥゥゥゥーーーーッフッフッフッフッフッフッフッフゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーッ!!」

新作小説連載中です!


『スカッと悪役令嬢 すべての令嬢から嫌がらせされているので、逆に破滅フラグをブッ刺してやりました! そしたら婚約破棄したはずの令息たちが、急接近してきて…』


このあとがきの下に小説へのリンクがあります。

絶対にスカッとできるお話なので、ぜひ読んでみてください!

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― 新着の感想 ―
[良い点] イカサマ ついに強行をやっちゃいましたか!(ニヤリ) クズ勇者たちを無理矢理脅してインチキやらせてしまった以上 もはや言い訳できませんね!(ニヤリ) [一言] ところで優勝賞品は 拒否され…
[良い点] やっぱり懲りていなかったかインチキ!! やはりこいつはザマーと同類ですな・・・! ならば、たどる末路も・・・ [一言] 大人しく改心していれば良かったものを・・・どうなっても知らんぞ?
[良い点] 性悪は飛んでなかったっΣ(゜Д゜)!! 悪は悪のままだったっΣ(゜Д゜)!! ままだったっΣ(゜Д゜)!! ※エコー(笑) インチキ~だけにインチキ~(笑) ホーリー姉妹に危機再びっ!…
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