56 1巻発売記念番外編 旋風と太陽36
新作小説連載中です!
『スカッと悪役令嬢 すべての令嬢から嫌がらせされているので、逆に破滅フラグをブッ刺してやりました! そしたら婚約破棄したはずの令息たちが、急接近してきて…』
このお話の最後、あとがきの下に小説へのリンクがあります。
絶対にスカッとできるお話なので、ぜひ読んでみてください!
まるで怪盗からの怪盗からの犯行予告を受け取った秘宝のごとく、多くの警備員たちに守られながら登場したそれは……。
一枚の、権利書であった。
『優勝賞品は、ななななっ、なんとぉーーーーーっ!! 「スマイル霊園」の入園権じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーんんっ!! ジャンジャン、バリバリィィィーーーーッ!!』
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!」
今大会における最高潮ともいえる歓声が、ひらきっぱなしの天井から空へと噴き上がっていく。
『スマイル霊園』。
ゴッドスマイルが没後に入るとされている霊園である。
そこは所在地は極秘となっているのだが、天国がひと足先に降りてきたような場所だという。
となれば、誰もが入りたがるであるが、いくら金を積んでも、どんな大国の王も入ることはできない。
あくまで、選ばれたごくわずかな者のみが入ることが許される、ノアの箱船。
この霊園に入ることができた者は、ゴッドスマイルの死後、彼の魂とともに天国へと登れるという。
それどころか、神々の仲間入りを果たすことができるとされているのだ……!
今回の『聖心披露会』の優勝賞品は、『伝説の黄金棺』と『スマイル霊園の権利書』という、伝説と神話のよくばりセット。
伝説の棺に遺体を納められるのは、これ以上ない、最高の人生の終わりを意味する。
そしてそのあとは、神話への仲間入りまで約束されているとなれば……。
これ以上ないほどの、新しい人生の始まり……!
まさに死後の世界でも、勝ち組となれるのだ……!
「じゃあプリムラちゃん、そっちを持って」
「はい、お姉ちゃん」
しかし姉妹は権利書には目もくれず、再び棺を運び出そうとしていた。
『ちょちょっ、待つじゃん!? 「スマイル霊園」の権利書じゃん!? なのになんで、そんなびっくりするぐらい興味ないんじゃん!? あっ、さてはレプリカだと思ってるじゃん!? これは正真正銘、本物の本物じゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーんっ!! ジャンジャン、バリバリィィィーーーーッ!!!!』
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!」
観客たちは興奮のるつぼと化していたが、姉妹は司会者の言うとおり、驚異的なまでに興味を示していなかった。
リインカーネーションは立場上、プレゼントをもらう機会が多い。
それは豪華なものから貧相なものまで様々。
いつもであれば、幼児からへんな落書きをもらっても感激し、その幼児をギュッと抱きしめるという最大限の感謝を示すのだが……。
この、神の権利書に対してだけは、なぜか……。
「ママはいらないわ」
まるでゴミのように、バッサリ……!
しかしプリムラは違っていた。
「こ……これは……! よく見ると、素晴らしいものです……!」
大きな瞳をことさら見開き、ガラスケースに近づいたかと思うと……。
震える手つきで権利書を取り出していた。
本来、この権利書は素手で扱ってよいものではないのだが、もはや彼女たちのものなので、文句を言う者はいなかった。
それをいいことに、聖少女はさらなる暴挙に出る。
なんと権利書を、折りたたんで二つ折りに……!?
「あっ……!?」
それはあっという間の出来事だったので、周囲は止めることも悲鳴をあげることもできず、真っ白になっていた。
すっかりコンパクトになった権利書を手に、聖少女は清らかな笑みを浮かべる。
「見てください、お姉ちゃん! この紙、裏が真っ白ですべすべしてないです! こうやってふたつに折って、お家に帰ってから切れば……」
「あらあら、まあまあ! パインちゃんのお絵かき帳にピッタリね!」
……ホーリードール家は、何不自由なく暮らしているように見える。
多くの寄付を受け取り、豪邸で住んでいるはずなのだが……。
その暮らしぶりは、実に質素であった。
住んでいる屋敷や土地は国王が用意してくれたもので、調度品なども領主がくれたものである。
しかしそれらは引っ越すことがあれば返還するつもりでいた。
着ているものは基本的に手作りで、食事も中流家庭の手料理レベルである。
姉妹の趣味も料理や庭いじりなどのお金のかからないもので、絵を描くのが趣味な三女はチラシの裏を使って描いている。
それほどまでに節制しているのであれば、うなるほどに貯金があってもおかしくはない。
しかしホーリードール家は、いざという時のための最低限の金を残し……。
それ以外は全部、貧しい村や子供たちに、寄付していたのだ……!
「今日はとってもいい日だわぁ、こんな素敵なバスタブがもらえたうえに、お絵描き帳までもらえるだなんて!」
「パインちゃんも喜びますね! 早く帰りましょう!」
とうとう姉妹は権利書をポケットにしまい、黄金棺を抱えてステージを降りる。
その超然とした様を、呆然と見送る者たち。
しかし司会者はふと我に返って、すがるように呼び止めた。
『ちょ……! ちょちょっと待つじゃんっ!? リインカーネーション様もプリムラ様も、スマイル霊園に入りたくないのかじゃん!? あっ!? まだウソだと思ってるじゃんっ!? それとも夢だと思ってるじゃんっ!? これはホントにホントのホントの、ホントにホントのホントなんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーんっ!!!!』
しかし姉妹は、棺を運ぶ足を止めすらしない。
まるで角砂糖を運ぶアリのように、これこそが全てだと、未練もなさそうに答えた。
「ウソでも夢でも、スマイル霊園には興味ないわぁ! ママたちはもう、入るお墓は決めてるのーっ!」
「そうなのです! 申し訳ありませーんっ!」
『えええっ!? いくら入るお墓を決めてるといっても、スマイル霊園じゃんっ!? これ以上の墓はこの世にはないとされているじゃんっ!? い……いったい、どこのお墓に入るつもりじゃんっ!?』
すると彼女たちは、ピタリと足を止めた。
あれほどの呼び止めても暖簾に腕押しだったのに、この話題には食いついたのだ。
リインカーネーションとプリムラは、よっこらしょ、と棺を降ろす。
会場にいるみなに向き直り、わざわざ居住まいを正した。
そして大切なことを発表するかのように、「せぇーの」で声を揃える。
「ママ(わたし)たちが入るのは……。ゴルちゃん(おじさま)のお墓でぇーーーーーーーーす!!」
その頬を上気させた、昇天するような乙女のリアクションこそが……。
司会者がもっとも待ち望んでいたものであった。
彼は、思わず漏らす。
『だ……誰じゃん、それ……』
彼はまだ、オッサンを知らない。
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『スカッと悪役令嬢 すべての令嬢から嫌がらせされているので、逆に破滅フラグをブッ刺してやりました! そしたら婚約破棄したはずの令息たちが、急接近してきて…』
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絶対にスカッとできるお話なので、ぜひ読んでみてください!





